輝きを失ったもの
「おかえり。疲れたでしょう、リリアーナ」
施設の白い小さな門をくぐると、私を待っていたのは赤毛のスカーレットだった。
「ええ。今戻ったわ、スカーレット」
「今回の任務はどうだった?」
スカーレットの窺うような視線。
その目は、私の顔を真っすぐに見据えていた。
「どうって……いつもと同じ。なにも変わらない」
「迷いはないんだ」
スカーレットが変な事を聞く。
「当り前じゃない。祖国の敵をグサリと一撃。それで終わり」
「そう」
「ええ」
いつもと同じ。
祖国と王家と民衆の敵を討つ。
迷いなどあるはずがない。
スカーレットは一体、なんのことを言っているのだろう。
「そうなんだ。ねえリリアーナ?」
「なに? スカーレット」
スカーレットは一呼吸おいて、遠い目をした。
「私ね、殺すのが嫌になっちゃった」
スカーレットの目はなにも映してはいない。
「え?」
私が聞くと、スカーレットは両手を前に突き出しつつ、ひらひらと手を振った。
「ううん、忘れて。なんでもないわ」
「……スカーレット?」
急いで取り繕うスカーレットに、私は首を捻るばかりだったのである。
◇
朝からオスカードが騒がしい。
部屋に押し掛けたオスカードは、私を見つけるなり荒れに荒れた。
「スカーレットを見たか、リリアーナ!?」
「知りません」
「隠すとためにならんぞ!」
オスカードの膝が上がる。
そしてそれはそのまま振り下ろされて、私の腹に靴先がめり込んだ。
「くはっ!?」
私は苦悶の声を上げ、体をくの字に折って床に倒れては転げまわる。
「リリアーナ! スカーレットはどこだ!」
「知り……ません」
かかとが思い切り腹に振り下ろされた。
「がっ!?」
私は咳き込む。
咳き込むが、息もできない。
「この役立たずが!」
オスカードは捨て台詞一つ残し、立ち去った。
唾液に鉄錆の味が混じる。
それにしてもスカーレット。一体なにが?
◇
「お姉ちゃん……」
「スカーレットは施設を抜け出したの」
ぐずる妹を私はあやす。
「施設を?」
「うん」
スカーレットは施設を出て行ったらしい。
皆の噂では『探さないでください』との書置きが見つかったそうだ。
「どうして?」
「わからない」
理由は不明だ。
私にも、及びもつかない。
「どこに行ったの?」
「わからない」
わからない。
スカーレットはここを出て、いったいどこに消えたのだろう。
「今どうしてるの?」
「わからない」
まして、なにをしているのかなんて……想像の範疇を超えている。
「わからないばかりじゃ、なにもわからないよ。お姉ちゃんずるい!」
「ごめん。ごめんね、ディアーナ」
ああ、妹が涙を浮かべて泣き出した。
「ずるい、ずるいよ!」
「ごめん。ごめんなさい」
弱々しい拳が私の腹を殴る。
私はただ、意味も分からぬまま、それに耐え続けていた。