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その後。
僕はリーゼに手を引かれ、今後の生活に必要なものを揃えために買い物へと繰り出した。
掃除用具一式も揃える。
全てを持ち運ぶことはできないので、一部は後で部屋に届けてもらうことになった。
そうして買い物を終えて帰宅する。
お昼にはまだ少し早かったので、リーゼの許可をもらって部屋の片付けに着手した。
捨てていいものとダメなものをわける。
僕は逐一、リーゼに確認をとった。
間違って大事なものを捨てたら大変だからだ。
リーゼはポイポイと仕分けしていく。
なんというか、部屋の中でゴミを掘り進めるという経験は初めてだった。
そうやってとりあえず、床が見えてきた頃。
写真立てが出てきた。
そこには、女神のように美しい桃色髪の少女と、快活そうな黒髪の中性的な顔立ちの少女、そして五十代前後くらいの男性が写っている。
さらにその三人を取り囲むように、下は幼児から上は僕と同じ歳くらいの子供たちが並んで写っていた。
「リーゼ、これは?」
「お、そんなとこにあったのかー」
リーゼは僕から写真立てを受け取ると、懐かしそうに目を細める。
「あ、そっか。
この時はもう兄ちゃんいなかったんだ」
なんて、独り言を呟いている。
「この真ん中の三人が、俺の親な。
俺、孤児でさー。
この三人に拾われて育てられたんだー」
ということは、孤児院時代の集合写真ということか。
「……へぇ」
「昨日サツキにかした服は、ここには写ってないんだけど。
兄ちゃんのなんだ。
こっちに来る時に、荷物に紛れてたみたいでさ。
なにしろ大家族だから、お下がりをもらうってのはよくあってさ。
サツキ見た時に、兄ちゃんに体格似てんなぁとは思ってたけど、思いのほかピッタリで驚いたくらいだ」
あ、彼氏とかのじゃなかったのか。
良かった。
「あ、そうなんだ。
てっきり、恋人さんのかと」
「アッハッハッハッハッ!!
恋人かぁ。
んー、男の子のサツキの前で言うのもなんだけどさぁ。
ナイナイ」
リーゼは豪快に笑って、手をパタパタと振った。
「ほら、自分より力が強い女はイヤって男多いだろ?」
「そんなことは無いと思うけど」
僕は、リーゼに心に決めた人がいないと知って安心しつつ、そう返した。
リーゼはとても魅力的な女性だと思う。
ま、まぁ、部屋の惨状に関しては価値観とか基準の違いなので気にしないことにする。
安心したからか、僕の口からスルリとさらに続けて言葉が零れた。
「僕は、リーゼのこと好きだよ」
「……へ?」
リーゼがキョトンとする。
僕は、自分が何を口走ったのか理解して、焦った。
「あ、その、助けてくれたし。
僕のために、お金まで出してくれたし」
あぁ、何を言ってるんだろ。
そもそも出会ったのは昨日だ。
昨日の今日だ。
僕はリーゼのことを何にも知らないのだ。
アタフタと言う僕に対して、リーゼはニマニマと笑った。
「そっかぁー、サツキはリーゼ姉さんが好きなのかぁ。
素直なやつだなぁ。
……じゃあ、愛の告白に答えようかなぁ。
そうだな、お姉さんとエッチな事でもするか?
少年??」
「……うぇっ!?」
動揺したのは仕方ないと思う。
「そう、たとえば、今朝のつづき、とか」
耳元で囁かれる。
顔が熱くなる
まるで火がついたようだ。
「なんてね。
少年、あんまり軽々しくそういうことは言わない方がいいぞ。
そういうのは、本当に大事な人ができた時に贈る言葉だからな」
リーゼは、ニマニマしたままだった。
からかわれたのだ。
「もう!巫山戯ないで!
片付け終わんないでしょ!!」
僕は顔の火照りと、焦りを誤魔化すためにそう叫んでいた。




