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「カニ味噌は酒のツマミになるし、エビの頭のスープだって、人によってはその頭をチューチュー吸うだろ?
なんでそれは良くて、ゴブリンの脳みそを焼いて食べるのはダメなんだ??
二足歩行のモンスターで、人を連想させるからか?
でも、そんなこと言ったら猿を食べる文化圏の人たちはどうなる?
その食文化まで否定するのか?
そうそう、海の生き物だから良しって言うならクジラやイルカ系のモンスターはどうなる?
あいつらの知能は人に負けてないぞ。
お嬢ちゃん、君の論理で言うなら四足歩行の生き物なら食べてオーケーってことだけど、ならそこら辺にいる犬猫だって食べていいってことになる。
それとも、犬猫はダメで、馬、豚、羊、牛はオーケーなのか??
な?
結局は、人それぞれのご都合主義なんだよ、あれは食べていい、これは食べちゃダメって考えはさ」
ボーンラプトルの骨で出汁を取りながら、リーゼはまくし立てるように言った。
相手はマリーさんだ。
「そんなの、極論でしょ」
マリーさんも負けていない。
「まぁな。
俺が言いたいのは、お嬢ちゃん、アンタがゴブリンの脳みそをサツキが食べることに反対なのは、今まで育ってきた環境やそこで得てきた常識がベースになってるってことだ。
人を殺しちゃダメ、人を食べちゃダメ。
たしかに、それは正しい。
ダメな理由は様々だ。
倫理的な問題だったり、それこそ、同じ人を食べ物として扱ってしまうからとか。
そうそう、病気になっちゃうってのもあったな。
でも、猿やゴブリンを食べて病気を発症したやつはいないよ。
まぁ、生で食べて病気になったやつはいるけど。
そもそも、猿はともかくゴブリンはモンスターだ。
人じゃない。
あ、知ってるか?
牛が屠殺場に送られる時、泣く奴がいるんだ。暴れるやつもいる。
ちゃんと自分がどうなるか理解してるやつがいるんだ。
お嬢ちゃんは、そんな賢い牛肉を食べてきたかもしれない」
そこまで言うと、リーゼは自分で用意しておいた酒を煽った。
「世界は広い、理解できない食文化だってたくさんある。
無理に理解しなくていい、別にアンタが無理やり食べるわけじゃないしな。
アンタには、倫理的な問題を隠れ蓑にして隠してる本音がある。
アンタの本音は、自分が嫌だからサツキにも食べないでほしいっていう、押し付けなんだよ」
「……そんなの、貴方が言えるの??
貴方が無理やりこの子にゲテモノを食べさせてるとも言えるでしょ?」
「でも、そうしなければサツキはスキルを得られなかった。
スキルを得られなければ、戦う能力すら無かったらアンタらが勧誘することもなかっただろ??」
それは、その通りだった。
モンスターを倒せるようになり、それを食べてスキルを得たという経過があってこその今なのだ。
「それは、そうだけど」
マリーさんが悔しそうに認めた。
「というか、スキルを得るためってのは理解出来たけど。
ここまで徹底的にサバイバルをさせるのは何故だ?」
そんな疑問を投げたのは、ゴードンさんだった。
リーゼは一度僕を見て、それからゴードンさんに視線を戻すと言った。
「冒険者ってのは不安定な職業だろ。
いつでも安定して食べていけるってわけじゃない。
実入りのいいクエストがそうそう受けられる訳じゃないしな。
そうなると金がなくなるだろ。
金が無いと食うに困る。
でも、いつでもモンスターでいいから食べられるようになってると、少なくとも餓死だけは避けられる。
ひもじさってのを舐めちゃいけない。
アレは人の理性をぶっ壊すからな」
そんな話をしてる横で、僕はゴブリンの脳みその焼き上がり具合を確認する。
火が通っていた。
「いざって時、ちゃんと人でいたいなら、共食いしたくないなら、ちゃんとなんでも食べられた方がいい」
「そうだよねー。
で、どうせなら美味しく食べたいよねー」
とファイゼルさんが、焼けたほかの肉を取り分ける。
「はい、どうぞー」
ルートさん達へ、焼き上げ取り分けた肉を配る。
「ま、俺は脳みそは遠慮したいかな。
でも、昨日の唐揚げやこの肉は大歓迎だ」
ルートさんの言葉がトドメになったのか、マリーさんがそれ以上なにかを言ってくることはなかった。




