表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
spell×spell×spell  作者: 武見ゆう
第一章 バーレ商会と呪いの人形
9/48

呪いの人形マリアベル

それは、少女が父親からもらった人形だった。

水色のワンピースに、大きな帽子。キラキラと輝く金糸の巻き毛に、碧い目。

めったに会えない父親からの、贈り物。

少女は、その人形に「マリアベル」と名をつけた。


少女はマリアベルに話しかける。

その日の出来事、思ったこと、すべて。

どこへ行くにも一緒だった。いつも、いつも。

父親に会うために町に向かう、その馬車が、野盗に襲われて少女が死ぬ、その日まで。


「彼女が『マリアベル』です。」

 丁寧な細工物の木箱に敷き詰められた光沢のある上質な布。そこに収まるべきは、箱と同じかそれ以上の名品であるべきだ。だが、これは。


「・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」


 水色がほとんど濃い灰色に変色してしまっているのは、長い年月のためだ、仕方がない。金髪がくすんでしまっているのも。けれど。大きな頭に、布を被せて縛っただけのその形状。それはどう見ても、エリー作「ストック君」の同胞である。


「水色のワンピース・・・・。」

 呆然とエリーが呟く。うん。まあ・・・ワンピースといえばワンピースだ。帽子もちゃんと被っている。頭の方が断然大きいが。大きく見開かれた目は碧い。アクアマリンのように見えるが、どうなんだろう。きちんとまつ毛もある。口角が上がった口元は、どこか尊大で、ご丁寧に歯も描かれていた。


「コレを娘のお土産に・・・?」

 エリーが言葉を発した瞬間、壁にかけられた額縁ががたんと音を立てた。そして次の瞬間には、こちらに飛んでくる。パキン!と派手な音を立てて、それは粉々になる。僕は、ほんの少し目を細めて、目の前に立つ片眼鏡(モノクル)の青年を凝視した。


「彼女は、その、とても繊細なので、発言には注意してください。」

 笑顔を崩さないまま、少し困ったように言う。そして、口元でもごもごと呟き、木箱にゆっくり蓋をする。簡易の封印らしい。


「グリード・クイルムについての調査を、バーレ商会から頼まれましてね。出てきたのが、・・・彼女です。『呪いの伯爵令嬢マリアベル』その筋では結構有名だそうですが・・・・。」

「噂は聞いたことあります。」


「なんで、伯爵令嬢?」

「そういう設定だった、てところでしょうか。人形遊びの。持ち主は、貴族とかではないですから。」

 詳細まではわかりませんね、と青年は片眼鏡(モノクル)を指で抑える仕草をした。


 青年の名はジュライ。苗字はない。もしくは、名乗っていない。エリーも同じだが、別に珍しいことではなかった。家名を捨てた冒険者や、もともと家名などわからない者も多いのだ。


 ジュライは協会(ユニオン)のカルマート支部長で、術師だ。協会(ユニオン)は、公式にも非公式にも大変重要な役目を持っている組織だが、一般人にとって最も重要なのは、仕事仲介の役割である。戦士や術師、術具師などが拠点の協会(ユニオン)に登録し、仕事を紹介してもらう。エリーも登録している。


けれど、あまり関りは持っていない。協会(ユニオン)相手に借りとか貸しとか面倒くさい、というのがエリーの言だが、呼び出されたら応じないわけにはいかないのが難しいところだ。


「で、コレをどうしろと・・・?」

 ガタン、と箱が動く。封印された中でもコレ呼ばわりが聞こえたらしい。なかなか攻撃的(アグレッシブ)な令嬢である。

「・・・・何とかしてください。」

「いや、なんとかって。」

「ほかに当てがないんです。」

「いや、あるでしょう。いくらでも。」

「呪術に秀でている方は少ないですし、バーレ商会から紹介もありまして。」

「・・・・協会(ユニオン)で管理しとけばいいのでは?危ない術具(アーツ)の管理も協会(ユニオン)のお仕事ですよね。」


「この…方は、術具(アーツ)ではないです、呪具の分野だと思います。もちろん、お金も支払います。バーレ商会が。」

 バーレ商会が。


「・・・・『マリアベル』をグリードの隠し倉庫から見つけたのは私なんです。隠された地下通路を見つけてしまって・・・・、奥に押し込められていた厳重に封印されていた鉄箱を、よせばいいのに開け放ってしまった・・・・。」

 悔恨の念をあらわに、片手で顔を覆う。


「簡易の封印をして、協会の倉庫に運んだんです。ですがこの部屋に戻ると、彼女が、いました。びっくりして部下に預けて家に帰ると、僕の部屋に居るんです!なんとか、何とかしてください!」

 思いのほか、必死だった。

 だったらお前が金払えよ、とエリーがつっこむ声が頭に響いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