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プロローグ

(改)以前1話目として投稿したものをプロローグと統合いたしました


(くれない)先輩!外域活動服の開発に関してなんですが、今の段階だといまいち実用に向かないと思うんですよね」

「お、高嶺(たかみね)。そうなのか?報告では十分に機能するってあったが」

「妥協って感じですかね。もう少し軽量化をしたいところなんですけど…」

「まぁ、そう根詰めすぎてもいけねぇよ。まだ時間はあるんだ、コーヒーでも飲んで脳をリラックスさせようぜ」

「あ、僕はホットココアでお願いします。コーヒーは苦手なので」


紅と呼ばれた男は、何も事情を知らない人がこの男を見れば九割が「この人はダメだ」と思わせるような見た目をしていた。

全く手入れのされていない髭に髪、更には何とも言い難い眼鏡。

緩んだ口元が、ダメそうな雰囲気を助長している。

白衣を着ているが、それでもとても研究者とは言えない風貌だ。

そんな見た目とは裏腹に、彼はこの研究所の所長をこなしている。


「ほらよ」

「ありがとうございます。娘さんは元気にやってます?」

「あ〜、そうだな…急な引っ越しと思春期が重なって、全然口聞いてくんねぇな…悲しいもんだよ…何が原因だろうなぁ」

「う〜ん…先輩は、一度客観的に自分のことを見た方が良いと思いますね!」

「そうかぁ?特に何も問題ないと思うけどなぁ。風呂には入ってるしよ」

「あ〜、娘さんの気持ちがわかります」


紅にしてみれば風呂に入っていれば、その他の物事は些細なことなのだ。

定期的に髪を切っているのだから何処に問題があるのか、と本気で思っている始末だ。


「はぁ、そのままだと娘さんにも逃げられちゃいますよ」


高嶺がそう言い終わる頃には、ココアを飲み終わっていた。


「もう一杯どうだ?」

「これ以上は仕事に支障がでちゃうんで。じゃ、戻りますね〜」


平穏、仕事の合間にコーヒーを飲み、たわいもない話ができる。

まさに、平穏と呼ぶ他ないものだ。

だが、その平穏はいとも簡単に瓦解する。

突如のサイレンと共に紅の無線に切迫した声が響く。


「紅さん!太陽の急速な光力の減退を確認しました。この勢いだと、半刻もかからずに地球の生命体の保持が不可能となります!」

「ッ!直ぐに国民保護サイレンを鳴らせ!お前たち観測班は、当初決めていた二人を観測要員として残してホールへ移動しろ!」

「な、内閣官房への伝達はッ!?」

「そんなもんはいらん!全ての過程を一任されてんだ!設置済みのシェルターへ避難を促せ!くそっ…何でこのタイミングなんだ!」


数年前からの観測で、年々太陽が減退傾向にあった事は確認されていた。

その上で人類を生かすため、様々な案が飛び交ったが、殆どの案が太陽が完全に消滅するまでに達成不可能と断定され、廃案となった。

唯一可能性を見出されたのが生命に適した環境を再現したシェルターだ。

各国は世界の未曾有の危機に直面し、団結して見せたのだ、国の貧富、思想、宗教。

全ての隔たりを超え、人類の英知の結晶はシェルターを遂に完成させた。

最低でも百年間は自給自足のできるシェルター。

後は設置のみとなったその段階で、彼らの努力を嘲笑うかのように太陽は急速にその光を失っていく。


「まだ予定の二パーセント程度しか設置し終えていないってのに!」

「課長!我々も急がねばなりません!開発をする人間が避難できなければ百年後には…」

「っ…わかった…お前たちは開発途中の外域活動服を持ってホールにいる観測班と合流して避難しろ。俺は引き籠もってる文書解読班の奴らに現状を伝えに行く」

「そ、そんなこ…」


