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「バレてたか」
「いや、今ってそういう時期だろ。
レアギフトホルダー関係なく、なんつーのかなぁ潜在的能力の差が現れてくる時期だし」
僕は首を傾げる。
そんな僕にファイゼルさんが唐揚げを食べながら説明してくる。
「お仕事でも勉強でもそうだけど、スタートラインは一緒、とくに努力をしてるとかでもないけど、要領の良さとかそういうので差がつくことがある。
冒険者にとって、ステータスには反映されないところで、個人個人の能力に差がつき始める時期が今なんだよ。
たとえば、D、Eランクだけど能力的にはすでにBランクの人とかが出始めるの。
それを知ってる中堅からベテラン冒険者達は、新人冒険者の活躍ぶりを調べてヘッドハンティングを始める時期でもある。
やっぱり、どの冒険者パーティも優秀で強い仲間がほしいしね。
それに、新人くじ引きに外れた」
「はぁ」
それがどうして僕の引っこ抜きに関わってくるんだろう。
僕は【無能】のギフトホルダーだ。
レベルだってルートさん達にまだまだ遠く及ばない。
そんな僕の疑問を読んだのか、ファイゼルさんが続ける。
「あの英雄さんが、サツキ君を欲しがっているのはわからなくは無いよねぇ。
リーゼの前評判を知ってて、さらにそのリーゼが今育ててる冒険者。
まだまだレベルは低いけれど、【神々の修行場】っていうハイランクダンジョンに挑戦中。
見たところ、そんなに消耗してもいない。
それに、美味しいご飯を作る腕もある、と来れば引くて数多だよ。
まぁ、でも【無能】のギフトホルダーってことで二の足を踏んでる人の方が多いのも事実だけどね。
そこから来る、世間の評判の方が気になる人もいるわけだし」
でも、ルートさんは二の足を踏んでいない、躊躇いがない、と。
変わった人だなぁ。
「あの英雄さんが、世間の評判を気にする他の人と違うのは、レイジ君のこと含め、今までリーゼが育ててきた子達の活躍を知ってるからだろうね。
リーゼが面倒を見てきた子って、一人残らず強さだけならSSSランク冒険者のそれだから。
サツキ君は、そう見られてるわけ。
たぶん、英雄さんの中では今年のどんなレアギフトホルダーよりも有望株扱いだと思うよ」
ファイゼルさんがそう言った直後、リーゼが僕を見て、それからまたルートさんを見て口を開いた。
「要するに、サツキ君を嫁にくださいお父さん、ってことだろ?」
嫁って……。
もっと他に言い方があるだろうに。
これにはルートさんも苦笑している。
さらにリーゼは続けた。
「いや現状はどっちかっていうと、結婚を前提としたお付き合いの許可をくださいってところかね?」
リーゼは楽しそうだ。
物凄く、楽しそうだ。
言い方はアレだけど。
「聞いていた以上に、変わった人だな貴女は」
「変わっていない人間なんていないだろ」
リーゼはまた僕を見た。
そして、
「サツキはどうしたい?」
そう聞いてきた。
「どうって言われても」
僕は困ってしまった。
だって、レベルもそうだけど絶対にルートさんの足を引っ張るのは目に見えている。
「り、リーゼはどう思う?
だって、僕、レベルが不安で」
「それは大丈夫だと思うぞ」
「え」
予想外の反応に、僕は固まってしまう。
てっきり、
『たしかに、まだレベル低いしなぁ』
と言ってくれるかと思ったのに。
「英雄さん的に見て、レベルが30前後だけどステゴロでアークラプトルやゴクラクチョウを倒せて解体できる人材はほしいか否か、どっちだ?」
リーゼはルートさんへそう話を振った。
ルートさんはそれを聞いて目を丸くする。
「れ、レベル、30?!
な、ほんとに?!
そのレベルでここに挑戦してるの、というかさせてるの?!」
「挑戦っつーか、正確には食べ放題合宿中なんだけどなあ」
「常識外れもいいところだ!!
まだまだ伸びるってことだろ!?」
あ、ツッコムのそこかぁ。
食べ放題合宿にツッコミを入れてほしかった。
「いや、そうじゃなくて」
ルートさんが目を丸くしたまま、僕を見てきた。
「もし、それが本当ならとんでもない実力者ってことじゃないか!
今すぐにでも、俺のパーティに来て欲しい!!」
盛り上がるルートさんへ、今度はファイゼルさんが言葉を投げた。
「でも、それだと色々不都合があるからお試しとしてサツキ君をレンタルしたいんだよねぇ?」
ファイゼルさんの言葉に、ルートさんがハッとする。
僕はまた首を傾げた。
「いきなり有能な新人を連れてこられても困るってことだよ」
ファイゼルさんが、簡単に説明した。
「下手したら仲間から反感買っちゃうからね。
だから、お試しで一緒に冒険してみるの。
それで使えるかどうか、仲間に相応しいか否かわかるでしょ?
ダメって判断されたらクーリングオフすればいいわけだし」
わかりやすいんだけど、ファイゼルさんの言い方も中々だな。
「英雄さん的には、サツキがほしいってのはよくわかった。
じゃ、ここからは俺の意見を言うけど。
サツキ、何事も挑戦だ。
いい経験になると思うし、明日レンタルされてみたらどうだ?
かなり動けるようになってきたし、もう、俺が見てなくても大丈夫だ。
自信もっていい」
そんなこと言われたら、断れないじゃないか。
僕がモヤモヤしていると、さらにリーゼは言ってきた。
「それと、最上階層にいるヘルボーンラプトルってモンスターを倒して、その骨を回収してきてくれ」
「はい?」
「骨だけのモンスターなんだけどな?
あいつの骨でとった出汁って絶品でさ、久々にその出汁使ったカレーうどん食いたくなったんだよ」
……リーゼからすると、初めてのお使い扱いらしい。
ルートさんを見たら、その顔が引きつっていた。
「あれ、ゾンビ系のモンスターなんだけど、出汁取れるんだ……」
そんな呟きが聞こえてきたけれど、僕は聞き流した。
こうして、僕は一時的に天下の英雄率いるパーティに飛び入り参加する事が決定したのだった。




