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「ねね、どんなギフトが与えられると思う??

私はね、聖女がいいなぁ」


うきうきと僕の横でそういったのは、幼なじみの少女――リリアだ。


「リリアなら与えられそうだよな!なんせ女神みたいに優しいし」


そう口にしたのは、幼なじみの少年――ジークである。

きゃっきゃ、あははと実に楽しそうに二人は会話をしている。


「女神は言い過ぎだよぉ、ジーク!!」


満更でもなさそうな反応を返して、リリアは微笑んだ。


(お似合いだよなぁ)


そんな幼なじみ二人を見ながら、僕はボンヤリとそう考えた。


「サツキはどんなギフトがいい??」


リリアが僕に話を振ってきた。


「なんでもいいよ」


僕はそう返した。

僕は身の程を知っている。

僕にはリリアのような可愛さや美しさ、聡明さもなければ、ジークのような強さも無い。

ジークは村1番強い少年だ。

大人だってコテンパンにできるのだ。

リリアは村で1番頭がいい。

そんな2人に比べて、僕はと言えば非力で馬鹿だ。

村の皆から、ずっとそう言われてきた。

だから、きっとそうなのだ。


「えー、なんかないの?

これが良い!ってやつ!」


リリアが更に聞いてくる。

なんなら、顔をずいっと近づけてきた。

ますます美しくなってきた彼女の顔がドアップになるのは、中々心臓に悪い。


「そうだなぁ……。

あ、畑仕事が便利になるから【農民】がいいかな」


無難な返答をしておく。

ここで、まかり間違っても【勇者】とか【剣聖】がいい、などと言ったら笑われてしまうからだ。

とくに、ジークに。


「ほら、うち親いないからさ」


念の為こう言っておく。

センシティブなことを言っておけば、とりあえずそれ以上の追求は無いからだ。

はたして、この返答は正解だった。

二人は顔を見合わせて、気まずそうにする。

僕に親はいない。

元々捨て子で、とある農家の畑に捨てられていた。

その畑の持ち主である老夫婦が拾って育ててくれたのだ。

しかし、その老夫婦達も高齢だったため、四年前に養父が、二年前に養母がこの世を去った。

いまは、一人暮らしである。


「でも、緊張する~」


話題を変えるため、リリアがそう口にした。

そして、キョロキョロと周囲を見回す。

ここは、王都にある大神殿前にある広場だ。

そこに王国中の少年少女たちが集まっている。

神からギフトを与えられる儀式のために、集まっているのだ。

その少年少女たちが大神殿の入口から、広場をグネグネと蛇のように並んでいる。

出てくる彼らの表情は明るかったり、残念そうだったり様々だ。

そんな列を遠巻きにしている者たちがいる。

大人たちだ。

記者もいる。

レアギフトホルダーが現れたら、取材するためだ。

他には冒険者パーティだったり、騎士団の者達もいる。

レアギフトとは言わないまでも、必要なギフトホルダーがいたなら勧誘するためだ。

実際、大神殿から出てきた子達は声を掛けられていた。

玉石混交。

王侯貴族、平民関係なく、列は形成されている。

少しずつ列が進んでいく。

その時、とある人と視線が合った。

女性だった。

雪のように真っ白な髪と、チェリーのように真っ赤な瞳をした、リリアよりも美人な人だった。

ドキッとして、僕はすぐに視線を外した。

あの人は、冒険者かな。

ちらり、ともう一度女性を見た。

女性は列をしげしげと眺めている。

僕とは視線が合わなかった。

ちょっと残念だ。


「わかる、すごく緊張するよな」


そんな雑談を二人が交わしている。

二人みたいに恵まれていても、緊張ってするのか。

僕はといえば、全くそんなことはなかった。

才能が皆無だと自覚しているからだ。

そして、こんな自分でも与えられるギフトがあるとするなら【農民】くらいだろうと考えているからだ。


ギフトが与えられた所で、僕の生活が変わるわけじゃないからだ。

これまでと同じ日々が続いていく。

英雄や勇者、剣神、そんなヒーローに憧れていないと言えば嘘になるけれど。

じゃあ、だからと言って僕自身がそれになりたいかといえばそんなことはない。


僕は、そんなヒーローになれる人間じゃないから。


「……なんか騒がしくない?」


急にザワザワと大神殿の中が騒がしくなった。

なんだなんだ、と列に並んでいた少年少女たちが大神殿に視線を向ける。

やがてざわめきの正体が伝わった。

【大賢者】と【聖騎士】のギフトホルダーが出たらしい。


「うそ」


「マジかよ!!」


幼なじみ二人が驚愕している。

僕も驚いた。

伝説級のレアギフトだからだ。

そうこうしている間にも、列は進んでいく。

その横を、金髪碧眼の青年が颯爽と走り抜けて行く。


「おい、あれ、魔将殺しの英雄、ルート・カイルゲルじゃないか?!」


ジークが青年を見て声を上げた。

魔将、魔王軍の将軍だ。

五年前、王都を襲ってきた魔族だった。

それを倒した英雄が、当時15才の少年だったルート・カイルゲルである。


「あ、あそこあそこにいる人見て!!

英雄エルリアよ!!