紅は自身の発言に対し狼狽する彼等を睨め付けて、反論を許さなかった。

そこに普段の軽い彼はおらず、真剣な面持ちの彼がいた。


「…了解です!あっちで合流できたら、制限はあるでしょうが…酒でも呑みましょう!」


そう、爽やかな笑顔で言葉を残して彼等は背を向け駆け出す。


「…はぁ…荷が重いぜ…全く…このタイミングで、あの引きこもり共の所に行けば、俺は確実に間に合わねぇ…ったくよぉ…」


だが、無理な話だと理解していても可愛い部下を哀しませる訳にはいかない。

即座に、地下室に通じる階段へと向かう。


「内線は解読の邪魔になるだけだから抜いておく、じゃねぇんだよッ!」


そう、文書解読班は研究気質が過ぎるが故に、内線を抜くと言う暴挙に出たのだ。

その為に連絡手段が古典的な『人伝』と言う形になってしまった。

彼は階段を転げるように駆け下り、関係者以外立ち入り禁止と大きく書かれた部屋を勢いよく開ける。


「お前ら!時間だ!今直ぐに全部の作業を切り…」


彼が全てを言い切るのを止める程、目に映った光景は異常だった。

数多の資料を比較し、新たに発見された文書の解読に勤しむ、そんな姿が映るはずだった。

だが、そこにあったのは、心此処に有らずの研究者たちだった。

ただただ、虚空を眺めている。

紅の言葉に軽く首を動かしただけで、それ以上の行動は何も起こさなかった。


「おい!!誠也!一体何があったんだ!」


彼に誠也と呼ばれた男は、その無精髭にさすりながら、真剣に紙と睨めっこをしていた。

誠也は名前を呼ばれてもそれに反応することはなく、睨めっこを続け、最終的には深くため息を吐く。


「おい!!」

「ん?あぁ、杜央(ずおう)じゃないか。どうしたんだ」

「どうしたんだ。じゃねぇよ!太陽の光力が急速減退だ!すぐにシェルターに行くぞ!」

「はぁ、焦るな杜央…何分だ?」

「…上で半刻も無い」

「だったら、此処ですべきことはシェルター内のパソコンへのデータの転送だ。避難じゃ無い。幸いにも解読は終わっている」

「…じゃあ、こいつらが上の空なのは解読が終わった疲れからか…」


だが、それに対する誠也からの返答はなかった。

まるで、彼の発想が検討違いであるかのような態度を示した。


「…何が書いてあった」


その内容を問いだそうとした刹那、トランシーバーから唐突に声が響く。


「太陽の光力の減退がさらに加速しています!引き続き観測を続けますが、おそらくこれで最後の通信になります!では」


想定されるであろう状況とは違い、その声はハキハキとしていて、動揺を一切感じさせなかった。


「お前…いい部下を持ったな」

「ああ…いや、そんなことは今話すことじゃない。すぐに転送を開始しよう」

「もう、始めてるよ」

「な…書物に時期が書いてでもしたのか?」


紅の驚きは当然のものだ。

内線は抜かれ、外部との通信手段は定期的な人の出入り程度、太陽の減退を認知するすべはなかったのだ。

であれば、彼等が解読していた新たに発見された遺跡から出土した書物に何らかの情報があったのか、と彼が疑うのもまた当然なのだ。

以前から何らかの可能性があるかもしれないと示唆されてきたのだから。


「いいや、ただの勘さ。僕の役割は終わりだ。最後の晩餐にワインでもどうだ?」

「んなもん、どこに隠してたんだよ」

「その割にはそんなに驚いてないじゃないか」

「まぁな。お前とは長い付き合いだしな」


複数のグラスにワインを注ぎ、脱力しきっている一人一人に手渡していく。


「じゃあ、乾杯」

「乾杯」


その日、陽は光を失い、世界は闇に覆われた。


--------------------------------------------------------------


