10話 ブリュンヒルデの午前中
私ことブリュンヒルデは石斗が学校に行ったことにより1人で過ごすことになりました。
といっても石斗は午前中だけ学校に行く日と言っていたので昼頃には帰ってきます。
それでも午前中だけとはいえこちらの世界に来てから石斗と離れるのは初めてのことです。
石斗は私を1人にすることに対してとても心配していました。
私を1人にすることでフォルスがここぞとばかりに襲撃を仕掛けてくるのではないかと考えていたからです。
現にバットフォルスとの戦い以来フォルスは襲ってきていません。
私のそばには常に石斗がいたから恐らく様子見をしているのでしょう。
石斗には悪いと思いますがここはフォルスの出方をうかがいたいと思います。
私が1人になったことで間違いなくフォルスは喜んで襲ってくるはず。
こちらとしてもいつまでも受け身に回っているわけにはいきません。
ユグドラシル銀河に生まれ落ちた者たちを守るためにもフォルスは倒さねば。
「とはいえいつフォルスが襲ってくるかもわかりませんし今は部屋の掃除でもしておきましょう。」
ブリュンヒルデは台所に行き朝食時に使った食器を洗っていく。
慣れた手つきで。
これは石斗が春休み中に知ったことなのだがどうもブリュンヒルデは戦い以外の時は積極的に家事をしていたらしい。
料理から洗濯、掃除まで家事は一通りこなすことができる。
向こうの世界では魔法を使って家事をしていたようだ。
だがこちらの世界ではフォルスとの戦闘時以外で魔法をガンガン使って神力を消費するわけにもいかないので自ずと電化製品に手を出した。
最初こそ使い方がわからず戸惑っていたもののあっという間に使い方を覚えてしまい昔から使っていたかのように使用している。
石斗がブリュンヒルデのために買ったスマホもすんなりと使い方を覚えてしまった。
その時の光景を見た石斗は「女神ってすげえ……」と思ったそうな。
石斗はてっきりヴァルキリーは日夜戦ってばかりだと思っていたのだがそんなことはなく戦いのない日は思い思いに過ごしているようだ。
「さて、部屋の掃除も終わりましたし外に出るとしましょう。」
部屋にいても特にやることがなかったので外に出たブリュンヒルデ。
このまま外でフォルスを探すことにした。
屋内よりも外にいたほうがフォルスもこちらを襲撃しやすいはずと考えたブリュンヒルデ。
周りに注意を払いながら道を歩いていると早速出てきた。
すごいスピードでこっちに突っ込んでくるフォルスが1体。
そいつの名はパンサーフォルス。
豹の力を持ったフォルスだ。
パンサーフォルスはブリュンヒルデの顔面めがけて跳び蹴りを加えようとした。
「くっ……!」
ブリュンヒルデは即座に横に回避する。
甲冑を展開し右手に自らが愛用する剣を握りしめる。
パンサーフォルスは避けられたことに対して特に悔しがることもなく次の行動に移った。
結界を展開しブリュンヒルデが逃げられないようにしたのだ。
そしてヒューマンフォルス達を呼び出し万全の状態を整えた。
(ここは石斗には連絡を。)
スマホに石斗の電話番号を入力し電話をかける。
しかし圏外になっていた。
「どうやらこの結界の中では電話は意味をなさないみたいですね。」
この状況下では石斗が助けに来てくれることに期待はできない。
自分の力だけで乗り越えなくてはいけない。
「いつまでも石斗に頼りっぱなしではいけません。私の力だけで倒して見せます!」
ブリュンヒルデを殺そうとパンサーフォルスの指示のもと群がるヒューマンフォルス達。
そのヒューマンフォルスをバッサバッサと切り捨てていくブリュンヒルデ。
ヒューマンフォルスが倒されていく中隙を見ては自慢の脚力でブリュンヒルデに攻撃を加えようとするパンサーフォルス。
何とか躱すブリュンヒルデだが次第に追い詰められていく。
そのパンサーフォルス自慢の蹴り技がブリュンヒルデの横腹に直撃し吹き飛ぶブリュンヒルデ。
「きゃあああああ!!」
思いのほかダメージが大きく立ちあがるのに時間がかかる。
その隙を好機ととらえたパンサーフォルスはヒューマンフォルス達と共に一斉に襲い掛かった。
「くっ、フライスラッシュ!」
ブリュンヒルデは飛ぶ斬撃を複数放ち残りすべてのヒューマンフォルスを倒した。
しかしパンサーフォルスには当たらず飛び蹴りを仕掛けてきた。
ブリュンヒルデは剣で防ぐが威力が高く後ろに後ずさってしまう。
蹴りの威力を殺されたパンサーフォルスは後方へ跳躍し距離をとる。
互いに構え次の手を考える。
攻撃に入ろうとした次の瞬間……!
ピシピシ……パリン!!
ブリュンヒルデを閉じ込めていた結界が破壊された。
「結界が壊れた! まさか!」
「ブリュンヒルデ、大丈夫か!!」
「石斗! 来てくれたんですね!」
「当然だ。お前がピンチになっているならどこへだって駆けつけるさ。しかしなんで電話してくれなかったんだ?」
「それが、結界の中だと圏外になるみたいです。」
「結界に電波妨害高価でもあるのか? でもそう言うことなら仕方がないな。」
1人と1柱はパンサーフォルスに向き直る。
が、パンサーフォルスは不利と悟ったのか脱皮のごとく逃げ出した。
「速い! だが逃がすか!」
「はい、追いかけま……くっ……」
「どうしたブリュンヒルデ!」
「何でもありませ……痛っ!」
「見せてみろ……これは!」
ブリュンヒルデの横腹が腫れあがっていた。
「さっきのやつにやられたのか?」
「この程度なんてことはありません。それよりもパンサーフォルスを追いかけないと!」
「その怪我を直すほうが先だ! それにあいつの姿はもう見えねえし深追いするのはやめたほうがいい!」
「……わかりました。」
ブリュンヒルデは悔しそうな表情をした。
「ブリュンヒルデは回復魔法は使えるのか?」
「ええ使えます。みっともないところをお見せしましたがすぐに直しますので。」
ブリュンヒルデの怪我した場所に淡い光が集まり傷をいやしていく。
(回復魔法って便利だよな。俺にも使えるんだろうか?)
石斗がそんなことを考えている間ブリュンヒルデは逃したパンサーフォルスに対して次の手を考えていた。