表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

パン粉 台本集

メガネイズム

作者: パン粉

「メガネイズム」 作:パン粉


◯鈴木 次郎

 メガネが大好きなサラリーマン。給料のほとんどをメガネに使っている。嫁は縁なしメガネ。

◯川崎 凛子

 メガネが大好きな大学生。黒縁メガネを愛用している。言動に遠慮がなく、止めないとどんどんボケ続ける。

◯谷戸 遥

 メガネがお友達の高校生。暗いところにいるのが好きで必然的に目が悪くなった。自分本位な性格。ツッコミ役。



 明転。舞台は学校。下手から鈴木が出てくる。


鈴木「メガネ……メガネっ子はどこだ……?」


 舞台上をフラフラと探し回る。


鈴木「どこに隠れてるんだ、メガネ! ……はっ、今一瞬あっちの方でキラッとしたような……」


 上手に移動する。そこでちょうど川崎が上手から出てくる。


鈴木、川崎「ぎゃぁああああああああ!」

鈴木「お、おばけだぁあ!」

川崎「な、何!? っていうか私はおばけじゃない!」

鈴木「何だって……? ま、まさか妖怪!」

川崎「ちっがーう! あんたのメガネは強化ガラスなの? どこからどう見ても採れたて新鮮ピッチピチの女子大生でしょう!」

鈴木「メ、メガネの妖怪……」

川崎「はぁ!? 今私のメガネを侮辱したでしょ!」

鈴木「は? 俺がメガネを侮辱するような発言をするわけないだろ」

川崎「いーや、私にはそう聞こえたね。黒縁メガネを妖怪だってバカにした!」

鈴木「してねーよ!」

川崎「この縁なしメガネ野郎!」

鈴木「ふ、縁なしメガネ野郎だと……? お前、よくも俺の嫁を……」

川崎「許せない、私のお気に入りの黒縁メガネをぉ……って、え、嫁?」

鈴木「そうだ! この縁なしメガネは俺の愛しい嫁なんだよ。なのに、お前はこの子を侮辱した!」

川崎「メガネをお嫁さんにするなんて……」

鈴木「なんだ? おかしいか? お前のメガネへの愛はそこまでなのか? はっ、たかがしれてるな」

川崎「その発想はなかった! いいね、それ! 私もこの子と結婚する!」

鈴木「お? なんだお前。わかる口か?」

川崎「とーぜん! だってこの黒縁メガネ……ううん、ジュリオは私の伴侶だもの!」

鈴木「ほう、お前の結婚相手はジュリオというのか。ならば俺の嫁も紹介しよう。気高き縁無しメガネのリリアンだ」

声「よろしくお願いします、ジュリオさん」

川崎「しゃ、喋った!? 高性能すぎる!」

声「よろしくな、リリアン」

鈴木「お前のジュリオも喋ったぞ!? どういうことだ、リリアンにそんな性能は搭載してないはずなんだけど……」

ジュリオ「ご趣味は?」

リリアン「趣味ですか? そうですね、私の使用者が変態なので何もさせてもらえません」

鈴木「え、リリアン……?」

ジュリオ「それは酷い。俺もその気持ちよくわかるよ」

川崎「えっ、ちょっと待ってジュリオ。私変態じゃな」

リリアン「ああ、私の気持ちをわかってくれる方がいるなんて。これは運命でしょうか」

ジュリオ「運命じゃない。これは必然的な出会いだったんだ」

リリアン「ああ、ジュリオさん」

鈴木「待て待て待て! リリアン、浮気する気か!?」

リリアン「けっ、きもいんだよ」

鈴木「リリアンーーーー!」

川崎「ぷぷ。見放されてやんの。私のジュリオはそんな浮気者じゃないもんね」

ジュリオ「すまない、俺はリリアンと一生を過ごすと決めたんだ」

川崎「ジュリオぉぉぉおお!?」

鈴木「……もうだめだ、リリアンがいないと、俺はどうしたらいいか」

川崎「ごめんなさい、私ジュリオにしつこく当たってたよね、反省するから、戻ってきてよぉ」

リリアン、ジュリオ「さようなら」

鈴木、川崎「あぁぁぁあああああ!」


 間


鈴木「ぐすっ、この浮気者! お前なんかこうしてやる!」


 鈴木、縁無しメガネを投げ捨てる。


川崎「えっ。ちょっとなにやってるのよ! あんたのリリアンへの愛はその程度だったの!?」

鈴木「違う! 今でも愛してるさ。でも、リリアンはお前のジュリオを選んだ! ここは愛しい彼女の幸せを願ってやるのが筋というものだろ!」

川崎「な、なんて奴なの……。私、そんな考えしたことなかった。私はジュリオを手放せそうも無いけど、あんた、いい奴だよ」

鈴木「下手な慰めは要らねぇよ」

