チーム『鉄と酒』
「ッカー!久しぶりの酒はウマイな!」
ぬるいエールを一息に飲み込み、息を吐く。
この街のエールは元々ウマイが、今回は数日ぶりだから尚更そう感じる。
「全くだ!今日は店中の酒を飲み干してやろう!!」
オレの隣で巨漢が声を荒げる。
同じ冒険者チームの仲間で、身長3Mもある斧使いのドーズだ。
「全部は勘弁してやれ。他の客に恨まれるぞ。」
そんなドーズを嗜めるのはチームリーダーのゲイン。
盾と剣を使って戦う元騎士で、頼りになる男だ。
「ホント美味しいわ。この冷やしたワイン最高よ。ゲインもどう?」
リーダーに酒を勧めるのはサブリーダーで斥候役のワドだ。
チームの調整役をしており、口調はおかしいが街の冒険者達から慕われている。
「…ふん、確かにいつもよりは多少マシだな。」
生意気な口を聞いてるのが魔法使いのシザー。
コイツは自分の口の悪さが原因でよく揉めるのに未だに懲りていないようだ。
「文句を言うくらいならオレが飲んでやるよ。」
言いながらシザーのコップを奪おうとすると慌てた様子で胸に抱える。
「ツェート!僕のだぞ!手を出すな!!」
顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。
久しぶりの酒だからかもう酔っているようだ。
「悪い悪い。まぁ飲め飲め。」
新しいエールを渡してどんどん飲むように急かす。
シザーは酔うと一つの事しか出来なくなるから扱いは簡単だ。
「やめなさい。シザーがお酒に弱い事知ってるでしょ?はい、お水よ。」
そんなオレを嗜めるようにワドが注意してくる。シザーのフォローも忘れない出来る男だ。
オレ達の冒険者チーム『鉄と酒』はチーム全員が男性だ。
勿論オレも男で、魔法剣士として名が知れた存在だ。
本来はチームが男ばかりだろうと大して問題は無いんだが…。
「はぁ…。いつになったらオレの魅力に気づく女性が現れるのか…。」
元々オレが冒険者を始めたのはハーレムを作るのが目的だった。
だが元貴族のオレは中々他人に背中を預ける事ができず、ずっとソロで活動してきた。
奴隷を買おうとも思ったが、筋肉ダルマは嫌だし戦闘出来る女奴隷なんて高すぎて手が出せなかった。
『鉄と酒』のメンバーはその時からオレを気にかけてくれ、紆余曲折あってチームに入る事になった。
「ツェートは少し理想が高すぎるのよ。貴方が心から女性と向き合えばすぐに現れるわよ。」
「そんなつもりは無いんだがな。シザーほど酷く無いつもりだぞ?」
シザーは酔うとよく深窓の令嬢を見つけるんだとかクダを巻いている。
皆笑って見ているが、オレだけは負けられないと闘志を燃やしている。
「あの子は特別よ…。でも貴方も潔癖症な所が有るし、意外と似てるかもね?」
ワドの言葉に顔を歪める。
シザーは結構極端な性格をしているから、似てると言われても喜べない所だ。
「まぁいいさ。今日は飲もう。」
話を逸らすようにエールを飲む。
気を使って離れていたゲインとドーズが話しかけてきた。
「難しい話は終わったか?人生なんて酒と戦いが有れば十分だぞ!」
豪快に笑いながらドーズが背中を叩いてくる。
「そうだな。命が有ればいつでも挑戦できるからな。」
ゲインも笑いながら言ってくる。
シザーは水を飲みながら虚空を見つめている。
「少し休んだら外の依頼だっけ?」
今までは迷宮に入りっぱなしだった。
稼ぎは良いが神経を使うので外の方がやり易い。
「ええ、そうね。ギルドから依頼が入っているからそれをやるつもりよ。」
休みが終わったらまた忙しくなりそうだと思い、今日は限界まで酒を飲む事に決めた。
「お!やるな!ツェート!ワシも負けてはいられんぞ!!」
エールを立て続けに呷るとドーズが大喜びで続き、そのまま賑やかな夜は過ぎていった。
(ウ…頭イテェ…)
魔法を使って体調を整える。
希少な光魔法をこんな事に使うのかと我ながら呆れるが、光属性しか使えないから仕方が無い。
オレの家は零細貴族ながらも勇者の血を引いており、時折優れた能力を持つ子供が生まれてくる。
正しくオレがその優れた子供で、幼少の頃は神童と呼ばれるほどだった。
とは言え平和な世の中で武力はそこまで重視されず、家は継がずに子供の頃からの夢だったハーレムを築く旅に出たのだ。
勇者の物語では数多くの美女が登場し、その全てが勇者の女になった。
ずっと夢見ていたハーレムだが、現状まで全く進展はない。
冒険者ランクはAまで上がり、チームのランクはSだ。
本来なら引く手数多で数人の女性を侍らせてても良いくらいだ。
チームはトラブル防止の為女性の加入は禁止しているが、個人の関係に口を出す事は無い。
彼女なり妻なり作れば良いのだが…。
(何故未だに独り身なんだ…。)
酔いの覚めた頭をふり、支度をして街に出る。
部屋の中に居ても出会いは無いのだ!
「マリア、少し相談したい事があるんだ。時間を取れないか?」
「ツェートさん…。すみません。『鉄と酒』の方々はマスターが担当でして…。お呼びしましょうか?」
ギルドに入って受付の子に声をかけると、困った顔で断られた。
マスターを呼ぶとか怖い事を言ってるので慌てて断る。
「いやいや、あんなゴリ…マスターを呼んでも暑苦しくなるだけだよ。相談はまたの機会にしよう。」
そう言って離れる。
ソロの時からずっと担当してくれていたマリアとも引き離され、ゴリラが担当になってしまった。
一応元の担当と言う事で相談に乗ってはくれるが、今回は無理だったようだ。
昔からアタックしているがいつも邪魔が入り、中々うまく行かない。
「どうした!訓練しに来たのか!?」
奥の扉からゴリラが出てきた。
いつもどこから嗅ぎ付けてきたと言う程の遭遇率で、毎回訓練に付き合わされる。
マスターは元Sランクの冒険者で未だに全く衰えていない。
その風貌と相まってゴリラのモンスターと勘違いしてしまいそうになる。
「いや、マリアに話が有ったんだが、今日は都合が悪いようだ。オレはもう帰るy「じゃあ行くぞ!」」
こちらの話を全く聞かず、訓練室の方を指差す。
ここで逃げるのは簡単だが次会った時が怖いと思い、渋々と着いて行くのだった。