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結論から言うと、リンチはされなかった。
ただ、
『あー、あの噂に名高いリーゼロッテの関係者かぁ』
という反応だった。
「世界の滅びの裏や影や隙間にリーゼロッテあり、と言われてる彼女が師匠かぁ」
こう口にしたのは、マリーさんだった。
これだけ聞くと、リーゼが魔王みたいに聞こえるから不思議だ。
ちなみに、リーゼは名前は有名で顔は知られていないらしい。
「色々納得した」
ゴードンさんがそう呟いて、それからルートさんとラネイさんを見た。
「つーか、お前ら知ってたな!?」
「まぁな、でも、混乱させると思ったんだよ」
悪びれずにルートさんが返す。
それにラネイさんが続く。
「せ、せせせ、けんの、む、むむ、【無能】の、ギフト、ホルダーへのあつ、扱いが、あれ、だし。
き、ききき、き、君たちが、そう、で、ないかどうか、が、わからな、かった、から」
ラネイさんの言葉に、ゴードンさんとマリーさんが、
「あー、たしかに」
「まぁ、それ言われちゃうとねぇ……」
納得してくれた。
それから二人は僕を見た。
「でも、あんなの見せられちゃったら何も言えないよ」
「だなぁ。
変に手を出した時のリスクが高いし。
あれを見た後に、この子へ殴り掛かるやつがいたらただのバカだ」
ただのバカ、という言葉を聞いてリーゼがもしもここにいたら自信満々に、
『やはり、暴力!!
暴力こそ最強最高の正義!!』
と言うに違いない。
とにかく、手を出させないためには如何にそれが割に合わないかを見せるのが一番いいのだろう。
ちなみに、この後ラネイさんからまた注意された。
それから、当初の目的である食材を無事大量に確保し、この日は終わった。
食材を運ぶために、事前にリーゼから魔法の道具袋を渡されていたので、そちらで困ることはなかった。
けれど、1つ問題が起こった。
「いえいえ、ですからコアは要らないですって」
【闇夜の悪竜】のコアを誰がもらうか問題だ。
「いや、さすがにそれはなぁ」
「俺たち何も出来なかったし」
「むしろ、助けてもらった形だしねぇ」
ルートさん、ゴードンさん、マリーさんが口々に言ってくる。
「むむむ、むしろ、なん、で、いら、ないの??」
ラネイさんが当然すぎる疑問をぶつけて来た。
「だって、食べられないんですもん。
それに今、お金に困ってるわけでもないですし」
「こ、こここ、コア、は、食べ物、じゃ、無い、よ?」
ラネイさんが正論を述べてくる。
続いてマリーさんに、
「というか、もしかして食べようとしたことあるの??」
そう聞かれた。
煮ても焼いても揚げても食べられなかったことを伝える。
「コアを煮物にしようとするな!!」
ゴードンさんに怒られた。
「コアの揚げ物……って」
ルートさんはドン引きしている。
「なぁ、この子早くなんとかしないといけないんじゃないか?」
ゴードンさんが、ルートさんへそう提案した。
マリーさんが横で頷いている。
「このままだと、なんていうか。
いつか二足歩行の生き物に手を出しそうだもんね、この子」
……ゴブリンとっ捕まえて、脳みその丸焼きを食べたことがあるのは黙っていた方が良さそうだ。
白子みたいで想像以上に美味しかったんだよなぁ、あれ。
ちなみに、リーゼが手に入れてきてくれた醤油や味噌、ポン酢で食べたら絶品だった。
知能の高いホブゴブリンの脳みそのほうが、仄かに甘みとコクがあって、鍋に入れるととても美味しかったことも、黙っていた方がいいかも。
「サツキ君、うちのパーティ入りなよ」
マリーさんが意を決した表情で言ってきた。
「へ?」
まさか本当に勧誘されるとは考えていなかったので、間抜けな声が出てしまう。
「リーダーもそのつもりで連れて来たんでしょ?」
「まぁね」
ゴードンさんも、ラネイさんも反対する様子はない。
「ち、ちょっとまってください!
えと、僕なんか足手まといですよ!」
なんか話が進みそうだったので、僕は待ったをかけた。
僕の言葉にゴードンさんが呆れた表情を浮かべると、顔に手をやりながら、
「足手まといって……。
【闇夜の悪竜】を1人で倒しておきながら、何いってんだお前? 」
そう言ったのだった。




