4話 守護者
「ぐっ……がはっ……!」
胸が熱い……今まで感じたこともない激痛が俺の体を走っている。スパイダーフォルスは俺の胸から爪を勢いよく引き抜いた。周り一面に血が飛び散り赤く染めていく。その勢いで体から力の抜けた俺は糸の切れた人形のように床に膝から崩れ落ちた。
「セキトーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ブリュンヒルデの叫びが廃工場に響き渡る。
「うっ……ううっ……」
ブリュンヒルデの目からは涙が流れていた。見知らぬ怪しい自分を受け入れ優しくしてくれた人。その石斗を失ってしまい彼女の心は石斗を巻き込んでしまった後悔と失ってしまったという悲しみにうめつくされていた。
足音が近づいてくる。彼女を殺そうとする虚像の足跡だ。その足跡に気づいたブリュンヒルデは何とか逃げようとするが神力が尽きてしまっているので体に力が入らないでいた。
(もう、逃げられない……ここまでなの?)
スパイダーフォルスが石斗を刺殺した鋭い爪を見せつけるかのように構えこちらに近づいてくる。ブリュンヒルデは死を覚悟した。
(石斗……貴方を巻き込んでしまい本当にごめんなさい。私もすぐにあなたのもとに行きます……)
スパイダーフォルスがブリュンヒルデを鋭い爪で刺し殺そうとしたその時、不思議なことが起こった。
石斗の体が突如光輝いたのだ!
☆☆
スパイダーフォルスに刺殺された石斗は見知らぬ空間にいた。
(ああ……俺は死んだのか? ここは死後の世界だろうか?)
俺はブリュンヒルデの身代わりになり死んだ。だからここに居る。
彼女は……ブリュンヒルデは逃げ切れただろうか?死んだ俺にはもう分からないことか。
「ここが死後の世界だとすると俺は天国か地獄にでも行くのか?」
でもアニメとかでよく見る魂の状態とかになってないし天国や地獄に続く道も見当たらない。
「どうすりゃいいんだ?」
途方に暮れていると目の前の空間に映像が浮かび上がった。その映像では泣いているブリュンヒルデを殺そうと近づいているスパイダーフォルスの姿が見えた。
「なっ……! 逃げろブリュンヒルデ!! 殺されるぞ!」
しかしその必死の叫びは届かない。
「くそっ……なんだよこれ! 俺に彼女が死ぬ光景を黙ってみてろと言うのか!!」
こんな仕打ちはあんまりだ。俺が最後までブリュンヒルデを守れなかった罰だどても言うのか!
「くそっ! くっそーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! 俺に、俺に彼女を守る力があればっ……」
俺の心は悔しさでいっぱいになっていた。
「誰でもいい……誰でもいいから俺に彼女を……ブリュンヒルデを守る力を俺にくれーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
その叫びが届いたのか胸のお守りが光った。お守りは光輝くと石斗の体の中に入った。
「これは……いったい? 力が溢れてくる!」
☆☆
光が収まったとき場所には戦士がいた。体は白い鎧に全身が覆われている。頭部はフルフェイスの仮面で青い両目をしており額、胸部、両腕、両足には透明なダイヤモンドと思わしき宝石がついていた。
戦士は自分の体を確認する。手を閉じたり開いたり腕や体、足などを確認する。
一通り確認を終えると状況を理解できていないスパイダーフォルスのほうへ走り思いっきり殴り飛ばした。
殴られたスパイダーフォルスは飛んでいき盛大な音を立ててドラム缶の山に突っ込んだ。
その光景にブリュンヒルデは唖然としている。
「石斗なのですか?」
ブリュンヒルデが確認するように尋ねた。
「ああ、俺だ。」
「その姿はいったい?」
「俺にもよくわからない。でもこれだけはわかる……お前を守れる力を俺は手に入れたんだ。」
そう話していると崩れたドラム缶の山の中からスパイダーフォルスが出てきた。
「話は後だ。先にあいつを倒す!」
俺は勢いよく飛び出しスパイダーフォルスに攻撃を仕掛ける。拳や足に力を込めて奴の顔や体を狙う。スパイダーフォルスは俺の攻撃を躱したり防いだりするが躱しきれずに俺の拳が奴の体や顔を捉えダメージを与えていく。
スパイダーフォルスがその攻撃に耐えきれずひるんだ瞬間を狙い重い一撃を顔面に与えた。
スパイダーフォルスは吹っ飛び地面に倒れた。
「すげえ、これがこの鎧の力なのか。」
石斗はこの姿の身体能力に驚いていた。明らかに人間の能力を超えていたからだ。
だがその隙をスパイダーフォルスはついた。口から蜘蛛の糸を吐き出し石斗の首を絞めた。
「しまった!」
勢いよく首を絞められた石斗は呼吸がしづらくなり苦しくなった。
「くそっ、ほどけねえ!」
何とか糸をほどこうとするが頑丈な糸のようでほどくことができない。
じりじりとスパイダーフォルスのもとに引っ張られていく。
スパイダーフォルスは爪を構えていた。石斗の胸を貫いたあの鋭い爪だ。
「っ……!」
石斗はあの爪に貫かれたときの痛みを思い出した。とても痛くて……とても熱かった。
スパイダーフォルスはもう一度石斗を殺そうと爪を突き出した。
あの爪に貫かれる訳にはいかない!
石斗の思いに反応したかの様に両腕の宝石が光輝いた。すると両腕に力が入り糸を勢いよく引きちぎった。
糸を引きちぎられたことにスパイダーフォルスはとても驚いていた。
「そこだ!」
その隙を石斗は見逃さなかった。スパイダーフォルスの腕をつかみ勢いよく振り下ろした手刀で爪をへし折った。
折られた爪が音を立てて床に転がる。
その状況をチャンスととらえた石斗はスパイダーフォルスにこれでもかと言わんばかりに猛攻を仕掛けた。
力の入った拳をスパイダーフォルスの体に次々と叩きこんでいき勢いよく蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたスパイダーフォルスはごろごろと床を転がる。立ち上がろうとするがダメージが蓄積しているためか動きが鈍かった。
そのスパイダーフォルスの状況を見た石斗は必殺技の態勢に入った。鎧についているすべての宝石が光輝く。
「くらえ! ジュエリウム・レイ!!」
腕をL字型に組んで光線技を放った。光線はスパイダーフォルスを捉え貫いた。
その強力な一撃はスパイダーフォルスの体を爆散させ跡形もなく消滅させてしまった。
「はぁっ……はぁっ……」
目の前の脅威が去った。安心した石斗は変身を解除し床に仰向けに倒れた。
「石斗!」
ブリュンヒルデがセキトのもとに駆け寄ってきた。
「石斗、大丈夫ですか!? 体に何かおかしなところはありませんか!?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「貫かれたところを見せてください。」
「あっ……ああ。」
貫かれた胸を見る。しかし貫かれた箇所の服には特大の穴が開いていたが傷は治っていた。
「傷が治ってる……これはどういうことでしょうか? それに虚像と戦ったあの姿はいったい?」
「俺にもよくわからないんだ。ブリュンヒルデが虚像に殺されそうになって……守りたい力が欲しいって思ったらお守りが俺の体の中に入ってあの姿になっていたんだ。」
「そのお守りについては何かご存じではないのですか?」
「……いや、わからないな。」
「そうですか。」
これ以上ここでわからないことを話しても無駄だと判断した俺たちは多己荘に帰ることにした。
多己荘に着いた俺たちは布団に倒れこみ泥のように眠った。