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【清掃日誌25】 貯木場

俺は都会の軟弱な若者である。

…訂正、俺は都会の軟弱なオッサンである。

それもおっさんカースト最下層の子供部屋おじさんだ。

なので荒事は苦手だし関わりたくもない。


都会はいいぞ。

お洒落なカフェで気のおけない友人と語らい。

数多あるレストランで珍奇な美味に舌鼓を打ち。

刺激的なbarでビリヤード遊びに興ずる。

ガールフレンドさえいれば最高の街だ。

(おらんけど。)

なので、例え用事があったとしても地方州になんて来たく無かった。


ほらね、言っただろう?

見渡す限り何も無い。

荒野の隙間に貧相な田地がひしめいている。

ああ、資料で読んだままだな。

確か土壌が悪くて農業に適さない、と。

俺が大地神か何かなら何とかしてやるのだが、生憎一介の子供部屋おじさんだ。

昨日は到着するなりダンジョンに潜らされて、地下層でヤクザに絡まれた。

たまたま利害が一致したので手打ちに至ったが、あのまま戦闘に突入していたらと思うと背筋が凍る。


で、俺を連れ出した張本人はそのヤクザとあそこで談笑しながら新規ビジネスの立案を楽しんでいる。

そりゃあ不動産屋と材木商だからね、さぞかしシナジー効果あるだろうね。

まあ、俺は一介の掃除屋だから関係ないよね。



「おーい、ポール!

ちょっと来てくれ!

ギア社長が貯木場に流れ込んだゴミで困っておられる!

ここは友人として我々が一肌脱ぐべきではないだろーか!」



…勘弁してくれ。



結局。

抵抗虚しくソドムタウンから更に離れた山村(彼らは最後まで町と言い張っていた。)まで連行される。

あ、これしばらく帰れないパターンだ。




==========================




『ハアハア。

ようやくこれで最後か。

セット! 清掃クリーンアップ!』



ハアハア!



なーにが、「手の届かない場所に少しだけゴミが浮いていて困る。」だよ!

あの嘘吐き野郎!

ゴミ池じゃねーか!

何が貯木場だ!

丸太なんて一本も見かけなかったぞ!



ハアハア!



つ、疲れた。

マジで疲れた。

あ、ヤバい。

これ、しばらく筋肉痛が抜けない疲れだ。

歳を取ると碌にスキルさえ使えなくなるよな。



…ハアハア、ドターン。



あまりの疲労に倒れ込む。

クッソ、本当なら今頃はニックと工業区のbarでシーシャイベントを楽しんでる筈だったのに。

ドランさんが、ロットガールズの女子と仲直りのお茶会をセッティングしてくれてたのに…

新しく出来たハンモックカフェにマーサを連れて行く約束をしてたのに。


な、何で俺が!

こんな糞田舎の!

ヤクザのシノギの片棒を!

こんな薄汚いゴミ池で!

しかも オッゲぇー!

死ぬ程臭い中で!

疲労困憊してるんだ!


だ、駄目だ。

起き上がれない。

心身共に疲労を貯め過ぎた。


厄日にも程があるだろーに!

昨日も厄日、今日も厄日、これ絶対に明日も何かあるパターンだぞ!

おい、ドナルド·キーン!

俺は知ってるんだからな!



「…ソンさん!

ポールソンさん!」



誰かに身体を強く揺すられる。

ん?

何だ?

野外?

あ、そうか。

俺、こんな臭い所でうたた寝してたのか。

余っ程疲れたんだな。

ヤバい、頭が働かない。



「今、エーテルを飲ませますから!」



ん?

何かを飲ませてくれてる?

あー、この苦み。

懐かしいなぁ。

エーテルって糞マズいんだよな。



   「ポール! 死んじゃイヤ!

   今度はワタクシが助けてあげりゅ番だからね!」



あれ?

何でこの味がエーテルだなんて解るんだろう。

こんなもん軍人が任務中に飲まされるモンだろうに。



「ポールソンさん!」



『…エ。  ルデ…。』



「良かった、気がついた!」



頭痛を堪えながら俺は周囲を見渡す。

ああ、盗伐の妹か。

この子もマメだな。



「ポールソンさんが倒れておられたから

私、私!」



『ご心配をお掛けしました。

貴女のお陰で回復しました。

もう大丈夫です。』



「ああ、私ったら取り乱してしまって。

お恥ずかしい。」



大丈夫。

あれは取り乱したうちに入らない。

貴女より先に己を恥じるべき女がこの世には腐るほど存在するから。

母さんとかポーラとかエルデフリダとか元嫁とかね。



「ポールソンさんが中々帰って来られないから。

心配になって。

それで、ご迷惑かと思ったのですが、仕事場まで押し掛けてしまいました。

申し訳ありません。」



『ああ、いえ。

もう終わりましたから。』



「お疲れ様でした。

それにしても見積もりって結構時間が掛かるんですね。

では事務所に帰って、概算を兄に伝えて頂けませんか?

