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「まぁ、まずは飯だな」
リーゼは自分が何を口走ったのか、理解しているのかいないのか。
のんびりとメニューを見ている。
「あ。あの!!
僕は床で寝ますから!!」
「予備の毛布とかないぞ。
それに風邪ひいたら、冒険できないだろ。
とりあえず今日だけ我慢してくれ」
「そうですけど、そうじゃなくて!!」
「ま、とりあえず腹減っただろ。
トラブルが立て続けだったみたいだし」
リーゼは、適当に料理を注文した。
それらを、どんどん取り分けて僕に渡してくる。
一緒に暮らす、という話はそれ以上進展しなかった。
そして――。
僕はリーゼが住んでいる部屋へ案内された。
それは、この店の二階だった。
なんと簡易的ではあるけど、風呂が各部屋についているらしい。
部屋に入る。
ドキドキしながら、入ると。
魔窟が広がっていた。
ゴミが散乱し、足の踏み場がない。
汚部屋というやつだった。
美人なお姉さんは、綺麗な部屋に住んでるものと思い込んでいたのは、事実だ。
でも、これは。
「ちょっと散らかってるけど、まぁ気にすんな」
ちょっと?
僕基準の【ちょっと】と、リーゼ基準の【ちょっと】は、かなりの開きがあるに違いない。
リーゼはゴミの中を平気で進んでいく。
というか、蹴散らして道をつくる。
歩く度にバキバキと何かが割れる音がした。
なんか踏んでるよね、これ。
というか、踏んで壊してる。
いいのかな……。
やがて、部屋の奥、備え付けのベッドまでの道が出来た。
「…………」
僕は、その作ってもらった道を進む。
なるべく、道からそれないように気をつける。
どうしよう、あちこちからカサカサと虫らしきものが動く音が、耳に届いた。
掃除しよう。
そう口からでかかった。
でも、ここは他人の家だ。
リーゼの部屋だ。
迷惑かけっぱなしの僕が、そんなことを言える立場じゃない。
リーゼは、ベッド横の布の山を崩していた。
布の山は二つあった。
「たしか、ここに……。
あれ?無いな……。
じゃあ、こっちか?」
リーゼはブツブツと呟きながら、二つ目の山を崩しにかかる。
やがて、
「あ、あった!!」
布の山の中から、男物の服を引っ張り出した。
それを僕に投げて寄越してくる。
それをキャッチする。
あ、ちゃんと洗濯されてる奴だ。
「とりあえず、それ寝巻きにしてくれ。
風呂は玄関脇だ。
あ、使い方教えるな」
なんて言って、今度は玄関脇へと向かう。
そのまま、風呂というかシャワーの使い方等を説明される。
そして、
「それじゃ、ごゆっくり。
あ、脱いだ服はそこの籠に入れといてくれ。
体拭く用のタオルは、これ使ってくれ」
なんて言って脱衣所を出ていった。
僕は言われた通りにした。
それから、シャワーを浴び、体を綺麗にした。
どこも傷跡がなかった。
痛くもない。
それから、浴室を出てタオルで体を拭いて寝間着用にと渡された服に着替えた。
「……ピッタリだ」
というか、ピッタリすぎる。
僕は、かなり体格が小さい方だ。
だから女の子用の服が入ったりする。
でも、これは男物だ。
それの意味するところを邪推してしまう。
「ま、まぁ、リーゼは美人だし。
お付き合いしてる人がいても不思議じゃないよね」
この邪推が当たっているなら、やはり一緒に住むのもそうだが、同じベッドで眠るのも大問題だ。
別に僕がリーゼになにかするとかはない。
というか、昼間ドラゴンを蹴飛ばしたところや、先程リンチから救ってくれたのを見ているから。
なにかするなんてとてもできない。
ベッドのある部屋へ戻る。
そこにはリーゼがいた。
下着姿だった。
真っ白い肌に、煽情的な真っ黒な下着が映える。
その手には、リーゼの脱いだ服とこれから着るらしい寝間着があった。
「な、なんっ?!」
「おー、あいたか。
じゃあ、次俺の番なー」
ドキマギする僕の横を、ゴミを踏みつけながら通り過ぎる。
通り過ぎながら、
「あ、先にベッド入ってていいぞ〜」
なんて耳打ちしていく。
僕はきっと耳まで真っ赤だったに違いない。
やがて、浴室から水音が聞こえてきた。
同時に、先程見て目に焼き付いてしまったリーゼの肢体を思い出す。
リーゼは着痩せするタイプらしい。
あの呪術士の金髪碧眼の女性に、負けず劣らずな果実が実っていた。
(待って待って待って!?
一晩、あの人と過ごすの?!)
今だって心臓が爆発しそうなほど、バックんバックんと鳴っている。
明日の朝まで生きている気がしない。
ツゥっと、鼻に違和感を覚えた。
拭ってみると、鼻血が指についた。
「げ、玄関で寝よう」
そう決める。
もしくは脱衣所でもいいかもしれない。
なんて考えていたのに。
「ほらほら、もっとくっつかないとベッドから落ちちゃうぞ」
シャワーを浴びて、寝間着姿となったリーゼによって僕は無理やりベッドに身を横たえていた。
「は、はひ」
む、ムリムリムリ!!
なんていうか、いろいろ無理!!
なるべくリーゼから離れようとしたけれど、リーゼが僕の腰に腕を回して抱きよせられる。
「ふ、ふぁっ」
「ふふ、緊張してるな?
さては、こんなふうに誰かと寝るのは初めてだな、少年?」
「あ、う」
正確には初めてではない。
まだ小さい頃、じいちゃんとばあちゃんと一緒に眠っていたから。
そのことを思い出すと、連鎖的に火事の光景が蘇ってきた。
「胸をかしてやる。
たくさん泣いていいぞ、少年」
言って、リーゼはまるで赤ん坊を胸に抱くように、僕の頭をそこに優しく押し付けてきた。
暖かった。
リーゼが僕の頭を撫でる。
「ずっと住んでた場所を追われたんだ。
それに嫌な目にもたくさんあった。
だから、泣いとけ。
受け止めてやるからさ」
男前すぎるだろ、この人。
それに優しすぎる。
今日、初めて会ったばかりなのに。
不思議と、いつの間にか性的なドキドキは無くなっていて、ゆっくりと睡魔がやってきた。
そして、程なく僕は眠りについたのだった。




