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「うん、動きも良くなってきたし。
スキルも育ってきたな。
ここらで食べ放題合宿でもするか!」
と、牛型のモンスターを解体している僕に向かってリーゼは言ってきた。
その手には、スライムを刺した串。
スライムの串刺しを火で炙る。
ピクンピクンと、スライムが炙られて動いている。
「食べ放題合宿?」
僕は肉を切り分けて、網の上に置いて焼き始めた。
あみの上には、他にも様々なモンスターの部位が乗っている。
「そ、前にも【無能】のギフトホルダーを育てたことがあったんだけどな。
そいつと一緒に食べ放題合宿やったんだ。
楽しかったぞ」
「へぇ」
まぁ、想像してはいたけど教え子が他にもいたんだ。
そういえば、ほかの【無能】のギフトホルダーにはあったことないな。
リーゼはギフトホルダーでは無いから、カウントしないでおく。
「……その人とは今でも連絡をとってたりするの?」
そんな気配は皆無だった。
そもそも男性の気配が皆無過ぎる。
女性の気配はとても多い。
なんなら、飲み潰れた知人が部屋に泊まることもしばしばだからだ。
ベッドの上でリーゼが、泊めた知人女性を抱き枕にしていたのも一度や二度ではなかった。
「そういえばしばらく一緒に飲んでないな」
酒飲み仲間ということはよくわかった。
けどやっぱり不思議だ。
僕は牛型モンスターの目玉二つを繰り出して、串に刺すと火の近くに置いた。
そしてリーゼを見る。
彼女との今までを思い出す。
リーゼもその知人女性もいわゆる適齢期だ。
結婚しないのだろうか。
僕のいた村では、お節介おばさんがいつまで経っても結婚しない女性や男性へお見合い話を持ちかけていたっけ。
「ん?どした??」
僕の視線に気づいて、リーゼが聞いて来る。
「……リーゼって、家族から結婚を催促されたりしないの?」
孤児院の関係者のことを彼女は家族と言っている。
だから、彼女を育てた人たち。
彼女からすると父と母になる人たちは、彼女にそういったことをせっついたりしないのだろうか。
「唐突だなぁ。
んー、無いなぁ。
好きに生きろって言われてるし。
それに、結婚したら子供作らないとだろ。
それが嫌だ」
「子供が嫌いなの?」
「…………」
え、なにこの間?
「嫌いだったらお前をうちに入れてない」
子供扱いされてた。
僕だって、男なのに。
たしかにリーゼと比べれば、弱っちいし、そもそも異性として見てないのは分かりきってたけどさ。
それでも、僕も男なんだけどなぁ。
そうは思っても伝えられない。
「……いい機会だから、ひとつ言っておく。
少年、君に大切な人ができて、その人と結ばれ、子供が出来たとしても。
子供を産むかどうかは、相手の意思しだいということを覚えておいてほしい。
少なくとも君にある決定権はとても弱い。
だって、君は命をその身に宿すことは出来ないんだから」
いつになく、真面目な顔でリーゼは言った。
「二人で望んだ愛の結晶だろうがなんだろうが、結局宿すのも産むのも女なんだからね。
そして、産んだ結果死ぬかもしれないのも女だから」
なんでそんな話を今するんだろう?
そう考えながら、彼女が次々空にしている酒瓶が目に入った。
たしかアルコール度数20パーセントのやつだ。
いつのまに五本も空けたんだ、この人。
「……リーゼ、酔ってるね?」
「いやいや、酔ってないよ」
酔っ払いはみんなそういうんだ。
さらに、リーゼは重い言葉を付け加えた。
「それに、だ。
愛や育てる覚悟なくても、腰さえ振ってれば子供はできるんだ。
それこそ、身体が出来上がってなくても、機能さえ備わっててそれがしっかり働いてる場合、10歳の子供同士だろうが子供を作れるし、産もうと思えば産めるんだよ」
グイッとリーゼは酒をラッパ飲みした。