恐らく正式発注させて頂くことになると思いますので

並行して見積書の作成をお願いさせて下さい。」



『あ、すみません。

《今日中に》というのは見積もりの事でしたか。』



「あ、はい。

緊急性の高い案件ですので

お手数ですが本日中に見積もりだけでも。」



冒険絵巻とかで鈍感気取りの嫌味野郎が発する定番台詞。

喉まで出掛かったが、やめておく。



『申し訳ありません。

私の誤認で…

作業を完了してしまいました。』



「?」



『眼下を御覧下さい。

水質改善もサービスしておきました。

もしも水位が足りないのでしたら…

便利な水瓶野郎を連れて来ます。』



「…うそ。

信じられない。」



あー、ここで使っとかなきゃ一生使うチャンスないかもな。

妹さん、ゴメン、



『…俺、また何かやっちゃいました?』



ふー、スッキリ。

いつか使ってみたいキメ台詞だったんだよね。

もう思い残す事はないわ。


貯木作業には水位がやや足りなかったので

妹さんが持参してくれた弁当を食べながら、水瓶野郎の披露する妙技を見物した。



==========================



俺は宿所に帰るなり即座に熟睡(実質的には昏倒)したので経緯がよくわからなかったのだが、何か色々商談が進んだらしい。



「おはようゴザル。」



『え? ジミー?

何で?』



「何でとは失敬な。

メッセンジャーを送って来たのはポール殿でゴザロウ?」



妹さんから林業の苦境について相談されたので、ジミーに相談の為のメッセンジャーを派遣したのだが。

まさか翌日に来るとは思わないじゃないか。



『…いや、それにしても。

何も翌日に来なくても。』



「拙者、単騎全力疾走で参った♪」



『オマエ、ドナルド・キーンの悪い部分ばっかり真似するよな。』



アイツに良い部分って何かあったかな?



「安心して下され。

良き部分をポール殿から学んでいるでゴザル!」



俺に良い部分って何かあったかな?



『…いや、それにしてもだ。

親孝行は素晴らしいが、オマエ1人で来ても仕方ないだろう?

初顔合わせなんだから、営業部長とか担当役員が来ないと…

地方州の連中は拗ねるぞ?』



「拙者、役員でゴザルよ?」



『え!? マジ!?』



「この前、刷り直した名刺を渡したのに~。

拙者。

ブラウン商会の執行役員でゴザル。

常務取締役就任の話、しなかったでゴザルか?」



『ゴメン。

俺、オマエに関しては永遠の中坊の印象だわ。

何かゴメンな。

あ、身長伸びた?』



「10年くらい前からポール殿を追い越してるでゴザルよーーー!!!」



仕方ないよな。

年下の幼馴染なんて、一生そのイメージなんだから。

未来永劫ガキだよ。

あ、キーン君。

俺に対する認識はちゃんとアップデートしておくように。



『それで、オマエ…

仕事に来たの?』



「まあ、大まかな事には合意したでゴザル。

細部の詰めは現場同士で調整しながらでゴザルけど。」



『え? え?』



「要するに地方州からの材木購買量を増やせばいいんでゴザルな?」



『あ、うん。』



「昨晩キーン殿と話し合って杉・檜系の優遇枠を設定する事で合意したでゴザル。

これからは地方州の林業組合(ヤクザの巣窟)とも緊密に連絡を取る事になったでゴザル。

まずは来期の公共事業調達からですなあ。」



『…オマエ、凄いな。』



「?」



『いや、何か大人みたいだぞ?』



「拙者、もう30歳でゴザルよーー!!」



『いや、頭では理解してるんだが。

俺の脳内では児童時代のオマエがピョンピョン跳ねてるんだ。』



「もー、なんなん、それーー!!!」



そうかー。

コイツが30かぁ。

ちょっと前まで、俺が背負ってやってた気がするんだがなぁ。

そりゃあ俺も歳を取るよなぁ。



『…オマエ、背ぇ伸びた?』



「何度この遣り取りをさせるでゴザルか!!」



何だかよくわからんが。

地方州の木材販売ルートが整備されたらしい。

ふーん、良かったね。

じゃあ、義理は果たしたってことでOK?



『じゃ、俺はこれで。

停車場はどこ?

無ければ馬のレンタルお願い。

あ、俺おとなしい馬にしか乗れないよ?』



「ん?

