零日目
その日、彼の元に一本の電話がかかって来た。
彼はまだ眠い目を擦りながら電話に出る。
「はい、ジョニー・アシュフォードです」
『元気かジョニー、俺だ』
「ベックか!久しぶりだな」
電話の相手はイーサン・ベック。彼が、ジョニーが軍にいた頃の親友だ。
「どうしたんだよ、いきなりかけて来るなんて」
『仕事の話だ、オルフィス製薬が調査船の護衛を募集してる。報酬は百万だ』
「期間は?」
『一週間だ』
「どこでその話を聞いた?」
『ちょっとしたツテがあってな、そいつに聞いたんだ』
(一週間で百万、情報の出所は怪しいが…)
「乗った」ジョニーは乗る事にした。
『わかった。集合時間は十月十日朝六時、場所は後で送る。持ち物は着替え以外不要。俺はこれからチャップマンを誘おうと思う。それじゃあまた』
電話は切れた。
(チャップマンか)
ジョニーはチャップマンの事を思い出していた。
(禿頭の巨漢で、常に冗談を飛ばしていた気の良い奴だ。きっと楽しい任務になるだろう)
ジョニーは明後日の準備を始めた
彼女は自分のオフィスにいた。
「水中銃、予備含めて六挺。食料、予備含めて二週間分」
彼女は調査船のチーフを任された身である以上、入念なチェックを行わなければならないと思い、護衛の装備品や、食料の数が書いてある書類に目を通していた。
そこに両手にコーヒーカップを持った男が近づいて来る。
男は一見女性に見える程、華奢な身体をしていた。
「ふぅ」
「お疲れ様」
男が彼女に話し掛け、彼女のデスクにコーヒーを置いた。
「ありがとう、ナギサ」
「いえいえ、チーフこそ頑張ってますね」
「それはそうよ、初めてチーフを任されたんだもの」
「チーフ、いえ、アリスさん。無理をしないでくださいね」
「わかってる、そろそろ終わりにしようと思っていた所よ」
そう言うとアリスは書類を鞄に仕舞い、立ち上がる。
「帰ろう、ナギサ」
「はい」
二人は一緒にオフィスから出ていった。
これより一ヶ月後、二〇三一年十月十日のこと。
ジョニーやアリスを含めた乗員十一名を乗せた潜水艦アルゴ号は、アクアティア号の事故の調査の為、深度七百メートルの深海へと赴く。
深く暗い神秘の世界で、彼らは何を見るのか…。