川崎「お世辞じゃない、これは本心だよ。本気でいい奴だと思ってる。リリアンへの愛情がしっかり伝わってきたよ」

鈴木「お前……。お前も、いい奴だな」

川崎「そんなことないよ。私はジュリオを許せないもん」

鈴木「それはジュリオが悪いんだろ」

川崎「私のジュリオを悪く言わないでくれる? そっちのリリアンだって簡単に心変わりしたじゃん」

鈴木「そっちこそ俺のリリアンを悪く言うな」

川崎「ごめんごめん」


 鈴木、川崎、顔を見合わせて笑う。


鈴木、川崎「って、なんで俺(私)は初対面の奴と笑いあってるんだ!?」

川崎「そもそもあんた何者!? ここは高校よ! どうみても高校生に見えないんだけど!」

鈴木「それをいうならお前だって大学生っつってただろ! なんでこんなとこにいるんだよ!」

川崎「それはこの学校に、とっても可愛いメガネっ子がいるって噂を聞いたからだよ」

鈴木「え、お前もか? あの、深夜に出没するっていう可愛いメガネっ子」

川崎「そうよ。なに、あんたも探しに来たの?」

鈴木「俺は探しに来たんじゃない。友達になるために来たんだ」

川崎「なんだ、目的が一緒なら最初からそう言ってよー。ま、友達第一号は私だけどね!」

鈴木「いやいや、第一号はこの俺だ」

川崎「じょーだん。私だって言ってるでしょ(鈴木を小突く)」

鈴木「やだなあ、そっちこそ冗談は程ほどにしろよ?(川崎の肩を叩く)」

川崎「(鈴木の足を蹴る)」

鈴木「(川崎の足を蹴る)」

鈴木、川崎「やんのか、ああ!?」

川崎「はっ、待てよ。そもそもメガネっ子は可愛いという噂。もしかしたらすでに友達がいる可能性も……!」

鈴木「はっ、確かに。くそ……許せん!」

鈴木、川崎「排除してやる!」

鈴木「そうだ、同志よ。まだ名前を聞いてなかったな。俺は鈴木次郎。メガネに対する愛は世界一のサラリーマンだ」

川崎「私は川崎凛子。メガネへの愛は宇宙一だと自負している大学生よ。よろしく、鈴木さん」

鈴木「よろしくな、川崎さん。ああ、さっきの少し訂正させてもらおう。現世一だ」

川崎「私もちょっと訂正するわね。全時代において一番よ」

鈴木「それは言い過ぎなんじゃないか?」

川崎「鈴木さんこそ言い過ぎでしょ。現世一って、そもそも地球以外の場所でメガネが存在してるのかって話よ」

鈴木「それを言うなら川崎さんもだろう。全時代っていうけど縄文時代とかにメガネがあったのか?」

川崎「あー確かに。メガネっていつからあったんだろうね?」

鈴木「気になるな。ちょっと調べてみるか……O.K. google. 最古のメガネを教えて」

声「圏外です」

鈴木「なんだってぇえ! ほ、本当だ」

川崎「嘘、ここ圏外なの? うわ、まじだ。携帯使えないじゃん」

鈴木「あれちょっと待て。圏外ならなんでgoogleアプリ起動したんだ? お前は誰だ!」

声「私はケータイナビゲーター。略してタビです」

鈴木「なぜそこを切り取った! もうちょっと良い略し方あっただろ」

川崎「ケイちゃんとか?」

鈴木「そうそう、そんな可愛い感じに……ってそれじゃナビゲーターの部分が入ってない!」

川崎「ナゲータちゃんとか?」

鈴木「嘆いた!? 可哀想だからやめよう」

川崎「あ、タタちゃんとか! よくない?」

鈴木「まあ、それなら」

川崎「よし、今日から君の名前はタタちゃんだ!」

タタ「わかりました。私のことはタタとお呼びください」

鈴木「じゃあタタちゃん。お前は何者だ?」

タタ「…………」

鈴木「無視! 機械のくせに!」

川崎「ねぇタタちゃんってどんな機能があるの?」

タタ「私は主に索敵を行います」

鈴木「なんかものすごい物騒!?」

川崎「どんな敵さんを探してくれるの?」

タタ「不死族です。わかりやすく言うと、ゾンビです」

川崎「へーゾンビ。なんかバイオハザードみたいだね」

鈴木「もろそうだろ。あーなんか久しぶりにバイオハザードやりたくなってきた」


 バイオハザードっぽい曲が流れる。照明、黄色のスポット。


川崎「こ、怖いよ次郎くん」

鈴木「大丈夫だって。これくらい……あ、なんか落ちてる」

川崎「ひっ、なんかキラッとしてる。ん? あれリリアンじゃない?」

鈴木「リリアン!? そういや回収すんの忘れてた! ごめんよリリアン!」

川崎「あ、ちょ、先に行かないでよぉ!」

鈴木「ごめんごめん、やっぱ凛子よりリリアンの方が大事だと思って」