帝国を救った人よ!!」


他にもそこかしこに、現代の英雄がいることに幼なじみの二人のみならず、儀式に集まった少年少女たちが気づいた。

広場は混乱しつつあった。


(英雄多いなー、英雄のバーゲンセールみたいだ)


僕はそんなことを思った。

二人のように素直にはしゃげないのは、はしゃいだところでどうしようもないからだ。

話せるわけじゃないし。


列は進む。

またしても、大神殿の中からざわめきが上がった。

今度は【大魔法使い】と【槍王】が出たらしい。


「今年はどうなってんだよ?!」


そんな叫びがあちこちから上がる。

そんな中、


「今年は当たり年だなぁ」


のんびりとした呟きがすぐ近くから聞こえた。

見ると、あの白髪の美女がすぐ横に立っていた。

いや、他にも大人たちが列を囲むようにして立っていて、大神殿を見つめている。


ぽぉっと、僕は女性を見た。

そんな僕に気づいたのか、ジークも女性を見た。

ジークも彼女に視線が釘付けになった。

なんなら、顔を赤らめている。

女性はやがて、僕の視線に気づいてニッコリと笑ってみせた。


「……っ!!」


心臓がバクバクと高鳴る。

女性は、列から離れていった。


「ちょっと、どこ見てるの?!」


そんな僕たちに気づいたリリアが、不機嫌な声をあげる。


「あ、いや、綺麗な人がいるなぁって思って」


僕はつい口を滑らせた。

するとリリアは、去っていく女性の背中を見ながら、


「そう?

ただの年増(ババア)じゃないの」


鼻で笑った。

その反応に僕は、昔はこうじゃなかったのになぁ、なんて思うのだった。


やがて、僕たちの番が来た。

大神殿内の中央には祭壇があり、水晶が置かれている。

そこに一人ずつ手をかざすのだ。

まず、ジークにギフトが与えられた。

神々しい光が彼の体を包む。


そして、神官が与えられたであろうギフトを伝えるのだ。

神官は少し、狼狽えたようだった。

しかし、


「け、剣神っ!!」


しっかりと仕事はした。

響いたその宣告に、あのざわめきが起こった。

続いてリリアも同じようにギフトを宣告された。


「せ、聖女!!」


またしても、神官は狼狽えていた。


(本当に当たり年だ)


僕は、あの美女の呟きを思い出していた。

そして、僕の番が来た。

水晶に触れる。

光が僕を包む。

光が消える。

僕は神官を見た。

神官は、生ゴミを荒らす烏をみるかのような目で、僕を見た。

そして、吐き捨てた。


「無能」


血の気が引く音を聞いた気がした。

周囲の人達の視線が突き刺さる。


やがて、ザワザワとそれが聞こえてきた。

現実が聴こえてきた。


「無能が出た?」


「まじか」


幼なじみ達をみた。

すぐ近くで、僕への宣告を聞いた二人を見た。

二人は、神官と同じ目をして僕を見ていた。


「あ、あ……うそ」


シーンと静まり返る。

そこには、侮蔑があった。

そこには、嘲笑があった。

そこには、白い目があった。

そこには、そこには、僕が人間以下になったという事実が転がっていた。


「あ、う……」


ジリジリと、神官たちが僕ににじり寄ってくる。

その手には、棒。

ジークは手の指をパキパキ鳴らして、僕に近づいて来た。


ギフト【無能】。

つまり、神様から嫌われてなにも与えられなかった存在。

それはつまり、人間ですら無いということ。

人間扱いされないという、レッテルだ。


この後のことは、簡単に想像できた。

殺されるか、その手前まで僕は叩きのめされる。

その恐怖に僕は、ガクガクと震え出した。

逃げ出したいけれど、すでに神官たちに囲まれてしまっている。


(こ、ころされる!!)


そう覚悟した時だった。

颯爽とあの白髪の美女が現れた。

そして、神官たちや幼なじみ達を無視して僕の前に立つと、ニッコリ笑顔を向けてくる。


「ギフトがわかったなら、すぐに表出てこいよなー。

待ってたんだぞ!!

ほら!冒険者登録しに行くんだろ??

早く行こうぜ!!」


美女は、そんなことを口にしたかと思うと僕の腕を躊躇無く掴んだ。

でも、乱暴な掴み方ではなかった。

早く早くと親を引っ張る子供みたいな、掴み方だ。


「え、ええ??」


僕は戸惑ってしまう。

彼女は、さも僕と知り合いというふうに接している。

しかし、僕が彼女を見かけたのは本当についさっきだ。

つまり、知り合いでもなんでもないのだ。

さらに言うなら、僕は【無能】のギフトホルダーとなってしまった。

こんな感じで親しくしてもらうような存在ではないのだ。

蔑み、迫害される立場になったのだ。

それなのに……。


「ほらほら、早く行こう!

俺たちの冒険はこれから始まるんだから!!」


彼女はすごく楽しそうに言ってくる。

その瞳には、蔑みも迫害もない。

ただただ、楽しそうな色が浮かんでいる。

そうして僕は、ただされるがまま、大神殿から連れ出されたのだった。

背後を振り返ると、ポカーンとした顔で神官達と幼なじみ達が、こちらを見ていた。

追ってくることはなかった。

そのことに凄く安心した。

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[良い点] 悪食(何でも食べれる)スキルかもん! たぶん暴食とか過食とかいらんスキルも付いてきそうだけど! [気になる点] そういやお食事()して得たスキルってオン/オフできるんかな? マイナス系スキ…
[良い点] さす底辺冒険者 [一言] 自称『底辺』だけど多分SSSランクとかだねこの人 以前崖下で勇者拾った人とは別人?
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