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「いや、ほら、【無能】を仲間にしたら皆さんの評判も落ちるかと……」
忌み嫌われ、差別と迫害をするのが世間の『ふつう』なのだ。
その『ふつう』から逸脱することは、中々できない。
そういう意味でも、彼らの迷惑になるだろう。
世の中、リーゼやルートさん、そしてルートさんの仲間のようないい人たちばかりではないのだから。
「んー、でも、多分大丈夫だと思うよ」
あっけらかんと言ったのはマリーさんだった。
「たしかに今年のギフト発現の儀式で、【無能】のギフトホルダーが出たのは知れ渡ってるし、なんなら君の名前も知ってる人は知ってる。
私も最初、君を紹介された時、どっかで聞いた名前だなとは思ったけど、けどすぐに君を【無能】のギフトホルダー本人と繋げることはできなかったし。
ま、そんなわけで顔まで知ってる人は少ないと思うよ」
ルートさんが頷く。
「俺も、リーゼロッテの名前は知ってたけど顔までは知らなかったからなぁ」
そういえば、リーゼは一部では有名らしいけれどその顔を知ってる人はいないらしい。
ルートさん本人が口にしたように、名前は知ってるけれど顔は知らない、というパターンは結構ある。
僕も国王様や王女様の名前は知ってるけど、顔は知らない。
肖像画も出回っているけれど、わざわざ注意して見たりしない。
身分が違いすぎて比べるのもどうかと思うけど、つまりはそういうのと同じということだろう。
「それに、評判なんてそこまで気にするもんでもないぞ。
ルートなんてやっかみ僻みから、けっこう男どもから誹謗中傷されてるしな」
ゴードンさんが、ガハハと豪快に笑って見せた。
結局、勧誘に関してはもう少し考えてみる、ということで落ち着いた。
マリーさんに、
「でも、人が美味しく見えてきたらアウトだからね?」
と念押しされてしまった。
ますます、ゴブリンを食べたことは黙っていたほうがいいだろう。
コアに関しては、ジャンケンをして勝った人が貰うことになった。
で、結局、僕が貰うことになったけれど。
たぶん、ルートさん達わざと負けた感じがする。
お腹のすき具合から、お昼にしようということになった。
念の為、ルートさん達の分もサンドイッチとお茶を用意してきたら、とても感謝された。
ルートさん達はルートさん達でお昼を用意していたけれど、それらを広げて皆でつついて食べることになった。
サンドイッチの中身について聞かれたので、
「そっちは、不死鳥の卵を使ったタマゴサンド、こっちは昨日の唐揚げの余りと、ついでにポテサラを挟んだサンドイッチです。
こっちが、ゴクラクチョウの照り焼きと茹でタマゴをスライスして挟んであるサンドイッチです」
不死鳥の肉は、少し前にリーゼと倒して手に入れたモンスタージビエだ。
いい加減使い切りたかったのでちょうど良かった。
「……不死鳥」
「ゴクラクチョウと並んで、羽根が超貴重な不死鳥の肉と、タマゴ……」
ルートさんとゴードンさんが、なんとも言えない顔でサンドイッチを見て、食べる。
「セカイッテヒロイナー」
マリーさんが、棒読みでそんなことを呟いた。
「美味しいのがまたなんとも……」
ルートさんが、照り焼きサンドイッチを食べながら呟く。
「ルートさん達のお弁当も美味しいですよ?」
「保存食の寄せ集めだけどな……」
そう卑下するけど、普通に美味しかった。
食事を終え、少し休憩する。
またモンスターを退治して、その日は終わった。
ルートさん達を連れて、ベースキャンプに戻る。
戻った僕たちを、リーゼが迎えてくれた。
「おー、おかえりー」
「おかえり、サツキ君」
「ただいま、リーゼ、ファイゼルさん」
ふと、たまたま僕の横に立っていたラネイさんを見たら、なんかものすごくガクガクと震えていた。
「ヴヴヴヴヴヴ?!?!」
なんか変な声を出している。
「どうかしましたか?
ラネイさん??」
「い、いいい、いま、ふぁい、ファイゼルって言った?!」
「はい、こちらの神官服の女性がファイゼルさんですけど」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!??」
なんだろ、ものすごくパニックっているのはわかる。
続くように、ゴードンさんも驚きの声を上げた。
「ファイゼルって、あの呪殺士のファイゼルか?!
王宮の暗殺を請け負ってるって有名な?!」
これには、ファイゼルさんが困った顔で笑った。
「いや、別に暗殺の仕事はうけてないんだけどねー」
ファイゼルさん曰く。
以前、貴族がタチの悪い呪いを掛けられ、呪い返しをして解いた事があるらしい。
その話に尾鰭と背鰭がついて独り歩きしてるのだとか。
「へぇ」
としかいえなかった。
「ま、色々話すのは飯でも食いながらでいいだろ!」
リーゼが言った。
ゴードンさんと、マリーが彼女を見る。
リーゼはリーゼですでに食べられる状態になっている、肉やら野菜やらの山を見せた。
「……ねぇ、あの焚き火の側で焼いてるの、なに??」
マリーさんが、それに気づいて訊ねてくる。
マリーさんが見たもの、それは焚き火の近くで炙られ、焼かれている頭蓋骨らしきものだつた。
リーゼが、
「ん?
あ、ゴブリンの脳みそ入り頭蓋骨だ!!
美味いんだぞ、脳みそ!
な?サツキ??」
明るく言った。
マリーさんが、僕を見てくる。
「ちょっと、お姉さんと色々お話をしようか、サツキ君??」
少し、怖かった。




