【清掃日誌03】 特定外来生物
40男が子供部屋おじさんを続けていられる位だから、俺の実家は裕福だ。
俺の住む中央区は、ソドムタウンの中でも最も由緒正しい高級住宅区域なので、近所には似たようなボンボンニートが多数住んでいる。
ボンボンニートの中でも陽キャは馬車レースに出たり冒険者ギルドでパーティーを組んだりナイトクラブで女漁りをしたりする。
で、俺達陰キャは模型を組み立てたり芝居の脚本を執筆したり駄菓子の食レポをして遊んでいる。
ここはカフェ・ギーク。
俺達陰キャボンボンの溜まり場である。
オーナーが模型オタクなので、様々なオタクイベントが開かれてる。
今日は恒例の模型発表会。
皆は馬鹿にするけど、この界隈じゃ結構有名なんだぜ?
首長国や帝国からマニアが見物に来ることもあるくらいだ。
「お! ポール殿!
今回はジャイアントタートルでゴザルか!?」
『うん。
王国の方にはいっぱい居るらしいんだけど
この辺には生息してないから、資料集めるの大変だったよ。』
「その名の通り、馬車より大きなモンスターだとか。
1匹討伐するだけでも英雄扱いされるそうですぞ。」
『そんな物騒なモンスター、この辺には居なくて良かったよ。』
「まったくでゴザル。
モンスターなんか模型の中だけで十分でゴザルよ。」
このゴザル男は、ジミー・ブラウン。
言わずと知れたブラウン商会の御曹司である。
ブラウン商会は建築資材を取り扱うメーカー兼商社なので、若き不動産王であるドナルド・キーンとも密接だ。
弊社も創業以来、張替用壁紙を全てブラウン商会から仕入れている。
その縁もあって10歳年少の彼とは生まれる前からの付き合いである。
昔からどういう訳か俺に懐いてくれて、今ではすっかりオタク仲間となった。
どうやらブラウン会長はジミーがニートになったのは俺の所為だと思い込んでいるらしく、顔を合わせる度に文句を言って来る。
まあ否定はしないけどね。
『ジミーは何を作ったの?
こんなモンスター初めて見たけど…
創作系?』
ジミーはドラゴンやユニコーンといった実在のモンスターしか組まない筈だが…
何だこの生き物は?
デカい口、間の抜けた顔、ずんぐりした身体…
やけに非現実的な造形だな。
「ふっふっふ♪
これはヒッポーというモンスターでゴザルよ♪」
『?
ヒッポー?
そんなの初めて聞いたよ?』
「ここだけの話でゴザルがな?
自由都市と帝国の国境地帯…
その河川群で冒険者達が目撃しているのですよ。
この新種のモンスターを。」
『ああ、出入りの冒険者に聞いたんだね?』
「帝国方面を縄張りにしている冒険者グループに監修を頼んだでゴザル。
拙者は実物を見た事は御座らぬが、かなりの精度とのこと。」
ブラウン商会は帝国や首長国との取引が多い。
なのでキャラバンを護衛する冒険者がジミーの自宅には頻繁に出入りしているのだ。
「この新種モンスターはかなり狂暴な性質だそうでゴザル。
普段は河や沼に潜んでいて、馬やワニを一噛みで殺してしまうらしいのですよ。」
『また帝国が召喚したのかな?』
「拙者の見立てでは教団の召喚ですな。」
『教団が?