川崎「ひどい、私を見捨てるの? こんな右も左も分からないところで」

鈴木「右あっちな。で、左はそっち」

川崎「そういうことを言ってるんじゃないの!」

タタ「右からゾンビが一体来ます」

鈴木「なに……?」


 上手からゾンビが出てくる。


川崎「きゃぁぁああ!」

鈴木「大丈夫だ、こんな時のためにちゃんと武器を用意してある」

川崎「武器?」

鈴木「そう。これぞファイブセブンだ!」

川崎「そ、それ本物……?」

鈴木「もちろん、モデルガンだ!」

川崎「よかったぁ……。本物持ってたら銃刀法違反で通報してたところだよ」

鈴木「この状況で裏切る気だったのか!」

川崎「やーそんな、ねぇ?」

鈴木「はっきりしてくれ!」

川崎「そもそもここ圏外だし」

鈴木「そういやそうだったな。というか、俺たちがこんなことしてる間、ずっとあのゾンビ待ってるぞ? 律儀だな」

川崎「よーし次郎くん! 殺れ!」

鈴木「いや殺れって言われても……」

川崎「殺れ」

鈴木「イエッサー!」


 鈴木、ゾンビに向けてモデルガンを発砲。ゾンビ退場。


ゾンビ「ぐぉおおおおお」

鈴木「や、やったぞ!」

川崎「なんてことを……。あなたに慈悲の心というものはないの!? あの子、ちゃんと待ってたんだよ! せめてワンターンくらい行動させてあげなよ!」

鈴木「お前が言うのか!? そもそもバイオハザードはターン制じゃねぇよ!」

川崎「そうだったね。じゃいいや」

鈴木「テキトーすぎる! もうついていけねぇよ……」


 曲停止。


鈴木、川崎「って、今の誰だ!?」

鈴木「今なんか出てきたよな? あれ幻じゃないよな?」

川崎「うん。幻じゃないとしたら……ど、どうするの! 鈴木さん人殺しちゃったよ!?」

鈴木「どどどどうしよう! 警察に自首……ってここ圏外だった!」

川崎「こうなったら……偽装しよう」

鈴木「え?」

川崎「なかったことにするの。ここで起きたこと全部」

鈴木「なかったことにするって……どうやって」

川崎「そうね……足跡はどうしようもないからそのまま。鈴木さんのその服は全部処分ね。発砲による発射残渣が残ってるかもしれないから。あと一番重要なゾンビだけど……」

鈴木「待て待て、発砲以前にこれモデルガンなんだが」

川崎「煩いわね。モデルガンでも人に向かって発砲したことに変わりはないでしょ」

鈴木「うっ」

川崎「所詮ゾンビだから、動けてはいると思うんだけど……どう隠蔽工作しようかなぁ」

鈴木「別にそんなことしなくても通報なんてされないと思うけど。ここ圏外だし」

川崎「いいの。そういう気分なの!」

鈴木「あ、そうですか」

川崎「たぶんゾンビには話通じると思うんだよ、うん。説得しましょう」

鈴木「説得~? どうせ脅すとかそういった物騒なことになるんだろけど」

川崎「ふっふっふ。後始末が楽で助かるわぁ」

鈴木「聞いてねーな。……はぁ」

川崎「鈴木さん、あなたはそっちからゾンビを探しにいってくれる?」

鈴木「待てまて、そっちはゾンビが消えた方だろうが。俺に危ない方押し付けんな」

川崎「え何? 鈴木さんはか弱い女の子を危ない方に行かせようっていうの? 何て奴だ!」

鈴木「どこがか弱いんだよ」

川崎「あなた、武器持ってる。私、何も持ってない。ほら、私の方が弱い」

鈴木「そこかい! まあ、そんな理由なら別に構わないけど」

川崎「チョロい」

鈴木「あ、なんか言ったか?」

川崎「いえ何も。では、さらだばー!」


 川崎、下手にはける。


鈴木「……さらだばー?」


 鈴木、上手にはける。暗転。

 明転。


谷戸「あぶねぇあぶねぇ。危うく正体がバレるところだった。つーか、モデルガンを人に向けて撃つなんてあいつヤバすぎだろ。常識なさすぎ。あの男に命令してた女も女だ。『殺れ』とか。あれは相当な手練れだな」

  「あ、こんにちは。僕は谷戸遥。この高校の生徒をしています。僕のチャーミングポイントは、そう! この光り輝くメガネさ! 何を隠そう、この学校の都市伝説と言われている可愛いメガネっ子……その正体はこの僕なのさぁ! 何で可愛いという形容詞がついたのかは知らないけど。ああ、絶対女だと思われてるよなー……はぁ」

  「さて、夜の学校の醍醐味と言えば、KI・MO・DA・ME・SI☆! 久々の来客だから、張り切って仕掛けを施してみたぜ! 学校に住み着くものとして歓迎はちゃんと……っと。必技、隠れ身の術!」


