その2
船長のフィーモは、ドラえもんの『のび太と銀河超特急』に出てきた車掌さんに似ている。
ユイカリアさんは、しっかり者のお姉さんといった感じだ。
マーリさんは、お嬢様っぽい感じがする。
「宇宙船はどうするの? ここに停めていくの?」
「いや、小さくしてカバンにしまうのだ」
そう言ってフィーモは宇宙船にポンと触れた。すると小さな蓋が開き、中からボタンが現れた。ボタンを押すと、宇宙船が一瞬で手のひらサイズにまで小さくなってしまった。フィーモはその小さくなった宇宙船を、首から下げたカバンの中にしまった。
「うわあ! あんなに大きな宇宙船がポケットに入るなんて、みんなの星の技術はすごいんだね!」
「実はこの宇宙船は、元々はただの『情報』に過ぎないんだ。それを○△×□、……あれ? その情報を○△×□……、ああ! すまぬヒナタよ。私が今話そうとしている内容に相当する言葉がどうやら地球の言葉には存在しないようだ」
「そっかあ。……あれ? そういえば、みんな日本語ペラペラだね。どういう仕組みなの?」
「実は我々は日本語を話しているわけではないんだ。話しているのはあくまで我々の母星語なのだが、この首元のあたりに付いている自動翻訳機が、我々の話す母星語を日本語へと翻訳し、ヒナタの日本語を母星語へと翻訳してくれているのだ。我々の話す母星語がヒナタには日本語に聞こえるように、ヒナタの日本語は我々には母星語として聞こえているのだよ」
「はあ~。なるほどね~」
「ねえフィーモ、やっぱりこの格好おかしすぎるんじゃない? すごいたくさんの人に見られてるけど……」
「そうかなあ。なかなかいいと思ったのだが……。ヒナタよ、やはり変か? この格好」
「ん~、さすがに今の時代に和服にちょんまげっていうのは合わないと思うなあ。それと、ちょんまげにするのは基本男性のみで、女性はしないんだ。それもあるんじゃないかな」
「何? そうなのか? こんなにかっこいいのに?」
「もう~。じゃあ私たち二人が余計に目立ってる感じなのかなあ~。どっかで着替えようよ~」
「わたしは結構好きですよ。この髪型」
「おお。さすがマーリは話のわかる女性だ」
「まあでも、新宿にはいろんな人がいるから、そういう格好もありといえばありかも」
「たしかに色々な人がいる。お、あの人たちは何をしているのだ?」
「『特殊能力者を探しています……』なんだろう。ちょっとよくわからないなあ」
「とにかくさ、とりあえず私たちもヒナタや他の人たちみたいな格好に着替えようよ。私たちはあまり目立つべきじゃないし」
「そうだな。ヒナタよ、さっきのような、あまり人がいないところはないかな?」
「んーそうだなあ。ここらへんはどこも人が多いけど……、あ、あのあたりなんていいかも。行ってみよう!」
日奈太の先導のもと、4人は人気のない場所へ移動した。
「ほお。ここなら大丈夫そうだ。よし、ヒナタよ、このなかから、我々にふさわしい格好を選んでくれないか。あと、髪型も」
『地球人の格好いろいろ(フィーモ調べ)』と書かれた冊子を渡された日奈太は、街中を歩いていても特に目立つことのないような、無難な格好と髪型を選ぶことになった。
「あれ、フィーモって日本語書けるの?」
「ああ、それもさっきの翻訳装置と一緒だ。見る人に合わせて文字が変わるのだよ」
「へえ~。そうなのかあ。えーっと……、よし、これがいいと思うよ。服は宇宙船に積んであるの?」
「いや、着替えにはこれを使うのだ。見ててくれ」
パッと何かが光ったと思ったら、みんなもうすっかり着替え終わっていた。割とどこにでもいそうな普通の人たちみたいになっている。
「うわあ。すごい。こんな簡単に着替えちゃうんだ。ドラえもんの道具みたいだなあ」
「ドラえもんとは、一体どんな方だ?」
「未来からやってきた猫型ロボットだよ」
「何? 未来!? 地球人はタイムトラベルができるのか?」
「あ、違う違う。漫画の話だよ」
「マンガ……、聞いたことないなあ。それって一体どんなものなの?」
「絵とセリフが書いてあって、それを読むんだ。作り話であることが多いかな」
「作り話?」
「うん」
「嘘のお話ってことだよね? 嘘ってわかってるのにおもしろいの?」
「うん。おもしろいよ。そう言われるとそうだね。なんで嘘なのにおもしろいと思えるんだろう」
「地球人は不思議なものを作るのだなあ。ぜひ一度読んでみたい」
「あ、そういえば、さっきから気になっていたのですが、この緑色のものって……」
「そうそう。私も気になってた。これは植物だよね?」
「うん。そうだよ」
「ということは、あ、これはもしかして……花、ですか?」
「うん。何ていう花かまではわからないけど、花であることには間違いないね」
「ほええ~。美しい。これが花かあ~。」ユイカリアが感動していた。
「あれ、この小さくて鮮やかな生き物は……もしかして昆虫ですか?」
「うん。それはテントウムシ。ナナホシテントウっていったかな。みんなの星には花は咲いていないの?」
「うん。私たちの星には、植物や昆虫は存在していないの」
「そうなんだあ。……あれ?」
「ん? どうしたのヒナタ?」
「いや、なんか、何か思い出せそうなんだ。やっぱり僕はどこかへ向かおうとしていた気がする。もう少しで思い出せそうなんだけど……」
「少しずつ記憶が戻ってきているようだ。とにかく色々なところへ行って、様々な体験をするのが記憶を思い出す近道になりそうだな」
「とりあえず、自分が来た道やよく行く場所を色々回ってみたいな」
ということで、4人は様々なところを歩いた。
日奈太にとっては日常の風景に過ぎないが、3人にとってはすべてのものが珍しく、すべてのものが新鮮な輝きを放っているようであった。
「なんかみんな楽しそうだね。もし僕もみんなの星に行けたとしたら、きっと僕もそんな風になるんだろうなあ」
「あれ? ねえヒナタくん、ここはどういう場所なんですか?」
「ここは公園っていって、子供たちの遊び場だよ」
「子供たちの遊び場……。ちょっと行ってみたいな!」