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「あ、あの!!」
僕は意を決して、彼女へ声をかけた。
白髪の美女は立ち止まって、僕を振り返る。
「えと、貴方はいったい?」
「ん?あぁ、まだ名乗って無かったな。
リーゼロッテだ。リーゼでいいぞ。
よろしくな、相棒!」
なんて言ってバシバシ僕の背中を叩いてくる。
痛い。
「相棒??」
僕は首を傾げる。
「あの、リーゼさん、誰かと勘違いしてませんか?
僕は……」
僕の今の立場を説明するのもどうかと思ったけれど、説明しないわけにはいかないだろう。
けれど僕の言葉は続かなかった。
「説明は後々!
ほら、とっとと冒険者ギルドに登録行くぞ!
俺の雑用係ってことにするから、口裏合わせてくれよ?
それと、【さん】付けはしなくていい」
リーゼはそう言って、僕をズルズルと冒険者ギルドまで引っ張っていった。
なんなんだろ、この人。
とにかく、あれよあれよという間に僕は冒険者ギルドに連れてこられた。
そして、冒険者として登録をされた。
受付さんや、ギルドの他の人が色々言ってきたけど、リーゼは聞く耳を持たず、
「いいから黙って仕事しろや」
と一喝していた。
そして、冒険者ギルド側からしたら渋々といった感じで、僕を冒険者として認定、登録、ギルドカードを作ってくれたのだった。
「あ、あの、その」
とにかくお礼を言った方が良いだろうと考えた。
本来なら、普通の暮らしすら出来ない運命だった。
ギフト【無能】を与えられた者は、そういう運命を辿るのだ。
「ありがとうございます」
「いいって。
それよりも、だ!
デートしようぜ、少年♡
色々話してやるからさ!!
いや、見せる、が正解かな」
リーゼはそう言って、また僕の腕を掴んだ。
そして、隣接されている酒場の一番奥の席を陣取ってすわる。
「店員さーん、注文お願いしまーす。
ホクホクポテトとアルコール。
アルコールはジョッキで」
座りながら、店員へ飲み物と軽く摘めるものを注文した。
続いて、
「お姉さんが奢ってやるぞ、何が飲みたい?」
僕の分も聞いてくる。
「あ、と、その、ミルクで」
「りょーかいりょーかい。
店員さん、ミルクも一つ」
店員が、営業スマイルを浮かべて注文を受けると厨房に引っ込む。
それを見送って、リーゼは僕へ言ってきた。
「さてさて、それではおめでとう少年!」
なんか、祝われた。
皮肉だろうか。
でも、この人が僕を救ってくれたのは事実なわけで。
「あ、その顔。
なにがおめでたいんだーって顔だな?」
図星だ。
「俺からしたら物凄く、羨ましいギフトを与えられてるから、すごくおめでたいんだよ」
「【無能】のどこが羨ましいんですか」
「はい、丁寧語はダメー。
タメ語にしな、少年。
なんてったって、これから相棒として一緒に冒険するんだから。
立場は同等だ。
俺たちの立場は同等なんだよ、サツキ・アルドール君?」
ご丁寧に、両腕を交差させて大きなバツ印を作りながらそう言ってくる。
なんなんだろ、この人。
変な人だな。
「はぁ、わかりまし、わかった」
「よしよし、おーけーおーけー。
さてそれじゃ、改めて、レアギフト授与おめでとう!」
「ありがとう??」
ありがとうでいいのかどうなのか、イマイチわからない。
「それじゃ、説明な。
ギルドカード出してみ?」
言われるがまま、僕はたったいま作ったばかりのギルドカードをテーブルに置いた。
「ステータス出して」
僕は、受付で説明された通りの動作をする。
ギルドカードに手をかざした。
すると、僕のステータスが目の前に表示された。
■■■
○名前:サツキ・アルドール
○状態:普通
○ギフト:無能
○技能:無し
○特殊:無し
■■■
いっそ笑いたくなってしまうほど、スカスカな個人情報が表示される。
そんな僕のステータスを見て、リーゼはとても楽しそうだ。
「それじゃ、次、ずーっと下までスクロールさせてみ」
言いつつ、リーゼは指を滑らせる動作をした。
この表示を言われるがまま、下に動かしていく。
ステータス表示が消え、代わりにメモ帳のようなマークが現れた。
そのマークをリーゼは指し示す。
押せ、もしくは触れろ、という事らしい。
その間にも、リーゼはリーゼで、自分のギルドカードを使ってステータスを表示させていた。
かと思えば、実に手馴れた動作であのマークに触れている。
彼女のステータス表示が全く別のものに切り替わる。
僕もマークに触れた。
リーゼが表示させているモノに切り替わった。
「けいじばん??」
僕はつい、冒険者ギルドに設置してある依頼掲示板に視線を走らせた。
そこには、文字通り依頼が貼り付けてある。
しかし、ここに表示されている掲示板は、それとはまた別の物のようだ。
様々な項目にわかれ、題目のようなものが並んでいる。
「ちょっと待ってろよ~」
のんびりとリーゼは言って、表示をいじり始める。
その時、注文した物が届いた。
店員が注文に間違いがないか確認する。
リーゼは表示を弄るのに集中していたので、僕が代わりに確認した。
間違いはなかった。
店員がテーブルを離れていく。
そして、ようやくリーゼが顔をあげた。
かと思うと、表示へ触れて僕の方へくるりと回して見せてくる。
「あの、これは??」
「掲示板、情報のやり取りをする場だよ。
知らねーだろ??」
知らなかった。
僕はマジマジとその表示を見る。
「ここに書いてあるのがスレタイ。
その下に番号と文字が並んでるだろ?
ここに各自書き込むんだよ。
ギルドカード持ってるやつなら、誰でもこの掲示板を立てられる。
立て方は、ここに書いてある」
リーゼは意気揚々と説明してくれた。
「さて、じゃあお前のことをスレに住む変人達に紹介しようかね」
言いつつ、リーゼは書き込みを行った。
同時にアルコールの注がれたジョッキを手にして掲げる。
乾杯をしたいらしい。
僕もミルクの入ったカップを手にした。
カツン、と控えめな音が響く。
グイッとリーゼはアルコールをあおった。
その時だった、次々に掲示板に文字が書き込まれ、流れて行く。
「こいつら全員冒険者な。
ほら、お前も書き込めよ」
言いつつ、リーゼがさらに書き込みをおこなった。
【無能】のギフトホルダーをお持ち帰りしたとかなんとか書かれている。
僕のことだ。
「え、えぇ、僕も??」
戸惑いながら掲示板を見ると、なにやら異様な盛り上がりを見せていた。
そこに悪意はなかった。
好意的に見えた。
僕は、
「こ、こうですか?」
恐る恐る書き込みをした。
コテハンなるものを、名前にした方がいいと言われたので、今の僕にピッタリな【能無し】にしてみた。
「自虐的だねぇ」
リーゼは苦笑した。
ちなみにリーゼのコテハンは、【底辺冒険者】である。