 谷戸、隅に隠れる。川崎が下手から出てくる。


川崎「あれ~? こっちの方で声がしたような気が、しなくもないんだけど……。気のせいかな。ま、明らかに男の声だったし、気にしないでいっか」


 谷戸、こっそり退場しようと動く。


川崎「誰だ! そこに隠れている奴は!」

谷戸「い゛っ!」

川崎「こそこそと怪しい奴め。姿を見せなさい!」

谷戸「く……」


 谷戸、渋々と出てくる。


川崎「ん? なんか見たことあるような格好してるね。どこで見たんだっけ?」

谷戸「初対面じゃないですかね」

川崎「ああ、そうだ。ゾンビ! あなたゾンビ役やってた人でしょ!」

谷戸「な、なぜばれた?」

川崎「だって同じ服着てるし、同じ声してるし、なんとなくそうかなーって」

谷戸「くっ、ばれてしまうとは、なんという失態だ……!」

川崎「ねぇ、名前何ていうの?」

谷戸「撤退!」


 谷戸、上手に走る。


川崎「あ、ちょっと待って! 待てやおらぁぁぁぁあ!」


 川崎、谷戸を追って上手にはける。

 数秒後谷戸、上手から出てくる。


谷戸「ふっ、ここはボッチ専用の隠れ家、屋上へ繋がる階段の踊り場だ! ここなら絶対誰にも見つからない」

川崎「あー見つけたぁぁ!」

谷戸「うそん!?」


 谷戸、下手に逃げようとするが鈴木が下手から出てくる。


鈴木「ん? なんだお前」

谷戸「くそ、道塞がれた……!」

川崎「鈴木さん! そいつ捕まえて!」

鈴木「え、なんで?」

川崎「逃げられたら何としてでも捕まえたくなるのが人間のサガってもんでしょ!」

鈴木「いや知らねーけどそんなの。……あれ、お前……いい骨組みしてるじゃないか。すげー可愛い。もっとよく見せてくれよ」

谷戸「は!? こいつ何言ってんのキモいキモいキモい!」

鈴木「そうケチケチすんなよ、ちょっとだけ、ちょっと触らせてくれればいいからさ、な?」

谷戸「いやいやどこ触る気だよこの変態」

鈴木「変態なのは自覚している。リリアンにもそういわれたからな。でも、俺はそんな俺を変える気はない」

谷戸「いや変えろよ! 変わる努力しろよ!」

鈴木「無理だ、俺に変わることなんて不可能なんだ……!」

谷戸「不可能とか言うな!」

鈴木「俺はこの性癖をもってかれこれ20年……今さら変わることなんて、できないよ」

谷戸「20年ものだと!? 腐りきってんじゃねーか!」

川崎「つーかーまーえーたー!」

谷戸「ぎゃぁぁああ!」

川崎「さあご開帳です!」

谷戸「やめろやめろ、お前らの性癖に俺を巻き込むなぁぁああ!」


 川崎の手によって谷戸のフードがとられる。


鈴木、川崎「おおお……!」

谷戸「く、なんて屈辱だ……」

鈴木「青いフレームだ……! 分厚すぎない絶妙な厚さのレンズ。しつこすぎないフレーム。まさに芸術品……!」

谷戸「……へ?」

川崎「あーいいなこのフレーム! メガネ市場のフリーフィットじゃん! 欲しいと思ってたんだよね~」

鈴木「青ってかっこいいよなー」

川崎「ねー。でも私黒以外似合わないから簡単に買えなくて」

鈴木「一応給料は全部メガネに費やしてるんだけどなー」

谷戸「え……もしかしてだけど」

鈴木「もしかしてだけど?」

谷戸「もしかしてだけど、今までお前が言ってたのって、全部メガネのことだったりする……?」

鈴木「そうだけども」

川崎「え? それ以外に何があるの?」

谷戸「あいや、その、あの……ホモ、とか、そういう系の」

鈴木「ないない、馬鹿じゃねーの」

谷戸「そうなら最初からそう言え! 紛らわしいだろうが!」

川崎「というかそういう考えに辿り着くこと自体腐ってる証拠なんじゃない?」

鈴木「そ、そういう趣味だったのか……」

谷戸「違う! 守備範囲外だ!」

川崎「ホントかな~」

谷戸「本当だ! 僕が好きなのは、メガネだけだ!」

川崎「おお! お仲間お仲間」

鈴木「俺は初めからわかってたぜ、お前が同志だってこと」

谷戸「は、同志?」

鈴木「そう! 俺は鈴木次郎。誰よりもメガネを愛するサラリーマンだ」

川崎「私は川崎凛子。全生物の中で一番メガネを愛する大学生よ」

谷戸「あ、どうもご丁寧に。僕は谷戸遥。高校生です」

川崎「高校生? この学校?」

谷戸「そう」

川崎「じゃああの噂のことは知ってる?」

谷戸「噂?」

鈴木「この学校にいるすっごく可愛いメガネっ子のことだ」

谷戸「へ、へ~」

鈴木「あれ、知らないのか?」

谷戸「や、知ってるけど……」

川崎「じゃあなんか最新情報とかあったりしない?」

谷戸「さ、最新情報? えーっと……」


 音響、谷戸の心の声。


谷戸「(どうしよう、こんな校外の奴らにまで噂が広まってるなんて! その噂の正体が僕だなんて知れたら、明日から僕はどう過ごせばいいんだ……! 引きこもりになってしまうじゃないか! もう引きこもりだけど。……そうだ! こうなったら、今までに仕掛けた罠にかけて、何とかして追い払おう! ま、ちょっと危険な罠もあったりするから、気を付けないといけないけど)」


