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SSSSS級ダンジョン――【神々の修業場】の中は、時間の流れが緩やかで、さらに挑戦者の肉体自体は挑戦時のまま歳を取らないらしい。
「あと、上に行けば行くほど時間の流れがめっちゃ緩くなる。
最上階層に挑戦してるやつは、何万年、何億年ってレベルで引きこもって修行してるぞ。
俺はやんないけど」
リーゼは説明しながら、またケラケラ笑った。
そりゃ数万年、数億年という年月、ずっと修行し続ければ嫌でも強くなるだろう。
僕はリーゼを見た。
本当の意味での【無能】である彼女に、僕は勝てる気がしない。
彼女と比べたら僕の方がスキルをたくさん取得している。
数値からもそれはわかる。
けれど、彼女より強くなったという気がしない。
欠片もしない。
もしも、僕も最上階に挑戦したならリーゼみたいに強くなれるのかな。
何万年、何億年も修行したなら。
リーゼに追いついて、いつかは追い越すことが出来るのかな。
いつか僕がリーゼの腕を掴んで、逆に引っ張って行けるようになるのかな。
そんな日がいつか来るのかな。
でも、そんな日が来るとしても。きっとそれは……。
もっとずっと先の事なんだろう。
「今いる下層から中層までは、一年過ごせば外だと一週間くらい経過してる。
これが高層から最上階層だと、ほぼ外の時間は止まってると思っていい。
今回の食べ放題合宿はダンジョン内で一年予定だ。
つまり、外の時間だと1週間だな。
下層を中心に合宿する」
「え、中層には行かないの?」
「お、やる気満々だなぁ。
中層にも行くけど、ベースキャンプを張るのは、ここ下層だ」
「なんで??」
僕の質問に、リーゼは意味深な笑みを浮かべるとさらに奥へと僕を案内してくれた。
外から見た以上に、ダンジョンの中は広かった。
「一階と地下一階にはモンスターが出ないんだ。
だから、ベースキャンプを作ってるやつがそれなりにいるんだ」
言われてよくよく周囲を見てみる。
あちこちにテントやら寝袋やらが転がっている。
寝袋はモゾモゾ動いているから、たぶん誰か寝ているんだろう。
ズンズンと進んでいくと、地下へと続く階段が現れた。
かと思うと、独特の香りが鼻をついた。
リーゼはその階段を降りる。
腕を引っ張られているので、僕も一緒に階段を降りた。
階段を降りた先。
見えた光景に、僕は絶句した。
独特の硫黄の臭い。
そして、石鹸の香り。
真っ白い湯気。
地下一階には温泉があったのだ。
温泉の周囲には石畳が敷き詰められ、丸い石で温泉が縁取りされるように並べられていた。
その湯気の中でいくつか影が蠢いていた。
「え、えええ?!」
「混浴温泉があるんだよ、ここ」
驚く僕に、リーゼは説明してきた。
「使う場合は、服は濡れないようにあっちの棚におけよ。
籠もおいてあるから。
タオル、水着は各自持参。
持ってきただろ?」
リーゼが説明する横で、温泉に浸かっていた影のひとつがユラリ、と動いて湯気の向こうから出てくる。
その影が声を掛けてきた。
「あ、誰かと思ったらリーゼかぁ」
声を掛けてきたのは、いつぞやの神官服を着ていたおっパイ、もとい呪術士の女性だった。
リンチされた僕の怪我を治してくれた彼女である。
「あー、新人のサツキ君だー。
こんにちは」
「あ、えと、こんにちは」
僕は直視出来ずに、目を逸らしてしまう。
そんな僕に構わず、彼女は言ってくる。
「そういえばちゃんと名乗ってなかったねー。
私、ファイゼルっていうのよろしくね」
「あ、はい、どうも」
呪術士のファイゼルさんは、僕が視線を逸らしていることに気づくとわざわざ視界に入るように屈んでくる。
彼女は大きなタオルを体に巻き付けていた。
そのまま温泉に浸かっていたのだろう、タオルが体にピッタリと張り付いて、その豊満な胸から腰のラインから、とにかく彼女の体つきを強調させている。
なんなら胸にある二つの飾りも、その存在を強調していた。
僕はまた視線を逸らそうとする。
でも、それはファイゼルさんによって阻止された。
「アハハ、君は初心で真摯だねぇ。
熟れた果実の味、試してみる?」
ファイゼルさんは僕の顔を手で包むと、胸元へ寄せていく。
おっパイ、おっパイが、谷間が、谷間が目の前に!!
うぁぁぁあっ!!
「た、たすけて、リーゼぇ~」
僕はリーゼへ助けを求めた。
そのリーゼはというと、
「あ!!ぱふぱふするなら俺も!!俺も!!」
とわけのわからない声をあげていた。
すると、そこでファイゼルさんの手がパッと離れる。
「なんてね、服が濡れちゃうし、ほかの人もいるから。
また今度ねぇ」
ファイゼルさんは、ニコニコと笑っていた。
リーゼも楽しそうに腹を抱えて笑っている。
この二人にからかわれたのだと、直ぐに気づいた。