「高嶺管轄長。先日の紅 阿佐美からの外域活動報告に関してですが…」

「次回の探索の時にカメラでも持たせればいいよ。それで、真偽がわかるはず…あの日から、もう十年か。人生で一番充実していたと言っても過言じゃないかもね」


無機質な管轄長質を背景に、皮肉まじりにそう語る高嶺は、どこか嬉しそうな様子でいた。

彼の災厄の日から、既に十年と言う月日が経過している。

非常事態の際に、東京地区シェルターの管轄長となる予定であった紅 杜央は災厄によって殉職した。

いや、正確には殉職したと思われる、と考えるべきだろうか、誰もその遺体を確認できていないのだから。

それに伴い急遽、避難に成功した研究者の中から無作為に選ばれる事となり、彼が長を務める事となったのだ。


「これを契機に、外域の探索が進むことを願うよ」

「杜央さんやお兄さんが生きていると、未だに思っていらっしゃるのですか?既に諦めたものだと思っていましたが。いえ…違いますね、先日の紅 阿佐美の報告による、『生命体らしき存在の確認』それに、淡い希望を抱いている。と、言った方が正しいでしょうか」


彼女のその発言に対して、彼はさほど表情を変えない。

だが、その瞳には若干の動揺が見て取れる。彼女の発言は正鵠を射ていたのだ。

その変化に感づいた彼女は間髪入れずに次の言葉を続ける。


「別に、希望を抱くなと言っているのではありません。ここに避難できた人のほとんどが、あの日たくさんの知人を失っているんですから。あなたの気持ちも理解できます。ですが、あなたはこのシェルターのトップです。トップは毅然とした態度で望まなければなりません」

「分かってるよ、次長。そんなことは、今更だ。私的な感情は出来るだけ押し殺し、人類存続に全力を尽くす。それは何ら変わりはないよ。それに、外域の調査は必要不可欠だからね、結局はやらなきゃだめなんだよ」

「そうですか。ところで、十年前の遺跡から発掘されたとされる文書は、まだ公開なされないのですか」


高嶺に相対する女性は、今や世界では生産ができなくなってしまった皮のジャケットに腕を通しながら、鉄仮面を被ったような表情で言葉を語る。

その問いに、彼は若干の躊躇を見せる。


「君は本当に痛い所をついてくるのがうまいよね…まぁ、阿佐美くんの証言の裏付けが取れたら公開に踏み切るとするよ」

「十年が経過したとは言え、彼女もまだ二十四歳ですよ。外域に関して任せっぱなしでいいんですか?」


またもや痛いところをつかれたとばかり、高嶺は顔をしかめる。

だが、今回のものには元から返答を用意していたのだろう。一切の躊躇を見せることなく返答を返す。


「適材適所、だよ。僕や君みたいな研究肌の人間が、外域活動服を着ながら探索なんて…キツイでしょ?」

「ええ、まぁ…」

「阿佐美くんは、このシェルターに避難する前からずっとトレーニングを続けて来た人間だよ。外域活動服は現在五着。この少ない量でも、先進国の中ではトップクラスの量なんだよ。他の国との提携を開始し始めた日があの日の二日前だったからね、定期的な連絡は取れるけど、その情報では向こうでは宇宙服からの流用とかが考えられているみたいだよ。まぁ、何が言いたいかって言うと、僕たちが入れる隙間はない。できれば、どうにか外の様子を観察して研究したいんだけどね。公転や自転とかにも影響はないみたいだし」

「はぁ…そこまで的確な解答を用意しているあたり、いつか私に言われるだろうと想定されていたのですね。自転、公転に関しては私も気になっていますが、そのような余裕はないとご自身で理解しているのですから、机上での論議で満足してください。さて、この後に仕事がないので部屋でゆっくりさせていただきますね」

