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トラブルは、その後起きた。
リーゼがヒトクイヘビの頭を踏んづけて、地面に押さえつける。
その間に僕が、彼女から借りた剣でヒトクイヘビの頭を落とした。
頭を切り離したというのに、ウネウネとヒトクイヘビの体が動いた。
これは、鶏を〆た時にも見られる光景なので、そんなに驚かなかった。
驚いたのはその後だ。
僕はリーゼの指示に従って、ヒトクイヘビの体を捌いていく。
ヒトクイヘビの頭は、脇に置いておいた。
その解体の途中で、
「あっ」
リーゼの声が聞こえたかと思ったら、僕の体、というか腕に衝撃と痛みが走った。
見ると、腕にヒトクイヘビの頭が生えていた。
咬まれていた。
「?!」
僕はパニックになった。
「え、えええ?!」
脳裏に死が横切る。
ヘビの中には猛毒を持つものがいる。
ヒトクイヘビの毒がどんなものかは知らないが、毒を持っているということは知っていた。
「落ち着け」
パニックになる僕とは違って、リーゼは冷静だった。
無理やりヒトクイヘビの頭を僕の腕から引っぺがす。
それから適当な剣で、地面に縫い付けてしまった。
そしてすぐに僕を見ると、僕をその場に座らせた。
「動くな」
リーゼは包帯を取り出した。
すると噛まれた箇所ではなく、僕の二の腕へそれをキツく巻き付けた。
続いて、咬まれた箇所を見た。
「ちょっと我慢しろよ?」
言いつつ、ぺろり、とリーゼは舌を出した。
真っ赤な舌に視線が釘付けになる。
「……え?」
聞き返す暇はなかった。
彼女の口が傷口を覆った。
舌があたる。
独特の温かさと、その光景に目眩がした。
リーゼは、ちゅぅっと血を吸い出し始めた。
「……んっ、ふぁっ」
驚きと妙な感触に、変な声が出る。
吸った血を、リーゼはペッと吐き出す。
「こら、変な声出すな」
あ、アンタが言うなぁァァ!!
叫びたかったけれど、もう色々起こり過ぎてて言葉にならなかった。
リーゼは、それを何度か繰り返した。
「ま、こんなもんか」
彼女は僕の腕から口を離した。
その唇には、薄らと紅が引かれていた。
僕の血の赤だ。
(これは応急処置、これは応急処置)
そんなことは分かっていた。
でも、そう言い聞かせないとなんか、色々ダメになりそうだったのだ。
リーゼは口許を拭った。
それから、今度は回復薬を取り出してダバダバと僕の傷口にかけた。
少し余ったので、それは彼女自身が飲んだ。
それから、傷口に清潔な布をあて、包帯でぐるぐる巻きにされた。
「はい、完了。
ビックリしたなー」
と、リーゼは全然びっくりしていない声で言った。
「……ありがとう」
お礼を言うと、リーゼが僕の顔をじいっと見てきた。
「?」
不思議に思っていると、その顔がどんどん近づいてくる。
(キスされる!?なんで?!)
そう思ったのも無理ないくらい、リーゼの顔が間近にあった。
僕は思わず、目をギュッと瞑った。
すると、コツン、と何やら額に触れた。
続いてリーゼの声。
「んー、顔赤いから毒が残ったかと思ったけど。
発熱は無さそうだな」
彼女は自分の額を僕にくっつけ、熱をはかっただけだった。
目を開ける。
その時にはもう、彼女の顔は離れていた。
「順番があべこべになったけど、とりあえずステータス確認してみ?」
リーゼは少し楽しそうに言ってきた。
言われた通り、確認してみる。
「あ、スキル増えてる」
そう、スキルが増えていたのだ。
念の為、書いておくと。
リーゼがやった、応急処置は現実では間違いです。
もしも現実で蛇に噛まれたら、吸い出しはやらないでください。
というか、怪我した人の血を舐めるとかもしないで下さい。
まずやる人はいないと思いますが、念の為です。




