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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最後の晩餐

作者: はな

お目汚し失礼します

 コーヒーマシンから黒い雫が落ちきるのを待つ時間は、本当にちょっとした物思いにふけるのにちょうどいい長さだ。もし世界が滅ぶとしたら、最後の晩餐はなにがいいだろう。


 この問いは世界が滅ぶことを知っているかどうかで答えが変わってくると思う。世界が明日滅ぶことを知っているなら私は白いご飯と豚汁、焼き鮭がいい。私にとってそれが最も満足感があり完結した食事だからだ。自分の舌では味の濃いものや洗練されすぎたものを食べたあとは、必ず真逆のものを摂取したくなる。滅ぶまで時間が無いというのに欲求が追加されて満たされないままではたまらない。反対に、世界が明日滅ぶことを知らないなら豪華に黒毛和牛のステーキを食べておきたい。そして明日は簡単にご飯とお漬物にしようかななどと考えながら突然滅びを迎えるのだ。


「なんだかんだ、ステーキ食いたいんじゃん。」

 ふと思いついた取り留めもない世界滅亡論を話し終え、机にマグカップを置くと、作業に一区切りついたらしい彼は振り返ってこともなげにそう言った。

「白いご飯と豚汁が好きで食いたいって言うなら分かるけど、そうじゃなくて、本当はステーキが食べたいのに欲求不満になりたくないっていうか不安な状態を回避したいってことだろ?不安の回避じゃなくてもっと自分の欲求に素直になれよ。」


 世界が滅んだあとは何が残るのか。そもそも何をして世界が滅んだとみなすのか。人類の死滅?地球の崩壊?人類の大部分が死んでしまい文明を維持できなくなること?人類の死滅となると、「世界が滅んだ」と過去形で言い切るには人類以外の観測者になる必要がある。それならばある程度の高度を飛べる猛禽類なんかどうだろう。それとも大陸間をも移動するという巨大バッタなんかだろうか。

「黒毛和牛でも豚汁でも俺が隣で一緒に食ってやるから。それか食うのが不安なら大人しく俺に食われておけ。」


 彼は、まだ物思いの余韻から覚めない私の唇を一瞬だけ食むと、後は何事も無かったかのように作業机へ戻ってしまった。私はマグカップを落とさないようにするのが大変だった。


 嗚呼、私は人間という捕食者側の生き物にに向いていないのかもしれない。被食者に甘んじてもいいということに心の置き場所が定まるように気持ちが落ち着く。彼は机に向き直って作業の続きを始めた。その横顔が見える位置のスツールに腰かけてコーヒーの芳香をかぐ。三分後にもし世界が滅ぶとしたら、このコーヒーが最後の晩餐となるがそれでも構わないなと思った。

 

「そういうことならバッタじゃなくて、もっとこう兎とか小鳥とか、可愛らしい路線でお願いします。」

「何言ってんだ。」




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