2話 戦女神
「異なる銀河の……戦女神?」
「はい、そうです。」
つまりブリュンヒルデはこの星の人間じゃないってことになるよな。というか人間ですらないな。戦女神だし。
でも戦女神って言われてもなぁ。
「……石斗、私の言ったことを信じていませんね?」
「そりゃなぁ……」
いきなり異なる銀河の戦女神だなんて言われたところですぐに信じられるような話じゃない。
正直子供でももう少しましな冗談を言うと思う。それぐらいブリュンヒルデの話は突拍子もないと思った。
「わかりました。それでは証拠をお見せしましょう。」
「証拠?」
ブリュンヒルデは俺の目の前で突然まばゆい光に包まれた。俺はあまりにも眩しくてとっさに両腕で目をふさいだ。
しばらくすると光が収まり、俺はふさいでいた目を開けた。
目の前には神話にでも出てきそうな甲冑に身を包んだブリュンヒルデがいた。その姿はとても神々しいと思った。女神が降臨するというのはこういうことなのか。
「どうですか? これで信じていただけると思います。」
「……」
非現実的な光景に思わず開いた口が塞がらなかった。そして、目の前の光景を見てしまった以上信じるしかなかった。
ブリュンヒルデの話を信じることを伝えると彼女は甲冑の姿を解除した。信じてもらえた以上甲冑を着たままでいなくてもいいと判断したみたいだ。
「それでブリュンヒルデはなんでこっちの世界にやってきたんだ? というかどうやってやってきたんだ?」
「私はある存在を追っているときにこの星にたどり着きました。いえ、たどり着いたというよりは誘いこまれたといったほうが正しいでしょう。」
「ある存在っていうのは?」
「虚像と私たちは呼んでいます。虚像は私が生まれた世界を奪い自分達の物に使用とする存在です。」
「世界征服じゃなくて世界そのものをを奪う?そんなたいそれたこと、どうやってやるんだ?」
「その世界に存在する生命をすべて滅ぼすことです。」
「なっ、なんだって!?」
世界に存在する生命をすべて滅ぼす!? なんて恐ろしい存在なんだ。
「最近、私の同僚が行方不明になる事件が多発していました。その調査に当たっているときに私は虚像と遭遇しました。特に強くもない個体ばかりでしたのでその戦いは難なく終わると思っていました。残りの虚像達が突如現れたオーロラに逃げ込むまでは。」
「オーロラに逃げこむ?」
どういうことだ? 今の話だとまるでオーロラの中にに入ったみたいじゃないか。いや、戦女神がいるような世界だし、そういうこともあるのか?
「オーロラの中に逃げ込んだ虚像を追って私はこの世界にたどり着きました。」
オーロラを通ってこの世界にやってきた。もしかして赤気町のオーロラとなにか関係があるんだろうか?
「ですがそこで私を待ち構えていたのはただの虚像だけではありませんでした。ただの虚像よりも強いウルフフォルスがいたのです。」
「ウルフフォルスってどんな奴なんだ?」
「狼の力を宿した虚像です。見た目は人間と狼を足して2で割ったような姿をしています。」
なるほど、つまり狼人間みたいなやつなのか。
「ウルフフォルスは大量の部下を引き連れて私に襲い掛かってきました。ですが数は多くても質が伴っていないので特に苦も無く殲滅することができました。」
さも当然のように語るけどそれってとてもすごいことなんじゃないんだろうか?
「しかしそこで私は恐ろしいことに気が付いてしまいました。神力が回復していなかったのです。」
「神力ってのは?」
「私たち戦女神の力の源です。神力がなければ戦女神は人間と大差ない存在になってしまいます。」
つまり戦闘において大幅に戦力ダウンになってしまうわけか。それは一大事だな。
「向こうの世界では神力はどうやって回復していたんだ?」
「元の世界では神力が尽きることはありませんでした。私たち戦女神はユグドラシル銀河が生み出した存在なので世界そのものと密接なつながりがあります。世界そのものからバックアップを受けているので神力が常に供給されている状態なのです。」
なるほど。つまりゲームで言うところのエネルギー無限状態というところか。
「そうなると虚像はその神力無限状態をなくすためにこっちの世界にブリュンヒルデを誘い込んだんだな。」
「そうです。そして、神力が少なくなった私を見てウルフフォルスが怒涛の猛襲を仕掛けてきました。弱った私を見て好機と判断したのでしょう。実際、私は動揺してしまい防戦一方になりました。神力の残りも心もとない状況でしたから。」
話を聞く限り確かにピンチな状況だよな。
「どうやってその状況を凌いだんだ?」
「ウルフフォルスが油断した隙をついて重傷を与えました。しかし倒すまでには至らず逃してしまいましたが……。私も少なからず傷を負ってしまい地上に墜落しました。結果的には相打ちといったところです。」
「それでたおれ荘の前で倒れていたのか。」
これでブリュンヒルデがなんで俺のアパートの前で倒れていたのかやっとわかった。
「セキト、私は今すぐにでもここを離れようと思います。」
「なんでだよ? まだ回復してないんだろ? だったらここに居ればいいじゃないか。」
「私を狙ってフォルスがここを襲ってくるかもしれません。そうなればあなたも巻き込まれることになります。」
「見捨てられねえよ! せめて神力が回復するまではここでおとなしくするべきだ! ここを出るのはそれからでも遅くはないだろ!」
「……わかりました。ですが回復し次第ここを離れます。いいですね?」
「ああ、それでいい。」
俺が引き下がらないと察したのかブリュンヒルデは条件付きで従った。ブリュンヒルデは回復を優先させて寝てしまったので俺は食器を片付けることにした。
片付けが終わって特にやることもなくなったので俺は眠っているブリュンヒルデのほうを見た。精巧な人形のように整った顔立ちはそれだけで老若男女問わず人の目を引き付けそうだ。
かくいう俺も彼女に見入っている一人だ。いつまでも見ていて飽きないような芸術的な顔立ちだ。戦女神ってのはみんな整った顔立ちをしているのだろうか?
そんなことを考えているといつの間にか就寝時間になり寝ることにした。
その日の夜、ブリュンヒルデは一人アパートの外に出て行った。