ポール殿は事態の収拾の為に動いてるんじゃないのでゴザルか?」



『いや、ダンジョンも貯木場も解決しただろ?』



「え!?

ダンジョン!?

何それ何それ!?

kwskでゴザル!?」



『あ、いや。

俺の一存では…

ドナルドから聞いてくれ。』



オマエの取引先に昨日殺されかけた。

それだけの話だ。



「それにしても。

この緊急事態で不謹慎な話になってしまうでゴザルが…

ポール殿にもようやく春が到来しましたな。」



『は、春!?』



「またまたー。

惚けなくてもいいでゴザロウ。

世間がこれだけ騒然としている今

不謹慎でゴザルなーww」



『え、ゴメン?

え、ゴメン?

話が見えない。』



「ん?

側室を迎えるのでゴザロウ?」



『そ、側室!?』



「いや、林業組合ではその話題で持ちきりでゴザルぞ?」



『ちょ、待っ!  

ちょ、待っ!』



==========================



「今、キャッシュが無いから。

代わりに妹貰ってくれません?

勿論、キーン社長とブラウン専務には許可を取ってます。」



『え!? ちょ!?

ギア社長!?

アンタ何言ってるんですか!?

いきなり非常識でしょう!!』



「?

あ、いや。

見積もりを頼んだ日に作業終わらせちゃう人に言われても。

こんな事言いたくないですけど。

ポールソンさんみたいに非常識な人、初めて見ましたよ?」



え、何?

え、何?

なんで俺が批判されてるの?

これ俺が悪い場面?

ちょ、頷くなよ水瓶野郎。



「あの、筋道の話をさせて下さいね?

園遊会の時も話しましたけど、ウチの懐事情かなり苦しいんです。

だから貯木場清掃の件も、見積もりを頂いてから林業組合全体で協議して

ちゃんとキャッシュを積んでから正式に依頼したかったんですね。

OK?」



『…OK。』



「いや、それが妹の奴が…

ポールソンさんがやっちまったって言って来たから。

こちらも驚いてしまって。

貴方は何の説明も無しに熟睡してるし。」



『それはもう誠にごめんなさい。』



「今、この時期に払えるキャッシュは本当にないんですよ?

林業のサイクル的に…

疑うんなら帳簿をチェックして頂いても結構ですけど。」



『あ、いえ。

じゃあ、サービスってことで。

また今度飯でも奢って下さい。』



「…社会通念上、そんな事許される訳ないでしょう。

業界全体の信頼問題ですよ!」



コイツ、ヤクザの癖にきっちりしてんな。



「なので、妹をどうぞ。」



コイツ、所詮はヤクザだな。



『いや、俺なんかに引き取られるなんて

妹さんが可哀想でしょう?』



「?

何で?

田舎でヤク… 林業の組事務所を世話してるより

都会の金持ちに嫁いだ方が幸せに決まってるじゃないですか?」



うん、まあ。

流石にその点は、うん。

ぶっちゃけ俺が女でもこんな山奥でヤクザ兄貴の介護するくらいなら都会で娼婦にでもなるわ。



「ポールソンさんって貴族と結婚してたんでしょ?」



『割とすぐに破局しましたけどね。』



「貴族との婚姻経験がある方を相手に、正室で迎えろとは申しません。

こっちは属州人の上に行き遅れですし。」



…いや、そこじゃねーよ。

ヤクザの身内って部分が一番のネックなんだよ。

流石に家系図にヤクザ者を書き加えるのは御免だぞ?



「なので、側室辺りが無難かな、と?」



…難に決まってるだろ。



「まずはポールソンさんの御屋敷で洗濯女か何かとして使ってやってくれませんか?

大所帯の世話は慣れてますし、抗争に使って貰っても構いません。

アイツ、女の癖に結構手際がいいんですよ。」



『あ、別に首都では抗争とかありませんので。』



「え!? マジ!?

流石にソドムタウンは文明的ですねー。」



…オマエラが野蛮なだけだぞ?



「じゃあ、妹はポールさんの御屋敷で住み込みということで。」



『あ、いや。

家の人事に関しては父の許可が要りますので。』



「ああ、本邸での許可を取らないとポールソンさんの邸宅で雇用出来ないんですな。

いやあ、首都はキッチリしてますねえ。」



『あ、いえ。

家長が父なので。』



「ん?

ん?

あの、ポールソンさんは普段どこで起居しておられるんですか?」



『…こ、子供部屋です。』



「え(絶句)!」



結局、側室の話は立ち消えた。

39歳にもなって子供部屋でゴロゴロしている人間の存在がそもそも想定外だったらしい。


丸太も人間も、貯木しっ放しだと縮むんだってさ。

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