辺境の町
辺境の町
魔王国に入り目前に広がる魔の森を抜けて数キロ、そこにはかなりさびれた魔族の町があった。
壁は丸太を組んで作られているのか、その作りはやや雑だ。
そしていくつかのテントが町の入り口横に張られており、魔族が数人その周りをうろちょろしている。
「おい、まだか?」
「少々お待ちください…」
「ひーふー…」
なにやら町の住人とやり取りをしているようだが。
何かを売って金に換えているようだ。
「今何時でしたかね…」
「午後6時だ」
「もうむつ時でしたか、なな や」
「毎度あり~」
「またな」
(ししし、馬鹿な兵隊だ)
本来ならば8キンで取引するはずが彼は6キンで品物を買い取った。
元々いくらで買い取るかは双方の言い値だが最初に8キンと言っておいて喜ばせて。実は3キン過ぎたあたりで時間を聞いて途中を端折る。
兵士の学力も低く数をあまり気にしてはいない、特に下っ端の獣兵など金の価値をせいぜい食べ物の個数でしか判断できなかったりする。
「今日だけで100キン儲けたぞ、ししし」
トカゲのような顔をした商人、彼も魔獣の一人だが他の魔族より少し頭が良いらしく。
この町で手広く雑貨店を営んでいる、別に店を構えているわけではない。
この町での店は全て露店であり、家と呼ばれるような建物は10軒ぐらいしか見当たらない。
ほとんどが布などの簡素な屋根やどこからか拾って来た木材でできていたりする。
「おい、トカゲ」
「なんでしょ」
「食い物は売ってないのか?」
「あっしの店は道具がメインなんでし」
変身魔法で頭だけ魔族に換えて町へと潜入してみたが、外の魔族も町の中にいる魔族も。
王国に対して何の警戒もしていなさそうだ。
「しかたない他を当たる」
「へーい、またのお越しを~」
町の中に入るのも別に検問などは無く、兵士と言っても寄せ集めのような人型魔族や獣魔ばかり。
着ている服も統一性は無く、何かの皮で作られた胸当てや腰当てを無造作に羽織っているだけだった。
(うーん、この町は迂回してもよさそうだな)
特に危ない魔族がいるでもなく、将軍などという上位魔族がいそうな雰囲気の欠片もなかった。
《まるであたいら捨て石だったのにゃ》
《多分転移魔法で攻めてくることしか考えてないのかもな》
遠く聖教国の国境まで魔方陣で転送されてきたクロたち魔王国の攻撃部隊、次の部隊が送られてくるのかと思いきや、そんな状況のかけらもなく。
どうやら魔王は次の作戦でも考えているのか、はたまた何か魔王国で問題が起こっていたりするのか。
聖教国側、砦の手前にあった転移魔方陣はあらかた片付けは終わった頃、まあ若干転移魔方陣が残っていたとして、それで襲われても俺達のせいではない。
すでに勇者部隊は魔王国へと進軍しているのだ、後を守るのは聖教国の部隊であり、そこまで心配してやる義理は無いといえる。




