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門番に、身分証明書としてギルドカードを見せる。
【無能】という記載を目にして、眉を寄せたのがわかった。
殴られるかな、と覚悟した。
そうなったら逃げるしかない。
「お前か!」
「?!」
咄嗟に殴られる、と思ってしまった。
今のところ殴られそうにはなったけど、まだ殴られてはいなかった。
リーゼが守ってくれたからだ。
門番が僕に手を伸ばしてくる。
引っぱたかれる!!
思わず目をつぶった。
来るだろう、痛みと衝撃に耐えようとする。
でも、
「……思ったよりヒョロいなぁ。ほら飴ちゃんあげる」
耳に届いたのは、そんな親しげな声だった。
「ほら、飴あげるから」
ニコニコと楽しそうに、門番言ってくる。
そして、飴玉を渡してくる。
「え、え!?」
思わず受け取ってしまった。
「しかし、能無し君、今日はもう家に帰るって言ってただろ?
忘れ物でもしたんか?」
能無し、とこの門番は言った。
僕は固まる。
「その名前、なんで??」
そう聞くのがやっとだった。
「なんでって、俺も冒険者だから。
掲示板の常連でよく見てるんだ。
ロム専ってやつ。
今日は、門番のバイトしてんの。
夜間って時給がよくてさ、たまに受けてんだ」
門番は聞いてもいないことを、ペラペラ話してくる。
とにかく、この人が掲示板の住民であることは理解した。
「あーあー、どうした【無能】ってことで村の奴らに虐められたか?
だいぶ汚れてんなぁ。顔も酷いな。
でも、殴られてはいなさそうだ。
まぁ、飴でも舐めろ。
甘いのは幸せの味なんだぞ」
僕の土で汚れた格好を見て、門番はズケズケと言ってくる。
言いつつ、さらに追加で飴玉を渡されてしまう。
「あ、ありがとう、ございます」
グズグズとまた泣いてしまう。
「良いっていいって。
それより、はい確認完了。
通っていいぞ」
「うぅ、ありがとうございます」
門を潜ろうとして、僕は門番へ向き直った。
「あ、あの、ついでに、聞いてもいいですか?」
「ん?」
「【星の王者】ってレストハウスの場所、知ってたりしませんか?」
ざっくりとした場所こそ聞いてはいたものの、見つけられるか自信が無かったのだ。
王都なんて、そう頻繁に来たことは無かったし、来ることも無かったから。
土地勘がないのだ。
結論から言うと、門番は店の場所を知ってた。
丁寧に地図を書いて渡してくれた。
「底辺冒険者によろしくなー」
「はい。ありがとうございました!!」
僕は門番へ頭を下げ、お礼を言って店へと向かう。
貰った飴を一つ口に放り込む。
オレンジの味がした。
優しい甘さが口の中に広がる。
少しだけ、家を燃やされ、無くなった悲しさが、本当に少しだけ薄らいだ。
村人が、僕の家を燃やしながら口にしていた罵詈雑言も、笑い声も薄らぐ。
世界には、リーゼや門番、会ったことはないけれど、スレ民みたいな人たちも居るんだと、気づいた。
僕のことを迫害しない優しい人達は、意外と多いのかもしれない。
そのことに、心が救われる気がした。
僕は地図を頼りに店へと向かう。
リーゼが食事をしているだろう、店へ向かう。
看板を見つけた。
ホッと息を吐き出して、あとちょっとの距離を歩こうとした時だ。
ドン、と誰かに押された。
そのまま尻もちをついてしまう。
「……え?」
尻もちを着いたまま見上げる。
そこには、幼なじみ二人の顔があった。