表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/41

「じゃ、また明日な。

冒険者ギルドに、朝九時集合。

寝坊するなよ?

それと、気をつけろよ?」


「うん!!」


リーゼとそう約束をして、家路についた。

濃厚な一日だった。

【無能】のギフトを与えられ、どうなることかと思ったけど、リーゼに出会えた。

リーゼだけじゃない。

僕はギルドカードを見る。

そして、ステータスを表示する。

その一番下にあるマークを出して触れる。


【掲示板】が表示された。


そして、様々な項目、細々としたスレッドも表示される。

優しい人達に出会えた。

文字だけのやり取りだったけれど。

それでも、【無能】の僕のことを嫌わずに接してくれた。

幼なじみ達や神官達とは違う。

それが、たまらなく嬉しかった。

僕は表示を消し、村へと向かう。


しばらく歩いた後。

太陽が山の向こうに沈んで、それでもまだ少し明るい。

昼の明るさと夜の暗さが同時に存在する、そんな時間。


僕が住む村の方から、モクモクと黒い煙が上がっていた。


今の時期、野焼きはしない。

ということは、


「火事?!」


僕は慌てて、煙のもとへむかう。

そして、僕が見たものは。

僕の育った家が燃やされている光景だった。

村の人たちが笑いながら、火のついた棒を投げ込んでいる。

楽しそうに、投げ込んでいる。


「穢れた場所は浄化せにゃあ!!」


「燃やせ燃やせ!!」


「アハハハ」


笑っている。

皆、笑っている。

笑いながら、人の家を燃やしていた。

皆、僕の家を燃やすのに夢中だ。

全く僕に気づかない。


本能が告げる。

逃げろと告げる。

僕は、その本能に従った。

怖かったから。

殺されると思ったから。

僕は、くるりと家に背を向けて、来た道を引き返した。


背後から、


「サツキのガキが戻ってきたら、アイツも燃やしてやろうぜ!!」


村の誰かが、楽しそうに叫んだ。

サプライズパーティーを計画する、子供のような無邪気な声だった。

楽しそうに僕への罵詈雑言を吐いている。

耳を塞ぐ。

足はそのまま動かす。

目の前が歪んだ。

どれくらい走ったのか。


「あっ!!」


僕は、足がもつれて転んでしまった。

べシャアっと派手に転んでしまう。

痛かった。


「……ううっ、じいちゃん、ばあちゃん」


思い出が込み上げてくる。

僕を育ててくれた、二人と過ごした時間が脳裏に蘇る。

グスグスと泣きながら、僕は立ち上がった。

涙を拭う。

服に着いた土汚れを払う。

歩き出す。

止めどなく涙が溢れてくる。


思い出が全て焼けてしまった。

それだけではない。

帰る家がなくなってしまった。


呆然と僕は立ち尽くす。

この道を家へ戻ろうとしていた時は、幸せだった。

じいちゃんやばあちゃんに、今日のことを報告しよう。

そう考えていた。

でも、全て燃えてしまった。

途方に暮れる。

僕は、ひとりぼっちになってしまった。


と思ったけれど、ふと雪を思い出した。

もしくは、綿菓子。

ふわふわで真っ白い、それ。

続いて思い出したのは、紅。

宝石を思わせる、綺麗な、真紅。


「……リーゼ」


知らず、今日知り合ったばかりの女性の名を口にしていた。

彼女が助けてくれたのだ。

彼女が、今日、僕をリンチされる運命から救ってくれたのだ。

王都に住んでいる、と今日の研修で聞いていた。

それだけじゃない。


夕食はいつも同じレストハウスで食べていること。

そこのビーフシチューがとても美味しいこと。

店員も気さくで、【無能】について理解があること。


『こんど、店員にも紹介するからな!

楽しみにしておけ!!』


そう言っていた。

店の名前は聞いている。

なんなら、ざっくりと店の場所も聞いている。

そこに行けば、リーゼに会えるかもしれない。

そう考えた。

僕は歩き出した。

ゴシゴシと瞼を拭う。

何度も何度も。

とめどなく溢れてくる涙を拭う。

何度も何度も。

足を動かす。

やがて、王都への入口が見えてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