12
リーゼ達が酒盛りをはじめて少しした頃。
「片付け終わったから、温泉行ってくるね」
僕は酒盛りしている二人にそう伝えて、温泉に向かう。
二人は、手をヒラヒラさせる。
ザワザワと軽い喧騒に周囲は包まれていた。
あちこちで冒険者パーティが、酒盛りや食事をしている。
その中を通り過ぎて、温泉へと続く階段へたどり着く。
階段を降りる。
適当な場所で服を脱いでタオルを巻く。
お湯に浸かって、一息ついた。
「ほぅ」
ぼんやりと、天井を見る。
ゴツゴツした岩が見えた。
「おや、さっきぶり」
しばらくぼんやりと天井を眺めていたら、ついさっきも聞いた声が届いた。
声のした方を見る。
「あ、ルートさん」
腰にタオルを巻いたルートさんが立っていた。
見えている部分、すべてが鍛え抜かれ、引き締まっている。
全然筋肉がつかない僕とは大違いだ。
どうも、と挨拶する。
「唐揚げありがとうね。
仲間と食べたんだけど、一瞬で無くなったよ」
とニコニコしながら言ってきた。
「ゴクラクチョウの肉って言ったら、驚いてたけどね」
「あはは」
「みんな美味しいってほめてたよ」
「そうですか。
お口にあったようで、なによりです」
「ところで」
ルートさんは周囲を見回す。
「君の仲間は?」
「あー、酒盛り中です」
「そういえば、言ってたね。
君は飲まないの?」
「アルコール苦手で」
ルートさんもお湯に浸かる。
僕も周囲を見回して、
「そちらの仲間は?
というか、何人で挑戦してるんですか?」
聞いてみた。
「俺入れて四人。
一人は仮眠、二人はもうひと暴れしてくるって最上階に行った。
で、俺は一風呂浴びに来たってわけ」
そう説明してきたあと、ルートさんはこう続けた。
「でもちょうど良かったかなぁ」
「?」
「サツキ君さ、明日俺と組んでこのダンジョンの最上階層に挑戦してみない?」
「へ?」
最上階層って言ったか、この人??
「いや、短期間でここに挑戦できる新人冒険者って珍しいからさ。
興味があるんだよねぇ」
「で、でも、リーゼがなんて言うか」
「あ、もちろん仲間と相談してからでいいよ」
ルートさんはそう言ってから、さらに説明してくる。
それによると、ダンジョンに挑戦中の冒険者同士の交流も兼ねて、一時的に疑似パーティを組むことがあるとのことだ。
「なんなら、温泉から上がったら直接俺からも話をしに行くし」
ベロベロに酔っ払ってるだろうけど、大丈夫かな。
「あのリーゼ達、素面じゃないと思うんですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。
冒険者は大酒飲みが多いから」
この人、 リーゼに抱き枕の刑にされそうなんだよなぁ。
……歳もリーゼと近いし。
それに、あの話を聞いたあとだと色々不安になる。
でも、英雄からの申し出だ。
無下に断わるのは失礼だろうし。
まさか、英雄がそう易々とリーゼに押し倒されたりしないと思うけど。
そうなったら、いわゆる行きずりの、くんずほぐれつみたいな、そういうことが起きたら大変だし。
そんなことが一気に脳裏をめぐり、
「あ、はい、わかりました」
結局、僕はそう返すことしかできなかった。