どうしてわかるんだい?』
「帝国に所属する冒険者達が躍起になって国境のモンスターを討伐しているのでゴザルよ。」
『ふむ。
帝国が組織立って我が国との国境沿いにモンスターを召喚しているのなら…
そもそも自国の冒険者に討伐なんて許さないよな。』
「ええ、モンスター召喚に掛かる莫大なリソースを鑑みれば…
自国が召喚したモンスターを損耗させるなんて絶対にあり得ないでゴザルよ。」
『やれやれ。
どうして皆、争いごとを好むのかね。
俺達みたいにカフェでおとなしく模型を見せあっていれば平和なのに。』
「全くでゴザル。
拙者、一生こうしてゴロゴロして暮らしていたいでゴザルよ。」
『これでガールフレンドが居れば最高だよね。』
「最高でゴザルな。」
ジミーとそんな話をしていると、乾物屋の隠居のドラン爺さんや養鶏会社のオーナーのヘルマン社長と言ったいつものメンバーもやってきて、モンスター談義に花が咲く。
お大尽のヘルマン社長が皆にシーシャを奢ってくれたので、寝っ転がって吸う。
(俺はいつものトロピカル味、ジミーはミント味。)
話題はやはりジミーが模型の題材にしたヒッポーに移る。
どうやら世俗に疎い俺が知らなかっただけで、冒険者連中にとっては既知の情報らしかった。
「画家界隈でもヒッポーは注目され続けているみたいだ。
次の合同イベントはヒッポーがテーマになりそうだよ。」
事情通のヘルマン社長からの情報なので、恐らくそうなのだろう。
オタクと言っても幅が広いので、趣味ごとに行きつけのカフェが異なる。
みんなコミュ障なのであまりカフェ間の往来は無いのだが、俺達モンスター模型チームは向かいのカフェの絵師チームとの交流がある。
向かいの絵師チームはモンスターの絵ばかりモチーフにしている上に、メンバーが全員女子なのだ。
昔ジミーに泣きつかれたので俺が声を掛けて交流を持つようになった。
普段は挨拶を交わす程度だが、たまに合同イベントを行っている。
「あ、あの…
ポール殿…
えへへへ…」
ああ、それでこの男はヒッポーの模型を作ったのか。
向かいの絵師チーム女子の気を惹く為に。
『はいはい。
向かいに一緒に乗り込んでやればいいんだろ?』
「えへへ。
拙者、女子を見るとキョドってしまうでゴザル。」
『多かれ少なかれ皆そうだから、気にしなくていいよ。』
カフェ・ロットガールズ。
店構えからして女子のたまり場である。
平民の女子が想像で築き上げた貴族っぽい造りの建築様式
(全体的に安っぽいが俺は嫌いじゃない。)
男から見れば入りにくい。
と言うより、原則的に男子禁制である。
なので、店の前でボーっと立っておく。
5分程立ちっぱなしでいた所、中からウェイトレスに呼び止められる。
どうやら入店を許されたらしい。
「流石ポール殿でゴザルな。」
『ボーっと立ってただけさ。』
「その、立つだけすら出来ない、情けない男もこの世には居るでゴザルよ。」
『ジミーも10年後には出来るようになってるさ。』
軽口を叩きながら2人でオタク女の巣窟に乗り込む。
ドラン爺やヘルマン爺もニヤニヤしながら便乗してきた。
それを見て他の参加者も入口でモジモジしている。
まあ、オタク同士の男女交際とかこんなモンだよ。
俺も女子と話すのは緊張するしな。
ヒッポー事情に関しては女子グループの方が詳しく把握していた。
眼前のクレア女史の父親がモロー銀行のオーナー社長であり、そのモロー銀行は冒険者ギルドに手厚い支援を行っているからである。
「教団の原理主義グループが召喚絡みでアレコレやってるのよ。」
『今度はアイツラ、何を企んでるのかね?』
「神を召喚するんじゃないか、って私のお父様は推測していわ。」
『神!?
随分、大きく出たな。』
「それくらい、色々な種類を召喚しているの。
早めに大規模討伐しないと新種のモンスターが定着しちゃうわよ?」
『定着?』
「ヒッポーを筆頭に変な生物の目撃情報が増えてるのよ。
貴族区の砂浜にも奇妙な海草が大量発生してたし。」
『見たの?』
「最近、王国の亡命貴族令嬢と仲良くなって。
プライベートビーチに案内して貰ったの。」
『プライベートビーチ?
貴族の中でも大金持ちだな?』
「その父親は口を濁していたけど、王国から大量の公的資金を持ち逃げしてきたみたい。」
『ひょっとしてルーカス伯爵?』
「あら?
面識あったんだ?」
…屋敷の清掃をしたのが俺だからな。
ドナルド・キーンに促されて挨拶だけはした。
「あの子、楽しみにしてたプライベートビーチが台無しって嘆いてるのよ。
ほら、あそこの席の…。」
クレア女史が奥のボックス席に座っている少女を指さす。
「か、可愛いでゴザル!」
ジミーがピョンっと跳ねる。
今の君のリアクションも結構可愛いけどな。
『貴族と恋仲になるのは大変だぞー。』
「経験者は語るでゴザルな。」
『俺のことじゃねーし。』
「あはは。
そういう事にしておいてあげるでゴザルよ。」
…俺のことじゃねーし。
「そ、それで。
拙者、その新種の海草の話に興味あるでゴザルよ。」
『はいはい。
じゃあ、紹介を頼んで貰うよ。
クレアさん、それでOK?
