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勇者と


 とある地方の、とある町の、とある夕方。


 町の中央を貫くメインストリートの商店街。

 迷宮の冒険から戻ってきた探索者や、夕食の買い出しにきた人々でごった返していた。

 屋台に並べられる様々な食材と料理、露店での肉や魚を売り買い、探索で得た品物の値段交渉などなど、賑やかな声が響く。


「おい、ごらぁ!」

「ああん。やるってんのか!?」


 あちこちで大なり小なり喧嘩も起きる。

 この町の近くには迷宮が数多くあるため、探索者や旅行者が集まってきている。必然的に気性の荒々しい奴らがぶつかることになる。


  ガシッ


 声を荒げる男が振り上げた拳を、後ろから伸びてきた腕が制する。男が振り向くと、そこには全身鋼鉄の鎧を身にまとった戦士。


 胴鎧はあちこち歪んで穴が開き、左肩の防具は千切れて無くなってしまい、下に着こんだ鎖帷子が見えている。厳つい兜も面の部分は大きく変形してしまっており、顔が隠れて表情を窺い知ることはできない。

 激しい戦闘をしてきたのだろうというのが一目で分かる。

 しかし、この戦士は大きな傷を負うことなく生きて帰ってきた。そして収穫も大きかったようだ。担いでいる袋は大きく膨れている。

 誰が見ても、この戦士が手練れだと分かった。


「お、おぅ。このくらいにしといてやる。」


 鎧の戦士からの無言の圧を受け、男は退散して行った。

 カチャカチャと鎧同士が擦れる音を立てて戦士が歩みを進めていくと、人々は波が引くようにその道を譲る。


 鎧の戦士は大通りから一本細い小径へと入っていく。


「ちょっとそこの戦士さん、この子はどうだい? 買ってかないか。」


 角を曲がったところで奴隷商人が戦士に声をかける。商人が連れていた奴隷の少女はビクッと震えた。

 商人はパイプで煙草をくゆらせ、くるんと丸まった髭をしごく。


「家事も料理もできるし、その疲れた体をマッサージもできるぞ。そのまま夜伽にも使えばいい。」

「…嫌っ。」


 無理やりに腕を引っ張られた少女は身をくねらせ嫌がるが、その手足は鎖につながれて思うように動けない。

 商人は少女の顔を掴み、無理矢理に顔を持ちあげる。

 軽く日に焼けた肌のあどけない顔が露わになり、黒い髪の隙間から、恐怖に潤んだとび色の瞳が覗く。


「ほら、可愛い顔してるだろう。初めてもまだだ。」

「嫌あー!!」

「…こら、暴れるな。」


 戦士は少女に興味を持ったようで、足を止めて二人の様子を見る。

 これは売れるかもしれないなと、商人は下卑た笑いを零し、戦士を見上げる。これだけの戦利品を持っているんだ。少々吹っかけても金を払って貰えるだろう。良いお宝だったら物々交換でもいい。


「元々は良いとこの娘なんだ。どうだい安くしておくよ。ちょっと気が強い娘だが、あなたほどの男なら力で屈服させてしまえばいい。」


 少女の顔が青ざめる。

 にわかに戦士は兜を脱いだ。


「私は女だ。」


 その顔を見て、商人は言葉を失う。

 整った顔立ちに短めの銀髪。鋭い深緑の瞳。そして、大きな頬の傷。


「…ああ、こりゃあ、女傑勇者様…。」

「その呼び名は好かん。」

「あ、いえ、へぇ。失礼いたしました。」


 女傑勇者様と呼ばれた戦士は、この町ではかなり顔の売れている探索者だ。数々の迷宮を単独で踏破し、数々の伝説を打ち立てている。

 周囲は敬意をもって『女傑勇者』と呼ぶが、本人はこの呼ばれ方を心底嫌っている。

 その美しいが険しい瞳に睨まれ、商人は少女を連れて引き下がっていった。


 彼女はため息を一つ残し、(おもむろ)に家路を辿る。


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