ライブハウスでの事件後
ライブハウスでの事件後
もちろんこの事件は新聞に出た、地下のライブハウスで火災。
原因はコンセントからの漏電と発火場所に積みあがっていた機材搬入に使用した段ボールなどが原因だと。
特にバンドがいた場所の燃え方がひどく、記事には壇上にいたバンドメンバー全員が死亡したという痛ましい火災事故ということだった。
もちろんその他にも10人以上の客が犠牲者となり、俺達を含め20数名が生き残れたのは奇跡だという。
本当は最初に目覚めた柚子が異変に気付き、空間魔法によって空気を確保したこと。
その時は既に壇上は火の海であり、かなり燃え上がった所でようやくスプリンクラーが作動したという。
まあそれでも俺達は生きて戻れたのだから、まだましな方かもしれない。
「おい、ノブユキ」
「なんだよミツル」
「ごめん」
「珍しいな、お前が謝るなんて」
「俺が調子に乗ってあんな場所に行かなければ…」
「それ以上は言うなよ、俺達は助かった、そうだろ」
「ああ」
事件の後、彼はかなりショックを受けたらしい。
それまでのチャラかった言動がほとんどなくなり、ニヘラっとしていた顔つきもやや引き締まっている。
まさかアプリのせいで性格が変わったとか?いやいや彼は流魂者であり経験は全部白紙に戻っているはず。
もしもデータの影響が少しあって良い方行に変わるのならば俺からは何も言うことはない。
だがこんな面倒な事件事故に巻き込まれるのは二度と御免だと言うしかない。
「ところで合コンのことなんだが」
「はあ?」
彼のそう言うところは事件後も変わらないらしい。
但し、いつの間にか付き合っていたであろう彼女の数が一人に絞られていた。
「なんだよ、俺の顔に何か付いてるのか?」
「いや、合コンって」
「柚子ちゃんと明菜ちゃんには悪いことしたからな、だから仕切り直しだよ」
「そういう合コンか」
「別にノブユキも鬼姫連れてきて構わないぜ」
「ああ…え!」
おぼろげに思い出す、何か良からぬことをしたという記憶。
別にそれは俺だけのせいではないのだが、思い出せそうで思い出せない。
あの場所での記憶を持ち帰ったのは俺と柚子、そしてデータを渡す約束をした未来だけ。
未来の住所は柚子が受け取ったので、俺から何らかのアクションをすることはないが。
柚子が未来にデータを渡した後は連絡をもらうことになっている。
1年以上あの世界にいて帰還する未来はどういう設定で現世に帰還する形になるのかは俺にもわからない。
1週間後かそれともすでに1年前に帰還して何食わぬ顔で生活しているのか。
今回のデスアプリ内のクエストで帰還できたのは既に20人以上いるはずだ。
しかも俺達勇者組とは違うルートの流魂者が数人いる、彼らはライブハウスではなく別な場所で生還するはずだ。
「ノブユキ」
「なんだ?」
「何考え事してんだよ」
「鬼姫の事、どうやって誘うかだよ」
「そんなの簡単だろ、お前らお似合いじゃん」
「そ そうか?」
「俺はもうあまり遊ぶのは控えることにしたよ」
「ようやく懲りたか」
「ああ 死ぬところだったからな」
「いい心がけだ」
「お前いつから大人になったんだ?」
「なんのことだよ」
「最近の言動はおかしいぞ」
「良くなったとは考えないのか?」
「俺を抜かしていくのは許せない…」
「ならば俺より男らしくなればいいじゃないか?」
「それもそうだな」
俺の顔をじろじろ見ながらなぜかそういうことを言うミツル。
俺から言わせるとミツルの方が変わったような気がするのだが。
ちなみに今回俺の容姿はそれほど変化していない、今回の異世界召喚で得られのはいくつかの魔法と動物使いのスキルぐらいだ。
魔法士は柚子曰くそれほど使う場所は無いし、使うためにはかなりの覚悟がいるという。
派手な魔法を使おうとすると現世では気絶するらしい、そして他人がいる場所では不発する確率が高い。
東京タワーでの結界魔法は、タイミングと時間を設定したことにより数分間俺と柚子だけで会話できるようにしたらしい。
もちろんライブハウスでの時も全員が気絶、もしくは眠っているという前提で空気(酸素)の供給および確保という空間魔法を使用可能にした。
それが無ければ俺も含め一酸化炭素中毒で全員死亡していたはずなのだ。
「分かった」
「日程は後で知らせる」
俺の学生生活は最初の事件以降、なかなかスリリングになっていた。
そして数日が過ぎ合コンの数日前、俺は鬼姫こと花梨に合コンのことを話そうとバイトが終わると同時に話しかけることにした。




