第三話『意外な結末』
これは私が見た不思議な夢の内容をベースに小説にしたものです。
「犯人が捕まったね」
同僚の冴子にそう言われ、なんのことかわからずに聞き返す。
「なんの犯人?」
「やだ、テレビ見てないの? もう、テレビでそればっかりやってるのに!」
「うちさ、夜は母親がいつもケーブルテレビで『刑事猫ロンボにゃー』見るから、テレビあんまり民放見ないんだよね」
「あぁ、あれ面白いもんね。猫の直感とまたたびのご褒美目当てに犯人の嘘を見破るの。って、その話じゃなくて、二十年前の未解決の殺人事件の犯人が見つかったんだって」
「どの殺人事件?」
「ほら、夢野町の家族が全員殺されちゃったやつ」
「えっ?! そうなの?」
「なんか、家にずっと滞在して子供たちが帰ってくるの待ってたり、証拠を残してたりして謎が多いとか言ってたけど、結局通りすがりの強盗だったみたい。別件でDNA調べてて犯人が見つかったんだって」
「そうなんだ」
冴子に生返事を返しながら私は、先日居酒屋で一人で飲んでいたとき相席した人物のことを思い出していた。
「喉にしみる、この一杯! か~ら~の~、唐揚げ~!!」
そう言って唐揚げを頬張り至福の時間を過ごしていると、近くに座っていた三十歳台ぐらいの男性が声をかけてきた。
「なんだか君、本当に幸せそうに飲んでるね」
ナンパかな?
そう思って怪訝な顔でその男性を見つめた。整った顔立ちで、服装も洗練されている。
なぜこんなにハイスペックな男性が私みたいな女に声をかけてきたのか、と訝しんでいるとそれに気づいたようにその男性は言った。
「いや、ナンパとかじゃなくて、なんか君となら美味しくお酒が飲めそうだなと思ってさ。ここは奢るから、一緒に飲まない?」
「なるほど、飲み友達みたいな感じ?」
「そうそう」
怪しい。だが、今月は後半に友達との飲み会も控えている。奢ってもらえるのは魅力的なお誘いだ。あとは彼氏の山田にばれなければいい話。
「飲むだけならね。私、彼氏いるし」
そう答えると、その男性は微笑んで向かいに座った。
「好きなもの頼んでいいよ」
そう言われて私は遠慮なく片っ端から好きなものを注文した。
「本当に、いい飲みっぷりで見ているだけで楽しいよ」
「そう? 私にしたらいつものことだけど」
そうしてお酒が進み私が酔い始めたころ、その男性はおもむろに話し始めた。
「俺さ、昔はかなりやんちゃしてたんだ」
「へー、そうは見えないけど」
「ありがとう。それで、変な連中とよく一緒に遊んでた。まぁ、変な連中っても少しグレただけの連中だったんだけど」
「あー、私自身はグレてた訳じゃないけど、そういう人たちとは仲良くしてたことあるな。結構いいやつ多かったよ。家が大変とかね。んで?」
「うん、俺の友達もそんな感じ。でもそんなことやってると、本当にヤバい奴らに目をつけられることがある。俺らもそんな奴らに目をつけられた」
「そんなことあるの?」
「そう、そうやって奴らは若い奴を取り込むんだ。最初はすごい儲かるとか、いい思いをさせてくれたりね。そうして小遣いくれて軽い仕事させられたらもう最後、気がつけば抜けられなくなる」
「はぇ、もしかして経験談?」
「まぁね。それで俺は親父さんの娘に気に入られてさ、結構ヤバい仕事をさせられるようになった。要は完全に引き入れて逃げられないようにしたかったんだろう」
私は思わず箸を止めた。
「それって、大丈夫だったの?」
そう言いつつも、それが本当ならここでこうしている訳がないので、彼が話を盛っているか、嘘なのだろうと思いながら話の続きを待つ。
「大丈夫、ではなかったかな。ある日公安に目をつけられた」
「捕まったの?」
彼は首を振る。
「そうじゃなくて、公安にお前の罪を見逃してやるから、情報を流せって言われたんだ」
「それ、マジなの?」
すると彼は苦笑いをした。
「信じられないよな、そんな世界。酒の肴に話し半分にきいてほしい。どうも親父さんがとんでもない連中に武器を流してたらしくて、それで公安に目をつけられたみたいだった」
「それで、流したの? 情報」
「まあね、あの頃は本当に最悪だった。親父さんにばれればただじゃすまないからな。それにそうなったとしても、公安が助けてくれる訳じゃないしね」
「きっつ!」