コイツ、俺の親友のジミー。
御存知の通り模型作りの天才なんだ。』
「えへへ、天才でゴザル。」
「あらあ、天才さんは平日の昼間から御優雅なことで。」
「…ウェヒヒヒ。」
毒舌を吐きながらもクレア女史はジミーを女子一同に好意的に紹介してくれる。
ジミー本人は兎も角、ヒッポーの模型は女子勢から大絶賛される。
王国からの亡命令嬢の名はヘンリエッタ。
貴族女には2種類居て、自分の政治的立ち位置を把握している者とそうでない者が居る。
幸か不幸か彼女も後者だ。
「せ、せ、せ、拙者がこの模型を作ったでゴザル!
こ、これはオタク趣味とかそーゆーのではなく、社会貢献の為の資料でゴザルよ!」
向こうではジミーが必死に逆効果であろうアピールをしている。
俺いつも思うんだけど、君は黙っていた方がモテるぞ?
「さっきも!
外来種を駆逐する為の社会運動の話をしてたでゴザル!
いやあ、召喚だか何だか知らないけど、この美しい自由都市の砂浜が汚れるなんて拙者許せないでゴザルよ。
頑張って清掃するでゴザル!
そう、親友のポール・ポールソンと共に!」
…君なあ。
コミュ障の癖にたまにスイッチ入るよな。
掃除と聞いてヘルマンやドランが逃げようとするが、俺が男女合同清掃ボランティアイベントを提唱するとニヤニヤといやらしい表情で戻ってきた。
「いやあ、浜辺だと服が汚れてしまいますからなぁ。
濡れても良い恰好で来て貰わないと…
例えば水着とかね♪
デュフフ。」
こんなオッサンにはならないように気を付けなきゃな。
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『で?
何でアンタがここに居るんだ?』
「てっきり私の仕事のアフターケアに来てくれたのとか思ってね。」
『ただの女遊びだよ。
見ればわかるだろ?』
「ワカメ。
何とかしてくれるんだろう?」
『この海草、そんな名前なんだ?
あ、鑑定時の表示名か…
やっぱり教団が召喚してるの?』
「シッ! 声が大きい!
かなり繊細な問題なんだ。
教団の名前は出すな!」
『ハイハイ。
全部アンタの判断に従うよ。
で?
ワカメとやらは駆除していいんだな?』
「ああ、極めて有害な召喚植物だ。
早急に根絶しなければならない!
この資料に目を通してくれ。
さっきルーカス伯爵とも、この話題をしていたんだ。」
『ただの海草だろう?
そこまで必死になるようなこと?』
「いや、こんなに有害な植物はないよ。
養殖関係が全部やられる可能性があるんだ。
ムール貝・牡蠣・ロブスター、片っ端からやられてる。
ここだけの話な?
セルバンテス水産、年内に倒産するぞ?」
『まさか、水産業界の最大手じゃないか?』
「まだ公式発表はされてないが。
彼らの養殖区画がかなりの被害を受けている。
このままじゃ、この自由都市から海の幸が奪われてしまう。」
…そいつは大変だ。
俺の乳母のマーサはムール貝が好物でね。
たまに近所のレストランに連れて行ってやると凄く喜ぶんだ。
『スキル使っていい?』
「おお、ようやくやる気になってくれたか!?
いやあ、オマエはいつか自由都市の為に動いてくれると信じていたよ。」
『…但し念を押しておくけど、俺のスキルは生命あるものには通用しないよ?』
「ふふふ。
そういう事にしておこうか。」
『そのワカメ、という植物?
何とかして壊死させてくれ。
その残骸を俺が全て清める。』
「…生きたままじゃ駄目かい?」
『俺のスキルにそこまでの能力はないね。』
そういう事にしておかなきゃ、誰かさんに悪用されちゃうからね。
ドナルドはブツブツ文句を言いながら小走りでどこかに去って行く。
…忙しい男だ。
俺は不謹慎なので、女子勢と水着で戯れる。
戯れ、と言ってもインドア男女の集まりなのでおとなしいものである。
砂浜を歩いて貝殻を拾ったり海鳥をスケッチしたり、そういう地味な遊び方をする。
ふと背後を振り向くと、ジミーがヘンリエッタ嬢に拾った貝殻をプレゼントしようとして拒絶されていた。
アイツ、オタクの癖に何であんなにアグレッシブなんだ?
