その11
その場所へ来た時と同じく、日奈太は一人で家路に着いた。
「そういえば……、紅葉を撮りに行ったのは3日前のはずなんだけど、なんで今日になったんだっけ? なんか3日前と今日の記憶があやふやな気がする……。おとといと昨日の学校でのことははっきりと覚えてるのに。なんか、リードセルワールドにも行った気がするなあ……」
自宅へと帰ってきた日奈太は、早速今日撮った写真の確認をすることにした。
「さーて、たくさん撮ったから……、あれ? 撮った? 紅葉を見たのは覚えてるけど、紅葉の写真撮ったっけ? あれ? まあ、確認すればわかるか……」
「ええ! なんだこれ!」
そこには、ネリネの花と、見覚えのない人物が3人、そしてその3人が紅葉を眺めている姿が写っていた。
「……誰だろう? まったく思い出せない……。けど、なんかこの写真を見てると、自然と笑みがこぼれてくる。明日への希望や、生きる勇気がわいてくる。なんでだろうな。とにかく、楽しくなってくる……」
なんか……、僕ってひねくれてたな。
突然、そんな風に思えてきた。
世界は広い。僕の知らないことなんて、まだまだたくさんある。
『人生なんてつまらない、価値のないもの』
そんな風に決めつけるだけの分、僕はまだ生きていない。
一体この先、どんな未来が待っているのか。そんなことはわからないけれど、少なくとも、『今』、過去でもなく、未来でもなく、この今を、僕は『生きていたい』と思えている。
まずは、それで十分じゃないだろうか。立派な夢や目標なんてなくなって、生きる意味なんてわからなくたって、とりあえず、『今』を生きてみよう。焦らず、ゆっくり、自分のペースで。
そうやって少しずつ、『今』を積み重ねてゆくことで、それらはやがて、未来へと繋がってゆくはずだ。
勉強も、もっと頑張ってみよう。
やりたいことも、探してみよう。
この世界は、きっと、もっと、美しいものなんだ。
「けど、なんで記憶がまったくないんだろう。……もしかして、意図的に消されてる? けど、彼らが進んでそんなことをするようには見えない。規則か何かなのかな。いや、そもそも記憶を消すなんて、そんな技術地球には……。てことは……、いや、まさか。けど、ひょっとすると、もしかして……」
日奈太は部屋の窓を開け、夜空を眺めた。
「ありがとう……。どこかの異星人さん。僕は今、『生きよう』と思えています。名前も、一緒に何をしたのかも、すべて忘れてしまったけど、またどこかで、会えたらいいな……」
――宇宙空間。地球からおよそ45000kmのあたり。
「どんどん地球から離れていくね……。あ、そういえばさ、ディズニーランドで乗ったあのめちゃくちゃかっこいいアトラクション、なんだっけ?」
「ウエスタンリバー鉄道ですか?」
「そうそう! ねえフィーモ、私たちの宇宙船、あんな感じにしようよ!」
「ほお。よいなあ。よし、やってみよう」
「マーリはず~っと望遠鏡見てるね。ねえ、何見てるの?」
「色々ですよ~」
「なに~? 色々って」
「……あ、ヒナタ君だ!」
「え? ウソ!? どこどこ?」
「どれどれ、おー! 本当だ! ヒナタがこちらを見ている! 何を見ているのだろう?」
「……なんか、少し表情が明るくなった気がします!」
「ほんとだ。なんか楽しそうだね!」
「またいつか、こっそり会いに来よう。その日まで、ヒナタとも、地球とも、しばしのお別れだ。よし、それでは行こう!」
遥か銀河のかなたより、はるばる地球へとやって来た、フィーモ、ユイカリア、マーリの3人組は、ゆっくり、ゆっくりと地球を離れ、次なる目的地へと向かった。