谷戸「あるよ、情報」

鈴木「ホントか!」

川崎「なになになになになになになに!」

谷戸「僕の聞いた噂によると、音楽室でよく見かけるみたいだよ」

川崎「へー、さっそく行ってみよー!」


 川崎、上手に行こうとする。


谷戸「あ、待った。そっちは罠が」

川崎「へ?」

谷戸「そこにスイッチがあるだろ? それ押すとかなり危ない目に遭うからあんまり近寄らないほうが」

川崎「ポチっとな」

谷戸「えぇぇぇぇえええ!?」

鈴木「お? なんか出てきたぞ」


 音響、獣の呻き声。


鈴木「うわぁぁあ! なんだあれ、lion!?」

川崎「Oh, my god! It's a lion!」

谷戸「なぜ英語」

鈴木「Mr. Yato! Would you fight against that lion instead of me? I run away.」

谷戸「何言ってんのかわかんねーよ!」

川崎「意味:谷戸くん。私の代わりにあのライオンと戦ってくれませんか? 私は逃げる」

谷戸「最低だ!」

鈴木「Could you please?」

谷戸「は?」

川崎「意味:お願いできますか?」

谷戸「無理に決まってるだろ!?」

鈴木「はぁ? じゃあなんで罠があるって知ってたんだよ!」

川崎「そうだね、なんで危険な罠ってことまで知ってるの?」

谷戸「そ、そりは……」

鈴木「ちょっと待った、その前にあのlionをどうにかしねーと。こっち来るぞ!」

川崎「えええ、やばくない? 鈴木さん、谷戸くん置いて逃げよう!」

鈴木「ああ、そうだな!」

谷戸「ちょ、待った待った! 僕を生贄にする気か!」

川崎「じゃーあれ何とかしてよー」

谷戸「僕が!? いや、そもそもスイッチ押したの君だよね、川崎さん!」

川崎「そうだっけ? 鈴木さん覚えてる?」

鈴木「覚えてないな」

谷戸「共犯者だ! 知り合いだからって口裏合わせるなんて卑怯だぞ!」

川崎「私たち初対面だよ」

鈴木「そうそう、ついさっき知り合ったんだ」

鈴木、川崎「ねー」

谷戸「恐るべきコミュニケーション力! 引きこもりの僕には無い力だ……」

川崎「大丈夫、ぼっちにだって役に立てることはあるよ」

谷戸「うん?」

川崎「それっ」

鈴木、川崎「谷戸さんバリアー!」

谷戸「それ違ぁぁぁぁう! くっ、こうなったら!」


 谷戸、壁にある赤いボタンを押す。非常火災ベルがなり、シャッターがしまる。


鈴木「うおっ、なんだ?」

谷戸「ふ、さすが僕。シャッターを閉めてライオンを隔離するどころか、倒してしまうなんて。どうだお前ら。僕の機転に感謝するんだな」

川崎「酷い……なんてことを!」

谷戸「へ?」

川崎「あのライオンだって生きてたんだよ! この弱肉強食の世界で、必死に生きようとしてた! なのにどうして! どうしてそんなことするの!?」

鈴木「川崎の言う通りだ。あのライオンは俺たちにとっては脅威だったかもしれない。でも、あんなに傷つけることは無いんじゃないか?」

川崎「可哀想だよ。今だってシャッターに挟まれて苦しそうにしてる。あの子はそんなこと望んじゃいないんだよ」

谷戸「川崎さん……。そうだね、ごめん」

川崎「私じゃない。謝るならあの子にでしょ」

