呪い屋エリーと使い魔
大通りを抜けて路地に入ると、その先には迷路のように入り組んだ裏街が広がる。「カルマートの巣」と呼ばれるここは、都市の中心部にありながら、地図のない場所。カルマート公が住まう壮大なる都の、陰る場所だ。狭い道の両側にいくつもの扉が並ぶ、その一角に「呪い屋エリーの店」はある。
薄暗い部屋は、ランタンの灯で揺らめいていた。
乱雑に並べられた古いぼろぼろの本、何かの骨、赤黒く汚れたナイフ、釘の刺さった藁人形、壁一面に描かれた意味ありげな文様。そのほとんどが、雰囲気作りのために置かれただけの、フェイクであることを僕は知っている。
細長く伸びた部屋の奥、布で仕切られた場所。その中で向かい合う2つの影。一方は真っ黒いローブですっぽりと姿を隠し、もう一方はフードを目深に被っていた。ここの客は、顔を隠したがる奴が非常に多い。後ろ暗いのだろうが、ここで隠したって意味ないだろう、と僕は思う。
「奴さえ、ディルクの奴さえいなければ!俺は親父の後を継げるんだ!」
よく聞くセリフだ。名前が違うだけで。
「ディルクの奴、弟のくせに、親父に取り入って俺を出し抜きやがって・・・・絶対に許せない!」
・・・・お兄さんでしたか。
「このまま、あいつが跡取りになるなら・・・・子々孫々、末代まで呪ってやる!」
そうすると、アンタも範囲内ではないだろうか。
聞き慣れたやりとりを、僕は今日もエリーの横で聞いている。ここにいる僕は、猫と呼ばれる獣の形。
肩に乗れる程度の大きさで、尻尾と前足片方の先だけが白く、あとは黒。目の色は自在に変えられるが、基本は緑だ。
僕の名はアムルタート。呪術士エリーの使い魔をやっている。