発情期なのだろうか?
あーあ、泣きながら走り去ってしまった。
『クレアさん。
ヘンリエッタ様にあまり俺の友達を苛めないように言っておいて。』
「いきなりあんな貝殻渡されても…
女子的には迷惑なのよ?」
『いや、それは解ってるけどさ。
もう少しオブラートに包んでさぁ。
やっぱり貝殻は駄目?』
「…キモい。」
『俺達が読む絵巻物じゃあ、貝殻を女子に贈って結ばれるって定番なんだけどね。』
「あら、女子向けの絵巻物では、素敵な王子様が貴金属を贈って下さるのよ。」
やれやれ、いつか男女共用の恋愛絵巻物を誰かが執筆して欲しいものだね。
『ねえ、ヘンリエッタ様。
初対面で不躾だけど…
貴女の好みのタイプがあれば知りたいな。』
「…イケメン。」
『ですよねー。
あ、ついでにクレア女史は?』
「ついでに聞くのやめてよね。
…っていうか、普通にイケメンが好みよ。
貴方がいつも仲良くしているキーン社長とか。」
ヘンリエッタ嬢も赤面しながらコクコク頷く。
周囲の女子達も嬉しそうにコクコク頷く。
そうかー。
やっぱりイケメンが好みか。
まあ、知ってたけどね。
いいもん。
いつか俺、子供部屋を出て俺を愛してくれるハーレムを作るんだもん。
ドランやらヘルマンやらのジジー組は懲りずに女子を口説いている。
「ワシも昔は…」とチラっと聞こえて来る。
元気だね。
今度、敬老イベントでも開いてやんよ。
さてと。
召喚生物をどうにかしようか。
『ヘルマンさん、金貨持ってます?』
「あるぞー。」
『それ下さい。』
「やだよ、今から女子と昼呑みタイムなんだよ。」
『ヘルマンさんが女子にモテる為の秘策を用意してるんですけどね。』
「ほい、1万ウェン♪」
『どもです。』
「で?
何をする?」
『とりあえずこの砂浜からワカメとやらを根絶します。』
「例のアレか?」
『さあ、どうでしょう。
で、モテる方法ですが。』
「おう! それそれ!」
『俺がこの砂浜のワカメを根絶するので
それを俺達でやった事にしましょう。
そうですね、ヘルマンさんが養鶏用の薬物で駆除した事にでもしておきましょうか。
口裏、合わせて下さいね。』
「おお! 手柄をくれるんだな!
1万ウェンでも安いくらいだよ!
これで《カフェギーク模型愛好会》の名は天下に轟くな!」
『いや、模型愛好会はどうやら女子受けが悪いので
モテそうな団体名をでっち上げましょう。』
「オイオイ。
それ、オマエが物心つく前からワシが指摘し続けてきたことだよー?」
『ようやくヘルマン社長のお言葉の意味が理解出来て来ました。
男は女受けを意識しなきゃ駄目ですね。』
「理解遅過ぎぃ!
こんな初歩的な助言を聞き入れるのに40年もかかるものか?」
『いやはや耳が痛い。
社長には40年分の恩義を返させて頂きますよ。』
「うむ。
で? どうやってワシをモテさせてくれる?」
『模型愛好会に、外向けの名前を付けるだけですよ。』
「外向け?」
『何だっていいです。
女の子に受ければ何でも。』
「うん、それは賛成。」
俺はドランと談笑していたクレア女史にストレートに尋ねる。
『ねえ。
女子ってどういう団体に所属している男に魅力感じるの?』
「そんなの、貴族グループに決まってるじゃない。」
『俺、爵位は買わない主義なんだ。
貴族グループ以外にモテる団体ってある?』
「うーん、経済団体?