谷戸「うん。ごめんな、ライオンさん。僕の軽薄な行動で、こんな苦しい目にあわせてしまって。謝ってすむことじゃないけど、ごめんなさい……!」

鈴木「あ、ライオンが光に変わっていく……」

川崎「谷戸くんの思いが伝わったんだね、よかった」

谷戸「うん。__じゃなくて! なんで僕はこんな馬鹿みたいなことしてるんだ!?」

川崎「馬鹿みたいだなんて、あのときの谷戸くんは嘘だったの?」

谷戸「演技はもういいわ! なんなんだよ、あの子って! ただのライオンだろ! それになんか消えたし、最初からライオンなんていなかったんだよ!」

鈴木「あの子の思いを否定するのか」

谷戸「知らねーよそんなの! そもそも動物にそんな思いなんてあるのか?」

川崎「あるよ」

谷戸「本当か?」

鈴木「ある。俺が保証してやる。この縁無しメガネ……リリアンの名にかけて!」

谷戸「(鈴木のメガネを奪い取り投げ捨てる)」

鈴木「リリアンーーーー!」

谷戸「ふん、バカなこと言うのが悪いんだろ」

鈴木「すまない川崎さん。俺には保証できそうにない。ああ、リリアン……」

川崎「鈴木さん……! 酷いよ谷戸くん。リリアンは鈴木さんの唯一なんだよ。どうしてそんなことができるの?」

谷戸「そ、それは……って、リリアンって誰だよ」

川崎「あの縁無しメガネよ。わからないの?」

谷戸「……えーっと」

川崎「ああ、丁度良いから私のメガネも紹介するね。気高き黒縁メガネのジュリオよ」

谷戸「そ、そうですか。ちなみに、その、ジュリオさんとはどういったご関係で?」

川崎「恋愛関係にあった……つもりだったけどね。フラれちゃった。ジュリオはリリアンの方が好きみたい」

谷戸「そりゃめがね同士だしな」

川崎「人間とメガネの禁断の愛……燃えるじゃない」

谷戸「そ、そうですかー」

谷戸「(やべぇ。こいつらがこんなに思考回路のイカれた奴らだとは思わなかった。これ以上僕が危険な目に遭う前に帰らせないと)」

谷戸「よし! 気を取り直して、早くその噂の人探しに行こう」

川崎「噂の人じゃないわ」

谷戸「あれ、違った?」

川崎「可愛い可愛いメガネっ子よ!」

谷戸「どうでも良いわそんなこと!」

川崎「良くない。大事なことよ」

谷戸「あーそうですか。ほら、僕もう眠いんだからさ、さっさとそいつ見つけにいくよ」

川崎「そいつじゃない! 可愛い可愛いメガネっ子だっつってんだろ!」


 谷戸、川崎、下手に退場。


鈴木「リリアン……可哀想に。怪我してないか? あああ、レンズに細かい傷がぁ...」

リリアン「す、ずき、さん……?」

鈴木「リリアン! よかった、生きてた。そうだ、俺だ。大丈夫か?」

リリアン「大丈夫じゃ、ないです」

鈴木「すまない、俺がよそ見していたばかりに。すぐに治療しに行ってやりたいけど、今メガネ市場は開いてないんだ。明日朝一で行くから、それまでもちこたえて」

リリアン「もう、いいです」

鈴木「は?」

リリアン「私は、もうだめなんです」

鈴木「な、何がもうだめなんだよ? まだ間に合う!」

リリアン「自分の寿命は、自分でわかります。私の左のレンズ、端が欠けているでしょう? もう元には戻りません」

鈴木「そんな……」

リリアン「私、フレームがないから、弱いんです。仲間もすぐに壊されてしまって。でも、あなただけはこんなに壊れやすい私を今まで大切に扱ってくれた。本当に感謝しています」

