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翌朝。
ふに、となにやら触り心地のいいものが手のひらに当たった。
(なんだろ、これ?)
寝ぼけながら、ふにふにふに、とそれに触れた。
いや、揉んだ。
すると、
「っんあ……」
そんな、女性の甘い声が耳に届いた。
僕は、目を開ける。
そこには、寝間着姿のリーゼ。
そして、その胸部に触れている僕の手があった。
動揺して、つい一際強く触れている部分を掴んでしまった。
というか、その中心にあるだろう飾りに親指が触れて、なんならその飾りを押し込んでいた。
「んっ、あうぅっ!
ちょ、少年、そういうことされると、ちょっとお姉さん困るなぁ」
小さい悲鳴のような声をあげたかと思うと、リーゼが苦笑しながら僕を見ていた。
「へ、え?!?!」
僕はガバっと起き上がる。
すると、バランスを崩してベッドから落ちてしまった。
強かに頭を打ち付けてしまう。
痛い。
「サツキ!
あーあー、大丈夫か??」
リーゼも起き上がると、ベッドから降りてこちらに手を差し出してきた。
寝間着がはだけて、真っ白い肌がチロチロと見える。
目の毒だ。
「す、すみませっ、あ、あのちょっと、僕トイレ!!」
「トイレは部屋を出て階段脇だぞ。
ここ、トイレは共同だから」
そんな感じで、僕とお姉さん、もといリーゼとの生活がはじまったのだった。
***
「あの、ほんとすみませんでした」
身支度を整えると、朝食に連れ出された。
やってきたのは、深夜から早朝にかけて働いている人向けの飲食店だった。
朝だというのに、アルコールも提供している。
さすがにリーゼは、飲まなかった。
「いいって、いいって」
メニューは軽食からガッツリ系まで様々だ。
リーゼは気にしていないようだけど、まともに顔が見れない。
まだ、手に感触が残っている。
やわらかくて、でも親指が触れたところはちょっとコリコリしてて……。
って、なにを考えてるんだ僕は!!
仮にもリーゼは恩人なのに!!
「ところで、よく眠れたか?」
僕はやっぱりリーゼを直視出来なくて、メニューに視線をやったままコクリと頷いた。
夢も見ないほど、ぐっすりだった。
心做しか、体も軽い。
「そりゃよかった」
「あ、の、昨日の話、だけど」
僕は、意を決してリーゼへ話しかけた。
「ん?」
「その、一緒に暮らすって話」
「うん、その方がいいだろ?
放っておいたら、またリンチされそうだし」
「で、でも、大家さんとかに迷惑かかったりとか。
リーゼに迷惑かかったりとか」
【無能】のギフトホルダーに関わったがために、仲間と見なされて不利益をこうむる、ということも考えられる。
僕はそのことを心配していた。
リーゼもお店の人たちも、皆優しくていい人たちだからだ。
「大丈夫大丈夫、その辺は気にしなくていいから。
大家のマスターもあれで荒事には慣れてるし。
そもそも一緒に住もうって話してた時点でなにも言って来てないだろ?
だから大丈夫だよ」
「で、でも」
「俺もトラブルには慣れてるから。
まぁ、けど……」
言って、中途半端に言葉が切られる。
僕はそこでようやく顔をリーゼに向けた。
「さっきみたいなトラブルは慣れてなくて、ちょっと焦ったかなぁ」
リーゼはニヤニヤと僕を見ていた。
「うぅ」
僕の反応を見て、あきらかに楽しんでいる。
それから僕たちは朝食をとった。
朝食をとりながら、リーゼが今日の予定を言ってくる。
「とりあえず、色々買わなきゃな。
なにしろ、家が燃えたから着替えとか諸々用意しないと」
「え、でも、僕お金が」
「知ってるよ。
まぁ、心配すんな。
出してやるから」
「で、でも、これ以上迷惑は」
「言っておくけど、これは奢りじゃないからな?
奢りは、この朝ごはんまで。
ここから先は、少年はお姉さんに借金をするわけだ。
お姉さんから借りたお金で、生活用品から仕事の為の道具を揃える。
それから、仕事をしてちょっとずつ返してもらえばいい。
それでいいだろ?」
「あ、う、はい」
強引な借金ではあるけれど、僕はリーゼの仲介が無くては仕事にありつけない。
仕事にありつけないと、働かないとお金は手に入らないのだ。
だから、この申し出は物凄くありがたかった。
でも、それだけだと申し訳が無さすぎるので。
「でも、本当に迷惑ばかりかけて申し訳ないので。
リーゼがよければだけど。
家事、やるよ」
そう提案した。
リーゼは、目をぱちくりして、
「え、マジ?!
やった!!」
快諾してくれた。