「でも、その後にあった出来事に比べればまだましな方だったんだ」
私は思わず身を乗り出した。
「なにかあったの?」
「俺も馬鹿じゃないから、何かあった時の保身用に公安に流したら一発でアウトな証拠は隠し持ってた」
「なるほどね、それ頭いいー」
「まぁ、俺も自分が生き残ることに必死だったからね。そんなある日、ついに俺と公安のつながりが親父さんにばれた」
「それまずいよね。どうしたの?」
「もちろん、重要な証拠を持ってるって親父さんに言って、隙を見て逃げた」
「で、今に至ると?」
「いや、俺はそのあともっとも嫌なやり方で親父さんに報復されたんだ」
「報復?」
「うん。俺にはさ、仲のいい幼馴染みがいたんだ。奴は人がよくて、面倒見もよくて真面目で、俺とは正反対な奴だった。奴だけは俺がなにしようと絶対に見方になってくれる。そんな奴だった」
「そういう友達っていいよね」
「うん。大切な親友だった。とはいっても、奴も結婚して所帯を持ってからは会わないようにしてた。俺なんかが関わったらろくなことがないからね」
「そっか、付き合ってるだけでも迷惑かけちゃうのか」
「そういうこと。だいぶ前から関係は絶っていたんだけど、親父さんはどうやってか俺とその幼馴染みとの関係を知った」
「それで、どうなったの?」
「星野町の家族が殺された事件知ってる?」
「え? あ、うん。あの未解決の、ってまさか?!」
「そのまさか、さ」
「いや、でも偶然ってことはないの?」
彼はゆっくり首を振る。
「現場に俺にしかわからないようなサインが残ってたから、すぐにそうだってわかった。報復もあるけど、脅しでもあるんだろうな。証拠を公安に渡せば、ただでは済ませないって」
「その親父さんに捕まったらどうなるの?」
「もちろん、ありとあらゆる手段で拷問されて証拠のある場所を吐かされるだろうな」
「ひぇ、絶対に逃げきらないと」
そう答えると、彼はにやりと笑った。
「いや、もう追われてはいないんだ」
「なんで?」
「幼馴染みは俺の世界で唯一、綺麗で大切な存在だった。だけどそれを失ったんだから、俺にはもう失うものなんてない。だから、証拠はさっさと公安に渡した。それも、芋づる式に親父さんとつながりのある相手組織もヤバくなるようなやつ」
「いやいや、そんなことしたらその相手組織にまで追われるんじゃないの?」
「そうはならないよ。なぜなら向こうの組織が、親父さんが裏切ったと思うように仕向けたからね。それで、公安がどうこうする前に親父さんたちの組織は報復されて壊滅した」
「それで、その相手組織は公安に捕まったの?」
「さぁね、奴ら秘密裏に動くから」
そう言って彼は笑った。
私がどう答えていいかわからず戸惑っていると、彼は言った。
「なーんて、全部嘘。作り話、信じた? 俺、作家志望なんだ」
「なんだ、やだ、びっくりさせないでよ! でも、めちゃくちゃ面白かった」
「そっか、ありがとう。自信がついたよ」
「そっか、一緒に飲みたいなんて言って誰かに小説の内容聞いてもらいたかっただけなんでしょう?」
「ばれたか、まぁそんなわけでここでもしまた会ったら声かけてよ」
「うん、いいよ。じゃあ将来の作家先生の前途を祈って、もう一回カンパーイ!!」
そう言って飲みなおした。
そのやり取りを思い出しながら、ランチタイムでテレビのニュースを見る。
するとその星野町殺人事件の容疑者がテレビに映り、その顔を見て私は息を飲む。
それは居酒屋で話をした彼だったからだ。
彼は本当に犯人なのか、それとも親父さんにはめられたのか……
そこで私は目を覚ます。
「夢か、びっくらこいたわ」
そう呟くと、身仕度を整えてリビングへ向かった。
そしてテレビをつけると、朝食を慌てて食べる。
テレビでは、アナウンサーが事件の記事を読み上げていた。
『星野町の殺人事件について警察関係者からの情報によると、現場に残されたDNAと容疑者のDNAが一致しており、それが逮捕の決めてとなったとのことです。容疑者は容疑を否認しており……』
私はそれを聞いて慌てて顔を上げ犯人の写真を見た。そして息を飲む。
なぜならその犯人は……
誤字脱字報告ありがとうございます。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。