表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
spell×spell×spell  作者: 武見ゆう
第一章 バーレ商会と呪いの人形
5/48

商人兄弟の依頼

 バーレ商会はなかなかに成功しているらしい。商会長のガルト・バーレは、ここ数年、体調を崩しているが、その仕事は次男ディルクが粛々とこなしており、今のところ問題は起こっていない。ガルトの妻はすでになく、子どもは長男アルバン、次男ディルクの二人。長男は独身。次男は妻を迎え、娘1人息子2人がいるらしい。


「・・・そうか。アルバンっていうのか、兄。」

「依頼人の名前くらい、覚えててよ。」 

「いや、別にいらない情報かなあって。」


 僕は彼女の肩の上。出かけるときは、ここが定位置なのだ。

 僕らは、今、ディルク・バーレを追っている。距離は十分。護符と称して渡した板に、マーキングをしておいたから見失うことはない。ついでに、町の人たちにバーレ家の聞き込みをしているのだ。


「ディルクさんはとてもいい人だよ。お金持ちの坊ちゃんなのに少しも偉そうじゃないし、腰が低くて丁寧でやさしい。奥さんもお優しくてねえ。・・・・・兄?・・・ああ!あの、クズな!」


「ディルク様は、辣腕と呼ばれたお父上の穴を埋めようと、それは懸命に努力しておられますよ。まさに粉骨砕身といった感じですな。商会のものは皆、尊敬しておりますし、そのお力になりたいと思っております。・・・・・アルバン様ですか?何の役にも立ちませんよね、正直。」


「ディルクさんが商会長でしょ?・・・・・アルバン?知り合いかい?ツケがたまってるんだけど払ってくれないかねえ?」


「・・・・・・・・・・。」

 ある意味すごいな、と僕は感心する。

 底なしの底と高き山頂のごとく、信頼度の高さに差がある。兄弟なのに。


「・・・この評判の差で、弟に何かあったとする。」

「アルバン兄が真っ先に疑われるね。」

「兄は『お前に呪いかけてやったぜ!』とご丁寧にも本人に報告済み。」

「馬鹿だよね。」

「・・・・引き受けたのは軽い呪いだけど・・・・。」

「そんなの、ほかの人は知らないよねえ。」


 そう。それが問題なのだ。

 兄アルバンの依頼で、エリーは弟ディルクに呪いをかけている。嫌がらせにしかならない弱いもので、痕跡などほとんど残らないが、アルバンが店を訪れていたことはきっと調べればわかる。あの兄が、ばれないように気をつけていた、とかないだろう。


「どう考えても、一緒に疑われる・・・・。」

「そうだね。」

 エリーが首を動かして、僕にじろりと視線を送った。


「・・・何も起こらない可能性もあるよね?」

「それはそれで、今の行動が無駄になるけど。」

「・・・・・・・・。」


 行きかう人々が幾人も振り返る。エリーが目を引く美少女だからなのか。それともしゃべる猫が珍しいのか。そうだな。まとめてはっきり言うと、「なんだか目立つ、普通じゃないのが、うろうろしてる」からだろうな。尾行には甚だ不向きだ。早く終わるとよい。


 ディルク・バーレは商会の仕事に忙しいようで、あちこちの商店に入っては出てくる、を繰り返している。本当に働き者だ。数人のお供を連れているが、皆テキパキと動いていている。エリーは、彼らの様子をうかがいながら、屋台の買い食いに走っている。いいけど、太るよ。



 ふと前方に目をやると、見覚えのある挙動不審の男がいた。


 顔はよく見えないが、ディルクが転びそうになったり、階段から落ちそうになったりするたびにガッツポーズをしているので、兄アルバンであろう。


「うっわ、いる・・・。」

「いるねえ。」


 役者はそろったのではないだろうか。そう思っていると、案の定、動き出した者達がいた。

 よかった。早く済みそうだ。

 エリー、とりあえず、その団子、早く飲み込んどけ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