13
温泉からあがって数分後。
「俺の酒が飲めないってか?
えぇ?天下の英雄様??」
僕の目の前では、酔っ払ったリーゼがルートさんを押し倒して跨り、酒瓶を口に突っ込んで無理やり飲ませている光景が繰り広げられていた。
アルコールハラスメントである。
見事な、それこそアルコールハラスメントのお手本のような光景が繰り広げられている。
「い、いや、そういうわけじゃ」
「男なら飲めるだろ。
ほれ、イッキイッキイッキ!!」
ケケケと笑いながら、天下の英雄の口に酒瓶をツッコミむりやり流し込んでいる。
グボグボグボ、とアルコールが一気にルートさんの口の中に流し込まれる。
あーあーあー、めちゃくちゃ酔っ払ってる。
相手が女性ということもあるからか、ルートさんも手が出せないようだ。
「ほらほら、唐揚げもたんまりあるからどうぞー」
と、空になった酒瓶をルートさんの口からとっぱらい、ファイゼルさんが
「はい、あーん」
と唐揚げをこれでもかとツッコミはじめた。
「り、リーゼ、ファイゼルさんも、もうその辺で」
さすがに天下の英雄にアルハラしたとあっては、大問題だ。
いや、リンチとハラスメントは誰にしてもダメだけど。
「大丈夫だよ、英雄さんは酒豪で有名だから」
「せ、せめて、そろそろ水を飲ませないと危ないよ」
僕の言葉に、リーゼはそれもそうかと納得して、ルートさんから降りると水の入った瓶を持ってきた。
「あ、あはは、まさかサツキ君が、あのリーゼロッテの弟子だったとは。
それに、呪殺者ファイゼルも一緒だったなんてね」
ルートさんは、水を飲んで一息つくとそんなことを口にした。
とりあえず、急性アルコール中毒にはなっていないようだ。
「おや、俺の事を知ってるのか?」
「まぁ、有名だからなぁ。
トラブルの裏に、リーゼロッテ有りとまでいわれてるくらいだし。
邪竜が封印されていた祠が壊されて、邪竜が復活して世界が滅びかけた時も、実は貴女の暗躍が噂されていたくらいだし」
「暗躍って、酷い言われようだな」
リーゼがケラケラ笑った。
「言葉が悪かった。
でも、なにかしらそう言ったトラブルの裏には、いつだって貴女がいる。
俺が魔王軍の幹部を倒した時もそうだった。
あの時、もっとヤバい奴が裏にいた。
でも、同時期そいつを倒したのがリーゼロッテ、貴女と当時パーティを組んでいた冒険者だった」
そこでファイゼルさんが口を挟む。
「っていうと、五年前かぁ。
あ、レイジ君と組んでた時だねぇ」
レイジ君。
その人が、僕の前にリーゼの弟子だった人。
「そう、レイジ・ライドリュー。
【覇王殺し】と、裏の世界でまことしやかに噂される英雄だ」
覇王。
たしか、魔王の一人だったはずだ。
人間の国が複数あり、その国ごとに王様がいるように、魔族側にもたくさん国があり、その国ごとに魔王が存在している。
覇王というのは、そんな魔王の一人だったはずだ。
「本来なら、【勇者】のギフトホルダーにしか倒せない魔王の一人、【覇王・ルルグゾルデ】。
その首をとったのが、当時俺と同い年だったレイジ・ライドリューだった。
英雄として祭り上げられてもおかしくなかったが、何故か彼は表舞台に出てくることはなかった」
「そりゃ出てこられないだろ。
あいつ、【無能】のギフトホルダーだし。
本当のこと言ってもどうせ誰も信じないからな」
リーゼが淡々と返した。
「うん、貴女はそんな【無能】のギフトホルダーを育てることでも一部で有名だ」
僕の体に、知らず力がはいる。
リンチされそうになっても、すぐ逃げられるようにだ。
「育てる価値がない、と考えられている【無能】のギフトホルダー。
でも貴女は決まって【無能】のギフトホルダーを仲間にしている。
そしてリーゼロッテ、貴方が育てた【無能】のギフトホルダーは表舞台にこそ出てこないが、全員が全員、英雄と呼ばれるほどの活躍をしている」
「だから?」
「いや、どうやって指導してるのかなぁと思って」
そこから、ルートさんは顔を伏せて、また味見の時のようにグズグズと泣きながら愚痴りはじめた。
「ほんと、コツとかあったらおしえてください、マジで」
アルコールが入ってるからか、イケメンの顔が台無しのぐちゃぐちゃになっている。
「いや、もうほんと言うこときかないし。
勝手なことするし。
余計なことするなって叱ると、じゃあもう何もしないとか子供みたいに愚図るし。
俺、ほんと誰かを教えたりする才能ないなって、鬱になっていくというか、そんな考えが止まらなくなるし。
どうやって、指導、教育してるのか気になって」
「どうもこうも、普通に教えてるだけだ。
まず、どうやったらいいか見本を見せるだろ?
そのあとやり方を説明して、実際にさせてみせる。
んで、失敗しても成功しても褒める。
最初のうちは失敗するのがあたりまえだから、なるべく怒らない貶さない叱らない。
いいところを見つけ次第ほめる。
そのあとで分からなかったこととか、どこが出来てなかったとか話し合ったりして、コミュニケーションとりつつとりあえずやらせてみる。
任せてみる、とも言うけど。
しばらくそうやって様子見して、動けるようになって来たら、仕事を任せてみる。
というか手伝ってもらう。
手伝ってもらってることに、感謝の気持ちを忘れずにおく。
ありがとうをちゃんと伝える。
そして信頼もわすれない。
それだけ」
「それだけって」
ルートさんが、どこか呆れていた。
リーゼの言葉通りに出来たら苦労はない、言いたげだ。
でも、これだと前にリーゼが言っていた言葉と矛盾するのではないだろうか。
プライドの高い新人には効かなそうだ。
「まぁ、あとは相手に合わせて試行錯誤かなぁ。
このやり方はほんと相手にもよるし。
ダメな時はほんとダメだし。
というか、本題はそっちじゃないよな?
どうせ、サツキを仲間にしようと引っこ抜きにでも来たんだろ?
英雄さん?」
リーゼの言葉に、ルートさんは涙を拭うと彼女を見返した。




