6話 拠点
「それでは石斗さん、ブリュンヒルデのことよろしくお願いします。」
そう言ってフレイヤは通信を切った。
「さて、とりあえず方針も決まったことだし、まずはブリュンヒルデが活動するための拠点が必要だよな。」
「それでしたら自分で探しますから心配いりませんよ。」
「いや、探すにもブリュンヒルデはこっちの世界で戸籍がないし身分を証明するものを何一つ持ってないから怪しまれるだろ。こっちの世界での活動に支障をきたすと思うんだが……」
「魔法を使って偽装するから問題ありません。」
思いっきり偽装するって言っっちゃったよ。しかも魔法を使うってさ。便利な言葉だよなぁ魔法って。まさに魔法の言葉だな。魔法だけに。
まあでも馬鹿正直に別宇宙の戦女神ですなんて言ったところで信じてもらえないだろうし、鼻で笑われるか頭のおかしな娘と思われるか市役所をつまみ出されるのがおちだろう。だったら魔法を使って偽装するのが一番手っ取り早いよな。
「金はどうするんだ? 日本の通貨なんて持ってないだろ?」
「生活費に関してはこちらの仕事を探して日々の糧を得ようと思います。」
一般的な模範解答を言われた。てっきり魔法を使って一般市民に税金のように提供させるというかと思った。
「石斗、私に対して何か失礼なことを考えていませんか?」
心を読み取られた。
「いや、そんなことはないぞ……うん。」
「でしたら私の目を見て言ってください。まったく。」
「いやぁすまんすまん。魔法ってあまりにも便利だからさ、ついよこしまな考えばかり浮かんじまうんだよ。」
「石斗の言う通り、魔法は確かに便利ですが世界を守るものとしてむやみやたらに使うわけではありません。必要な時にだけ使うようにしないと世界の秩序を乱してしまいます。それは私の、私たち戦女神の望むところではありません。」
ブリュンヒルデのまじめな思いを聞いてなんて馬鹿なことを考えてしまったんだろうと思った。反省しないとな。
「そうだブリュンヒルデ。一つ提案があるんだけど。」
「何でしょうか?」
「多己荘の一室を貸すからさ、そこに住まないか?」
「このアパートの一室を? 私は構いませんがよろしいのですか?」
「ああ。俺以外は誰も住んでねえし今のところ誰かに貸す予定もないしな。」
「わかりました。お言葉に甘えて使わせていただきます。」
「おう、ちょっと待ってくれ。部屋の鍵を出すから。」
俺は鍵を入れている収納箱の中から隣の部屋である102号室のカギを取り出した。ちなみに俺の部屋は101号室である。お隣さんになるな。
「それじゃあ案内するからついてきてくれ。つってもすぐ隣だけどな。」
そう言ってブリュンヒルデを隣の部屋まで案内した。鍵を開けて中に入る。部屋の中を見渡すと何もない殺風景な部屋が広がっていた。多己荘は外見こそぼろいが住めないほど汚いというわけではない。人に貸す予定は特になかったがしっかりと掃除はしてある。そのおかげでブリュンヒルデにすんなり部屋を貸すことができるんだからマメに掃除しておいて良かったと思う石斗であった。
「今日からこの部屋を使ってくれ。」
「ではお言葉に甘えて遠慮なく使わせていただきます。」
後で電気、ガス、水道を使えるよう電話しておかないとな。つってもガスだけはすぐには使えないから待ってもらうしかないか。部屋だけ貸したところでライフラインが生きていなかったら部屋を貸した意味がないしその辺りはしっかりしておかないとな。
「ところでブリュンヒルデは普段ユグドラシル銀河ではどんなところに住んでいるんだ?」
「私は向こうの世界では屋敷に住んでいます。」
「え……屋敷? 屋敷ってあの俗にいう大きな家のこと?」
「ええ、確かに大きいとは思いますよ。それがどうかしましたか?」
そっかぁ、屋敷に住んでいるのかぁ……
「……ブリュンヒルデ、やっぱり別の部屋を探しに行くか?」
「急にどうしたんですか!」
「いや、その……戦女神様をこんなぼろアパートに住んでいただくことに対して急に罪悪感がわいてきまして……やっぱりここよりももっと良い部屋を探したほうがいいんじゃないかと思いました。」
「私はここで問題ありませんよ。それに石斗が近くにいてくれたほうが安心できます。」
「そ、そうか? まあブリュンヒルデがそういうんならそれでいいか。」
これで活動するための拠点については解決した。
次は日用品などをそろえるために買い物に行く必要があるな。
「ブリュンヒルデ、これから買い物に行くけどお前も一緒に来てくれないか?」
「はい。ところで何を買いに行くのですか?」
「食料とブリュンヒルデが使う日用品と着る服を買いに行くんだ。」
「日用品と衣服ですか? ですが……私はこちらの貨幣を持っていませんからその……」
「わかってるよ。俺が出すから心配しないでくれ。」
その言葉にブリュンヒルデは驚いた。
「よろしいのですか? 石斗の生活を圧迫してしまうのでは?」
「必要経費だ。それにこの程度圧迫した内に入らねえよ。」
俺ってお金を持っていないように見えるのだろうか? 見えるんだろうな、ぼろアパートの大家だし。ちょっとショック……。
「わかりました。それではお願いします。」
ブリュンヒルデも納得したところで俺は彼女と一緒に買い物に出かけた。