5話 今後の方針
翌日、石斗は窓から差し掛かる朝日で頭が少し覚醒した。
寝返りを打つと手に何やら柔らかい感触がした。
(うん? なんだこれ? ……マシュマロみたいに柔らかくていつまでも触っていたくなるようなこの感触はいったい……?)
「あっ……だめっ……」
何やら荒い息で艶めかしい声がした。その声に反応して寝ぼけ瞼を開く石斗。そこにはブリュンヒルデの胸をわしづかみにしている石斗の腕があった。ちなみにブリュンヒルデは顔を赤らめている。
(………………)
その光景を見て時が止まる石斗。寝ぼけていた意識は完全に覚醒した。
「あの……手を放していただけませんか?」
「うわっ! す、すまん!!」
ブリュンヒルデに指摘されて石斗は慌てて手を放した。
(俺は朝から何をやっているんだ! 紳士を目指しているくせに女の子の許可なく胸をわしづかみにするなんて!! ……あれ、ちょっと待てよ。俺は何でブリュンヒルデと一緒に寝ているんだ?)
石斗は昨日のことを思い返した。
(昨日は確か多己荘の前で倒れているブリュンヒルデを拾って介抱して戦女神だってことを知ったんだよな。で、そっから俺が虚像に殺されて変身して虚像を倒してブリュンヒルデをおぶさってここに帰ってきたわけだ。で、確か帰ってきて疲れがどっと沸いて敷いてある布団に倒れたんだよな。)
改めて考えると濃いい一日を過ごしたなと思った。
時計を見るともう昼前だった。
「随分と長く寝ていたんだな俺達。」
「そうですね。それだけ昨日の戦いが体に負担をかけていたのでしょう。」
「お互い大変だったもんな。」
「私は普段から戦いなれていたからともかく石斗は初めて戦ったののですからあなたのほうが負担は大きかったはずです。」
「つってもだいぶ寝たからな、もう問題ねえよ。」
「ならいいのですが……」
「それより腹が減った。飯にしようぜ。」
「そうですね、そうしましょう。」
石斗達は少し早めの昼食を摂った。昨日のシチューが残っていたのでパンと一緒に食べた。
「そういやブリュンヒルデ、神力のほうはどうなんだ?」
「ええ、一晩眠ったことで回復することができました。今なら昨日のスパイダーフォルスとその取り巻きぐらいでしたらなんてことありません。」
「そっか、そりゃよかった。それと今後はどうするんだ? ユグドラシル銀河に帰るのか?」
「そうですね、一度上司に現状を報告してから決めようと思います。」
「現状を報告って言ってもどうするんだ? 通信機でも持っているのか?」
「神力を使って向こうと連絡を取ってみます。」
「神力って便利だな。」
そんな話をしながら食事を進めていく2人であった。
食事をとり終えると早速通信作業に取り掛かった。
ブリュンヒルデが手を前にかざす。すると目の前の空間が歪みこことは違う場所が見えた。
そこにはブリュンヒルデよりも年上の女性の姿が見えた。髪は茶色で大人の気品を感じさせた。
「フレイヤ様、聞こえますか?」
「ブリュンヒルデ、ご無事で何よりです。」
どうやら彼女はフレイヤというらしい。ブリュンヒルデの対応を見た限り彼女がブリュンヒルデの上司何だろうと石斗は判断した。
「彼は?」
「彼は宝塚石斗、私の恩人です。」
「初めまして石斗さん。私の名はフレイヤ。戦女神隊の総隊長を務めています。」
戦女神隊の総隊長を務めているってことはお偉いさんなのか?
「初めまして。宝塚石斗だ。」
挨拶をし終わったフレイヤはブリュンヒルデに向き直った。
「それではブリュンヒルデ、今までの経緯を説明してください。」
「はい。」
ブリュンヒルデはこの世界に来てからのことを話した。
ウルフフォルスに誘い込まれたこと、行方不明になっている戦女神達は恐らく既にやられていること、石斗に助けてもらったこと、神力がこちらの世界では無限ではなく有限になってしまったこと、石斗が1度殺されて不思議な輝きと共に蘇り変身していたこと、スパイダーフォルスを倒したこと。
「そうですか、そのようなことが……石斗さん。」
「なんだ?」
「貴方に感謝を。貴方のおかげでブリュンヒルデの無事を確認することができました。」
「いや、俺は人として当然のことをしたまでだ。別に感謝されるためにやったわけじゃない。」
「そう謙遜なさらなくてもよいですのに。」
フレイヤは少し困ったような、それでいてほほえましそうに俺のことを見ていた。
「それで今後の方針はどうするんだ?」
「そうですね。ブリュンヒルデ、貴方にはそちらの世界で引き続き虚像と戦ってください。」
「はい、了解いたしました。」
当然のように了承したブリュンヒルデ。しかしそこに石斗が異を唱えた。
「いいのか? ブリュンヒルデは戦えるとは言え弱体化しているんだぞ。虚像の強さがどんなもんでどんだけいるのかもわからないのに大丈夫なのか?」
「石斗さんの指摘ももっともです。ですがこちらとしてもそちらに虚像が潜んでいるのは見過ごせませんし相手の出方を待っているばかりもいきません。ここは危険を承知で事に当たっていただくしかありません。」
つまりブリュンヒルデは虚像に対する囮って訳か。
「……ブリュンヒルデはそれでいいのか?」
「はい、私も長きにわたり虚像と戦っている身です。世界を守る戦女神として覚悟はとうにできています。」
「つっても戦えるのは俺とブリュンヒルデだけだぜ。流石に手が足りないと思うんだが……」
「その点については心配しないでください。こちらから戦力を送りますから。」
流石にフレイヤも俺とブリュンヒルデだけに戦わせるつもりはなかったらしい。
「石斗さん、貴方にやってほしいことがあります。」
「なんだ?」
「今ここで変身してもらえませんか?」
「どうして?」
「ブリュンヒルデを守り虚像を倒した力に興味があります。」
「わかった。変身してみよう。」
石斗の体がまばゆい光に包まれる。光が消えると昨日と同じく宝石の力を身に宿した鎧を身に着けていた。正直変身できるかどうかわからなかったため変身できて安心した。
「それがさきほどおっしゃっていた鎧ですね。見たところ鎧のいたるところに宝石がついているようですが……」
「ああ。この宝石、多分ダイヤモンドだと思うけどこいつが光輝くと力を発揮するみたいなんだ。」
「となるとその鎧の力の源は恐らくそのダイヤモンドですね。」
「フレイヤ様のおっしゃる通りだと思います。昨日はよくわかりませんでしたが改めて近くにいると鎧についているダイヤモンドから力を感じます。」
「力についてはわかったがフレイヤはこの鎧について何か知らないか?」
「いえ、残念ながら私は存じ上げません。」
「そうか。」
フレイヤも知らないらしい。分かったのは宝石に謎の力があることぐらいか。
「ところでその鎧の名前は何というのですか?」
「知らねえな。でもいつまでも鎧じゃあなんか味気ないしな。名前付けとくか。」
なんにしよっかな。どうせのことならカッコいい名前がいいよな。センスが問われるところだ。
見た目が宝石のついた鎧だからそれにちなんだ名前がいいな。それになんか守りたいって思ったときに変身できたから守護者みたいな存在だと思うんだよな。
宝石……守護者……、ジュエル……ガーディアン、ジュエディアン……これにするか。
「決めた! この鎧の名前はジュエディアンだ!!」
「ジュエディアンですか。いいと思います。」
「私も賛成です。」
2人からもいいと判断されたしこれからはジュエディアンで通すことにした。