鈴木「嫌だ……! 俺にはリリアンが必要なんだ。だから、いなくならないでくれ!」

リリアン「いいえ。あなたに私は必要ありません。だって、もう大切な方がいらっしゃるじゃないですか」

鈴木「そんなの、いない。リリアン以外に大切なものなんてない!」

リリアン「いますよ。川崎さんや、ジュリオさん。谷戸さんだって、あなたの立派な友達です」

鈴木「ち、ちが」

リリアン「違いませんよ。あなたは、私がいなくても楽しそうに笑えていた」

鈴木「そんなの、嘘だ……」

リリアン「私が壊れてしまう前に、幸せを見つけることができてよかったです。これで、心置きなく逝くことができます」

鈴木「待ってくれ! リリアン……好きだ! 大好きだ! 愛してる……」

リリアン「私も、たいせつに、おもっています……(←徐々に擦れていく感じで)」


 照明、全体を薄暗くする。


鈴木「ううっ……ひっく、ぐすっ。……谷戸の野郎、絶対に許さねぇ……! リリアンの仇は俺が取る」


 鈴木、下手にはける。暗転。

 明転、音楽室前。怪しげな風の音がする。


川崎「な、なんか……楽しそうな音がするわね!」

谷戸「いやどう考えてもすげー風が吹いてる音だろ!? 待て、なんでここだけこんな音がするんだよ。外に風なんて全く吹いてないだろ!」

川崎「そうだねぇ。なんでだろー」

谷戸「ちゃんと聞いてるか!? って、扉開けようとすんな! なんで川崎さんは自ら危険に飛び込むような真似ばっかすんだよ!」

川崎「面白そうだから」


 川崎、勢いよく扉を開く。風の音が強くなる。


谷戸「不吉なオーラが漂ってきてる気がする……!」

鈴木「待ちくたびれたぞ、谷戸ぉ!」

谷戸「へ? あれ、そこにいるのって鈴木さん?」

川崎「そういえばさっきまでいなかったわね。リリアンはどうしたの?」

鈴木「リリアンは……」

谷戸「もしかしてあの時の衝撃でレンズ割れちゃった? ごめん、つい」

鈴木「謝って済むものかぁ! お前があんなことをしなければリリアンは……リリアンはまだ生きていられたんだ!」

川崎「え……? 鈴木さん、リリアン死んじゃったの?」

鈴木「……ああ。リリアンの最期は俺が見届けた」

川崎「そっか……。リリアン、いい子だったのに」

谷戸「なんでお前らはそんな深刻そうな顔をしてるんだよ? たかがメガネだろ。メガネなんてそんな高いものじゃないし、いつでも買えるだろ」

鈴木「愚かな。ものの大切さを知らない若造が。この世に同じものなんて一つもないんだ」

川崎「そう。姿形は似ていても。それを失ってしまったら二度と同じものは手に入らないのよ」

谷戸「……そっか。そうだよね。こればかりは僕が悪かったよ。ごめんなさい」

鈴木「……リリアンは俺の心に宿っている。だからこそ、谷戸。お前を倒すことでリリアンの仇を討つ」

川崎「(こっそり観戦の準備を始める)」

谷戸「え? 今僕謝ったよね? それで帳消しに」

鈴木「なるわけないだろばぁぁか!」

谷戸「大人げねー……。くそ、こうなったら仕方ない。受けて立つ!」

川崎「谷戸くんノリいいね。面白くなってきた」


 最終決戦のような曲が流れる。


鈴木「先手必勝。これが俺の最終兵器、ケータイナビゲーター、略してタタだ!」

谷戸「……は?」

鈴木「ふっ、これでお前のターンはもう来ない。ずっと俺のターンだ」

