ストック君を作ってみました
「結局さあ、グリードの奴が黒幕だったんだよ!グリード!ああ、グリードってのは、ウチで出納係をやってたやつ。あいつがさあ、ウチの金、結構使い込んでたらしくて。で、親父が倒れて、ディルクが仕事でしゃばるようになったろ。ずっと誤魔化してたけどそろそろばれるかもって。で、ディルク殺して、その罪俺に着せちゃえって。サイってーだよなあいつ!くそ!」
禿頭が光る。フードを被るのはやめたらしい。
あの時。
ディルクに向けて放たれた第一撃は、術式を組まれた針だった。面白いことにそれは、不運の呪いが発動したことによって偶然に回避される。二撃目に放たれたのは、ナイフ。これを護符が防いだ。続けざまの第三撃。剣を抜いた男から、ディルクを庇ったのはなんと兄アルバンである。剣の男は僕が弾き飛ばしておいた。
「グリードは、親父の古い友人の息子でさ。俺は最初っから、いけ好かないと思ってたんだよなあ。」
「古い友人って突然出てくる奴に、ろくな奴いないって聞いたことありますね。」
「そうだろう!俺は最初っから言ってたのに!」
「アルバン、信用ないんだねー。」
「そうなんだ。・・・違う!何を言うんだ、クロ!」
クロじゃねえよ。
そういう安直なネーミングはやめてもらいたい。使い魔にとって、名は神聖なものだ。
だいたい、なんでこいつは店に入り浸っているのか。事後報告なんて、別にいらないのだが。というか、弟に呪いかけたことに関してはお咎めはないのだろうか。呪ったのはエリーだけど。
「だいたい、うちの連中は俺を敬う気がないんだよな!」
そりゃそうだ。
「普通、跡継ぎってのは長男だろう?ってことは俺だろう!なんで、ディルクなんだよ。みんなそれが当然って顔してるし、ああムカつく!いなければいいのに!」
「そう思ってるのに、なんで身体張って守ろうとしたのさ?」
後先考えずに、弟に体当たりして、気絶した。あの時、アルバンは、自らの身体を盾にしたのだ。
眉を顰めて、真横に首を傾げる禿。
「・・・・さあ・・・・・・なんでだ?」
「・・・僕が聞いてるんだけどなあ。」
「よく覚えてないんだよ!」
「心の奥底に眠っていた兄弟愛が目覚めたんでしょう。」
「そんなわけあるか!なんかとてつもなく嫌だな、その言い方!」
エリーの言にアルバンはバンバンと机を叩く。
僕達は、アフターサービスの謝礼をディルク、というかバーレ商会から受け取っている。予想の上をいく額だったので、エリーはご機嫌だ。アルバンの話を聞きながら、手元でチクチクと針を動かしている。やっていることは裁縫だが、使っている布には、病的に細かい術式が施されていた。
「・・・・?さっきから、何作ってんだ?」
「これですか?ちょうど、完成したところです!」
言いながらエリーは、その不細工な人形をアルバンに突き出した。灰色の布でできた大きな頭に、アンバランスに描かれた目と口と、かなり強調されたまゆげ。形だけを見れば、てるてる坊主だ。
「な、なんだ?気味の悪い人形だな・・・。」
「新作です。そうですね・・・。『八つ当たり人形ストック君』?『怨念サンドバック・ストック』のほうがいいですかね?」
どっちも微妙だと、僕は思う。
「これはですね、むしゃくしゃしたときとか、嫌なことがあった時にストック君を叩きつけたり、叩いたりして気を紛らわせます。」
エリーは言いながら、ストック君にデコピンをくらわす。瞬間、なにか黒いもわっとしたものが発生したのだが、アルバンは気がついただろうか。
「で、ストレスを溜めて溜めて溜めて、溜めきったらパスワードとともにむかつく相手に向かって投げるんです。」
「すると?」
「自爆します。」
ホントに・・・・何、作ってるんだ。
「溜めた怨念にもよるんですけどね、まあ、最大でもファイアーボール程度の威力にしかならないし、安全ですよ。ちょっと派手に見えるようには細工してありますけど。ストレス発散に良いかなあ、と。試作品ですけど。買いま・・・」
「買う!」
買うのか。
「・・・ファイアーボールくらいの威力って、安全とは言わないからね。」
「命に別状はないと思うけど?」
命は大丈夫なのかもしれないが、諸々別状をきたすと思うぞ。