「桔梗 唯 管轄次長」


先ほどまでの、物腰の柔らかそうな青年はおらず、その雰囲気は十年間管轄長を務めて来たものにふさわしいものだった。

名を呼ばれた彼女は、すぐさま誰もが美しいと声を漏らすような、立派な敬礼をする。

だが、既に高嶺の纏う雰囲気は普段の少し抜けたものへと戻っていた。


「はぁ、こう言った悪戯はやめてもらえますか?ご自身の年齢を考えてください。以前の管轄次長にもこんなことされてたんですか?」

「普段から皮肉られてるからいいでしょ?まだ四十代にはなってないし、前管轄次長かぁ…もっと愛嬌のあるひとだったし」

「まるで、私に愛嬌がないかの様におっしゃられるのは…」

「君はどちらかと言うと無愛想だろう?」


彼女が言葉を言い切る前に、高嶺が口を挟む。

それに対して、彼女が反論を行わず黙っているのも、自身でそれを理解しているが故だろう。


「しかし…四十歳ですか…」

「いやだから、まだだってさ」


不意にそう漏らす彼女の言葉には、何か感慨深さや、尊敬の念と言った感情は一切見えない。

むしろ何かを訝しがっているかの様な雰囲気がある。

それに、高嶺は一切感づくことなくツッコミを入れる。

おもむろに体を伸ばす高嶺。

よくよく見れば、彼の見た目は、まもなく四十路を迎える男の見た目とは到底思えるものではない。

若すぎるのだ。ただ見た目が若いだけの四十路など、探せばいくらでもいるだろう。

彼の場合、若く見えるのではなく、老いていないと形容した方がその違和感に説明がつく。


「おかしいと思いませんか?」


軽い上半身のストレッチを続ける高嶺を見つめながら、桔梗は言葉を口にする。


「何が?何かおかしいことでもあるの?」

「…いえ、近日中に報告をする予定なのでまたその時にしましょう。さて、私の本日のスケジュールはこれで終了です。追加の指令がない場合は、是非休憩に入らせていただきたいのですが」

「そうだね…特に何かあるわけでもないし…仮に何か用事ができた場合は、いつも通り君に直接連絡を入れるから安心して休んでいいよ」


そう告げられると、彼女は敬礼を残し直ぐに部屋を去っていく。

部屋が人一人を失う、ただそれだけで無機質さが輪をかけて広がっていく。

その無機質さに耐えられなくなったのか、おもむろに席を立ち上がり部屋を出ていく。

しかし、廊下にも華はなくただ必要な設備のみが設置されている。

人の生活感というものが圧倒的に欠如しているのだ。

だがそれも、施設内のみで全ての生活行為を完結させるために必要な措置なのだ、階級的に上層に位置する者が欲にかまけてしまってはいけない。


「あ、高嶺さん。お疲れ様です」


何か考え事に耽ながら廊下を歩く彼に声をかけたのは、外域活動服の内部に装着するスーツの様な服に身を包み、水の入ったボトルを片手に持つ紅阿佐美だ。

かつて長かった髪は、外域活動服を装着する際の邪魔になるからと言う単純明快な理由でばっさりと短くなっている。


「お疲れ様、報告には一通り目を通したよ。これからの調査の指針は明日にでも会議で話し合うことにするから今日はゆっくり休んで...」

「父の捜索に関してはどのようにお考えですか?」


高嶺が言葉を紡ぎきるよりも早く、彼女は自らの問いを口にする。

その表情からは短慮さからの発言ではなく、熟考した上での問いであることが窺えた。


「それも、明日の会議で話し合うことにしよう」

「わかりました」


ただ一言そう言葉を残すと、彼女は自らの部屋へと向かうべく体を翻す。

10年という月日が人類の発展を大きく阻害し、精神面にも大きな影響をもたらしていた。

外域で活動する権限のない者達はシェルターという金属の塊の中に閉じ込められ、娯楽は大幅に削減された。

シェルター内の自給能力のみでは、収容されている人間に最低限の生活を行わせることしかかなわないのだ。

そして、その不満の矛先は外域と言う広大な空間で活動している人間へと向く。

彼女には頼るべきものがないのだ。

十四という齢にして父と強制的に離され、シェルター内には敵ばかり。

そして、いつの日か必要最低限の会話しかしえなくなったのだ。

彼女を外域へと駆り立たせる要因は”父の生存”いや、”父の遺体”だろうか。

次の調査の目的を彼女の父である紅杜央にしたとすれば、何が起こるかは容易に想像できる。

彼女の後ろ姿を見ながら、次の調査について思案する高嶺はどこか苦しそうな様子でいた。

息抜き程度に書いたものです、他のものと並行して進めていきますが、リアルが忙しいので筆の進む速度は遅くなります。

よろしくお願いします。


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