谷戸「えーっと……ついていけねぇ」

鈴木「タタ。工事の方はどうなってる?」

タタ「すでに業者の方を手配致しました。明日には工事の方が始まるかと」

鈴木「よくやった。谷戸、これでお前の隠れ家はなくなった」

谷戸「は、どういうことだよ? あそこは立ち入り禁止で誰も入れないはずだ」

鈴木「そうだな。じゃあ何故あそこが立ち入り禁止か知ってるか?」

谷戸「し、知らないけど」

鈴木「この学校の屋上のフェンスは壊れている。そこで学校側が屋上は危険だと判断し、立ち入り禁止にしたんだ」

川崎「おお〜。鈴木さん博識だね。なんでそんなこと知ってるの?」

鈴木「目的の場所について事前に調べておくのは当然だろう」

谷戸「おい、途中で切り上げんなよ。最後まで説明しろ」

鈴木「ついさっき、屋上のフェンスを直す工事の手配をした。工事が終わって安全が確認されれば、屋上は瞬く間に人気の場所になるだろう。そうなれば当然、屋上へ繋がる階段の踊り場、お前の隠れ家は人の手によって踏み潰される」

谷戸「そ、そんな……。それじゃあ、これから僕はどこで生活していけばいいんだ……?」

川崎「や、ちゃんと家帰れよ」

谷戸「そもそもだ! なんでお前は僕の隠れ家があそこだって知ってるんだよ!」

鈴木「そんなの簡単なことだ。俺も高校時代はそうだったからな」

谷戸「…………」

川崎「ぼっちだったんだね、鈴木さん」

鈴木「ああ。って違う! 今は違うからな!」

谷戸「今は、か……」

鈴木「くっ……。まあいい。次の策だ。川崎さん」

川崎「はいな」

鈴木「メロンパン食ってんじゃねーよ。お前、不法侵入しただろ?」

川崎「ぎくっ」

鈴木「夜中に出歩く未成年と、不法侵入者。十分通報できるレベルだ」

谷戸「お前、まさか……!」

鈴木「タタ。110番通報」

多々「了解しました」

鈴木「あーもしもし? 警察の方ですか? はい。北高校の校舎内にて未成年の子供と不法侵入者を発見しました」

川崎「ちょ、やめて!? それだけはやめて!?」

谷戸「は、はは。僕には帰る家なんてないんだ。いっそ刑務所で過ごした方が……」

川崎「谷戸くーーーーん!」

鈴木「はい。あ、住所ですか? そんぐらい調べればわかるだろ。えーっと、北区みどり町2−3です」

川崎「こいつ本気だ! マジのやつだよ、やばいよどうしよう!」

谷戸「……まあいいや。僕は隠れ家に帰るからー」

川崎「谷戸くん気をしっかり持って! とりあえず逃げよう、警察が来る前に!」

谷戸「はっ! そ、そうだな。ひとまず学校の外に__」

声「誰だ! こんな夜中に何を騒いでる!」

川崎「やば、早くない!? ギネス世界記録だよ!」

谷戸「違くないか? これは」

鈴木「やっべ本物の警備員じゃん! 逃げろ!」


 三人、下手にはける。


声「面白そうじゃないか、俺も混ぜろ……っていない?」


 暗転。

 明転、学校の廊下。


鈴木「今日こそ可愛いメガネっ子を見つけてやる! さあ音楽室へGO!」

川崎「二日連続夜更かしはキツイなー」

谷戸「登下校って辛くね? やっぱり隠れ家の方が」


 三人、お互いの存在を認識する。


三人「お、お前は……!」


Fin

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