産団連とかに加盟している社長さんは一流って感じがするわね。」
産業経済連合会かぁ…
ドナルドが「オマエも入れ」ってしつこいんだよなあ。
『ヘルマン社長。
産業同友会の会長にしてあげるから100万ウェン下さい。』
「何だよ、産団連のパクリみたいなのはw
でもワシ、肩書大好き!」
『じゃあ俺、ワカメ除去しておきますんで
皆で適当に徽章とかトレードマークとか作っておいて下さい。』
「あのさあ。
その同友会って何をする組織なの?」
『自由都市の環境とニートボンボンの人権を護る団体です。』
「素晴らしいな。
ついでに隠居ジジーも保護しておいてくれ。」
『前向きに善処します。』
さて、たまには兄貴風吹かせてみるか。
やり方はよく解らんが、ドナルド・キーンのやり方は十分見せて貰ってるからな。
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俺は砂浜の中でも人目の無い箇所を選んで、清掃スキルを発動させてみる。
勿論、生物も綺麗に除去出来てしまった。
この分だともっと大きな質量の生物も何とでも出来てしまうね。
スキルを発動しながら、ジミーがいじけている岩場まで歩いて行く。
女に振られたくらいで情けない男だ。
世の中にはもっと残酷な恋もあるというのに。
『ジミー、ジミー理事。』
「え? 理事?」
『さっき、自由都市に新しい産業団体が発足したから。
産業同友会。
ヘルマン爺さんが初代会長。
俺達が理事… あ、俺はいらないから。』
「え? え? 話が見えない。
産業同友会?
それは何をする団体でゴザルか?」
『オタクが女にモテる団体だよ。』
「オタクがモテる訳ないでゴザルよ!」
『うん、モテる訳ない。
その道の先輩の俺が保証する。
でも、経済団体はモテるってさっきクレア女史に教えて貰った。』
「いや、それはモテるに決まってるでゴザルけど
そんなの勝手に作ったら怒られない?
拙者、父上が普通に産団連で役職付なのでゴザルが。」
『うん、普通は怒られる
だから、世界一の嘘つき野郎に怒られない為の方便を考えさせるんだ。』
「それは頼もしいでゴザルなあ。」
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結局、ドナルド・キーンがあちこちを奔走して、本当に産業同友会を発足させてしまった。
《自由都市企業オーナーの非役員子弟が、祖国と祖業に貢献する為の任意団体》
そんな位置づけである。
『なら家業手伝えって話だよね、ははは!』
「ははは、じゃないよ。
どれだけ私が駆け回ったと思ってるんだ。」
『まあまあ、ワカメの駆除代金だよ。
実際、貴族区や富裕区の砂浜が汚れるのは痛かったんだろ?』
「まあ、確かに。
この砂浜沿いの別荘群は私の主力商品だからね。
内陸国の王国人は特に海に対する憧れが強いし。」
『でも、教団がどんどん変な生き物を召喚したら、幾ら清掃スキルでもキリがないよ?』
「水面下では財界も動いてる。
教団も召喚の自粛を聞き入れてくれたよ。」
『やけに素直だね。』
「…必要な実験が、あらかた終わったのだろうな。」
『向こうがそう言っていたのか?』
「ミスリル貨の流れさ。
明らかに先月までとは動きが変わっている。
《後は本番に向けて集中》といった流れかな?」
『ふーーん。
みんな大変だね。』
「オマエは大変にならないのか?」
『ならないよ。
今まで通り模型作ったり、食レポイベント開いたり、皆で居酒屋に行ったり…
たまに女子にフラれたり。
それだけ。』
「なあ、一つの国に経済団体2つも作ってどうする?
争いの火種になるぞ。」
『ならないよ。
同友会の入会資格上、絶対にならない。』
「そりゃあ、まあ。
《ニート限定》なんて縛りがあれば経済的に力を付けるのが難しいかも知れないな。
でもそんな団体に何の意味がある?」
アンタ、本当は理解してるんだろ?
二つ目の経済団体が出現した事で、産団連の一極支配に楔が打たれた…
いや、大資本連合の弱点が浮き彫りになった事を。
『肩書はどんなに下らなくとも女を口説く道具になる。』
「まさか!?」
アンタには一生わからんだろうよ。
世の中の大半の男は地のスペックで勝負出来ない弱者ばっかりなんだからな。
『ほら、見てみろよ。
あそこ、ジミーがヘンリエッタ嬢に熱く迫ってるだろ?
お、今時薔薇の花束か
アホだねー。』
「ん?
あー、拒絶されてしまったようだな。
何だ、やっぱり名前だけの肩書なんて意味ないじゃないか。」
いや、あるね。
アイツ、堂々とフラれる位には成長した。
随分、いい顔で泣くようになったじゃないか。
陰キャの俺達だって、こうやって場慣れして行けば…
いつかはハーレムの一つくらい出来ちまう筈さ。
そんなの要らないって解っちゃってるのも俺達なんだけどね。