山口花梨は
山口花梨は
真面目を絵にかいたような女子、しかも正義の塊と来ている。
彼女が狙っているのは弁護士か又は裁判官か?
どちらにしても相当頭が良くなければなれない業種であり、そんな職種を狙っている彼女はかなり頭も良かった。
だが自らを危険に向かって突き進むと言う生き方は、どんな世界でも推奨される生き方とは言えない。
ほとんどの女子が蝶よ花よと育てられる昨今、彼女だけが違う道へ進もうとしている。
まあそれは理解できなくもないが端から見ていると危ないのではと感じてしまう、そして俺は今時の事なかれ主義の子供の一人。
そこまでのこだわりと言うか信念が有るわけではない。
但し、関わってしまったのならば逃げるわけにはいかない、それが俺に残っているちっぽけな正義感なのかもしれない。
「おつかれ~」
「おつかれさまー」
「ねえ、今日も話が有んだけど」
「じゃあいつもの場所で」
「ああ」
アプリの世界、その記憶を持っているのは俺だけという事になっている。
スマホに入れられたアプリの正式な保有者、それ以外の参加者があの世界から記憶を持ち帰ることができないと言う話。
それは行方不明になった女子達が何故死んだのかも、その理由も分からないと言う事。
ファーストフードの店、すでに夜の10時は過ぎており。
遅い晩飯をジャンクフードで済ませる若者が数人カウンター越しに外を見ながらスマホを操作している。
俺と山口さんは少し離れた場所の向かい合って座るテーブルへと移動し腰掛けた。
「ノブくん髪の毛変えた?」
(ノブ君?前までノブユキと呼び捨てだったはず)
「ああ、少しね」
「背も伸びた?」
「そうかも…」
「昨日と比べて別人にみえたよ」
「そこまで変わったかな~」
「いや、それよりまた遺体で一人見つかったって連絡来た」
「男?女?」
「男子の方」
「確か男子も全員行方不明になったんだよね」
今迄の出来事を時間で追うと、最初に俺と山口さんが彼らとカラオケ屋で会ったのが1週間前の土曜日。
そして四日後に女子が3人遺体になって発見され、その1日後に男子が一人行方不明に。
さらに1日後、俺と山口さんがあの世界へと導かれる、もしかしたら男子2名も同時に招かれた可能性がある。
帰還するには数日の誤差が出ることもある、あちらの世界に長くいればいるほど帰還する日付けも変わって来る。
当日にあの世界へと招かれてうまく立ち回り帰還できたならば、本人も周りの人間でさえ記憶に残っていない可能性がある。
だが3人の男子のうち1名の遺体が発見されたと言う事らしい。
「遺体で見つかった男子はあーしを押さえつけていたやつ」
アプリの世界で聞いた話しと実際に俺が会った奴の事を思い出す。
確か女子の中では一人山口さんの腐れ縁とかいう友人は、まだ見つかっておらずアプリの世界に生存している可能性が高い。そしてもう一人、こちらは男子で俺の上にまたがりアプリを起動して写メを撮ったやつだ。
そいつは商隊の護衛になるべく今頃は剣術に体術にと過酷な指導を受けているはずだ。
出来ればあの世界で一生出てこない方が世のためだが、努力次第で現実世界へと復帰できる可能性が彼らにも残っている、真人間に更生してくれるのならばその方が良い、あれぐらいのいじめで死ぬこともないだろう。
「えーと、これから質問しようと思うんだが…」
「何?告白?」
「ちがう ちがう」
「なんだよ、いくじネーナ」
「え?」
「何でもないよ」
「で、質問って?」
「昨晩の事、いやヘブンスバースの事、覚えてない?」
「何それ?ゲームの話?」
「じゃあ勇者カリンは?」
「勇者?カリンってあーしの名前ジャン」
「どのゲーム、自分の名前の勇者か…ビジュアルはどんな?」
どうやらアプリの世界の出来事は全部覚えていないらしい。
「よく聞いて、できれば笑わないでほしい」
「いつになく真剣だな…分かったマジで聞いてやんよ」
そこからはアプリの世界で悪者や悪魔たちを倒し経験を積んで現世へと復帰するまでの事を、できるだけわかりやすく説明してみた。
「面白そうなゲームじゃん」
「やっぱり覚えてないんだ、山口さんも参加していたんだよ」
「あーしが?」
説明の後、俺は自分のスマホを取り出しインベントリーの中身を表示させる。
そこにはカリンと書かれたファイルが保存されており、何故それが俺のスマホにあるのかも説明した。
「山口さん、これ受け取ると例の事件の真相を俺と解き明かす事になるけど」
「元々事件の真相は調べる予定だったはずじゃん」
「ああ、たしかに」
「あーしのスマホ、ゴソゴソ」
そう言いながら山口さんがスマホを取り出すと起用に指でいくつものアプリを操作しその中から無線通信のアプリを起動させる。
「送って」
「あ うん行くよ」
データは数秒で花梨のスマホへと送られてきた。
「なんだか怖いんだけど」
「いまさら」
「嘘だよ、じゃあ開けるぜ」ニッと微笑む
たまたまファーストフード店の2階には俺達2名しかいない時間帯になり。
俺達2名は端から見ると恋人同士に見えたかもしれない、だがそのたまたまが良かったのだと思う。
花梨のスマホに送ったデータ、それを彼女がツータップで開いたとたん、目の前に座る花梨の体が光に包まれた。
「ピカッ」
「まぶしい」
多分外にも光が漏れたかもしれない、だがたまたま窓の外に歩いている人は殆ど背を向けていた。
そんな偶然が一瞬の時間に重なって起こるなんて、運命とか神とかの存在を感じてしまう。




