ありきたりな始まり
不定期更新の作品です。
手応えにより更新ペースが左右します。
他の作品も、良ければどうぞお願いします。
第1話
「ここは何処だ……」
先ず出て来た言葉はそれだった。
それもそのはずだ。
気が付けば真っ白な空間に浮かんでいるのだから。
「これが白昼夢って奴か。でもそれにしても何か違和感があるな」
神野 冬侍は辺りを見回すが、何処までも真っ白な空間が広がって居た。
混乱している冬侍に声が掛かる。
『混乱しているようじゃな』
後ろから声を掛けられて振り返ると、其処にはギリシャ神話に出て来る様な、出で立ちをした老人が杖を持って立って居た。
「すいません。どちら様でしょうか?」
『フォフォフォ。そうじゃな。お主にわかりやすく言うと【神】と言った所じゃな』
「初めまして。自分は神野冬侍と言います。差し支え無ければこの状況を教えて下さいませんか?」
『おや?儂が神だと疑わないのかな?』
「ええ、私の勘が貴方様が嘘をついている様には思えない。と訴えかけて居ますので」
『ほう。なるほどなるほど。面白い力を持っているな』
「面白い力、ですか?」
『気にせんで良い。この状況はじゃな。お主は事故で亡くなったんじゃよ。普通ならこのまま輪廻の輪に戻る所じゃが、お主にある提案をしに来たんじゃよ。勿論断ったからと言って何の罰もないよ。その時は通常通り輪廻の輪に戻すだけじゃからな』
興味深そうな目を向けて来る、神と名乗る老人に冬侍は躊躇する事なく。
「わかりました。早速その話を聞かせて下さいませんか?」
『フォフォフォ。もう少し悩むかと思ったがのぅ。では、簡単に説明するぞい。お主に此処とは別の世界へと転生してもらいたい。その世界は此処とは違い固有職とスキルと呼ばれる特殊な力がある。大抵の人々は固有職は何の能力もない村人じゃ。普通ならそれでも十分に生きていけるんじゃが、今から転生する世界には魔物と呼ばれる存在が居り人々の生活圏は日々魔物に脅かされているんじゃよ。そしてお主には好きな固有職を選択して転生してもらいたいのじゃ』
「わかりました。因みに私以外にも他に転生者は居るのでしょうか?」
『うむ。何人か居るぞ。そうそう言い忘れて居たが、選べる固有職を制限する代わりに生まれ変わる先の身分を制限に応じて、言い身分で生まれ変わる事が出来るぞ。制限しなかったらランダムじゃがどうする?』
「ランダムで良いです」
『わかった。では固有職を選ぶが良い』
神様に出されたリストは膨大だった。
『ほう。多いのう』
少しだけ驚いた声を上げる神様
「そうなんですか?」
『うむ。前世の経験に基づいて固有職の選択肢が変わるからのう』
「決めました。『転職者』にします」
『ほう。面白いのを引き当てたもんじゃ。ならば送るぞ』
「はい。お願いします」
『では、達者でな』
足元が光り輝く。
『そうそう。前世の記憶はそのままじゃからな』
と、転生直前に神様はそう言った。
そして神野冬侍は転生した。
■
う?此処は………
目を開くと知らない天井だ。
ああそうか、転生したんだったな。
それにしても、お腹が空いたと思ったら、自分の意思に反して泣き出してしまった。
泣き声が響き渡ると、ドタバタと廊下から足音な聞こえて来た。
扉を開けて現れたのは銀髪翠眼の美女であった。
そして直感的に冬侍は、この人が今世の母親だと認識した。
美女は微笑みながら、胸元をはだけさして乳房の先端を口元に持って来る。
其処に羞恥心やそう言った邪な感情は無く、自然とそれを口に含み吸った。
お腹が一杯になると眠たくなり寝た。
■
数日後……
ぼーっと、外の景色を眺めていると、扉が開き赤毛赤眼の勝気そうな美少女が室内に入って来た。
「へぇ、可愛いわね。あんたが私の新しい弟になるのね」
赤毛の少女はそう言いながら頬を突く。
すると扉から、新たな闖入者が現れた。
「イザベラ姉さん。まだ、マットに近付いたら駄目って父様と母様に言われてるよ」
現れた少年は銀髪翠眼のイケメンだ。
「何よダミアン。貴方もマットに会いたかったでしょう?」
「そうだけど。父様達に見つかったら叱られるよ?」
「五月蝿いわね。それより来なさいよ。可愛い顔をしてるわよ」
そう言いながら頬をつついて来る。
そうか名前はマットって言うんだな。
話の内容からして二人は、新しい姉さんと兄さんか。
イザベラに促されて、ダミアンもベビーベッドに近付いて顔を覗き込んで来る。
「本当だ。可愛いね」
と爽やかスマイルをして来る。
イザベラはまだしつこく頬をつついて来るので、そろそろやめて欲しいと思うとまた泣き出してしまった。
その声にイザベラとダミアンは、目に見えて狼狽えあたふたとし始めた。
泣き声に扉が開き赤毛赤眼のイザベラと、同じ特徴を持った偉丈夫が入って来た。
こちらもダミアン似のイケメンフェイスだ。
多分あの人が父親だな。と直感的に判断する。
「二人とも、まだこの部屋には入っては行けないと言ったな?」
お叱りモードで二人に話しかける。
「あの、そのう……」
イザベラがしどろもどろになる。
そのタイミングで母親がやって来た。
「あら?貴方達何してるの?」
不思議そうに三人を見回す。
「ああ、ユーフィス。二人が勝手にこの部屋に入って、マットを泣かせてしまったからね」
「まあ!そうなの二人とも?」
驚いた顔をしたユーフィスは二人に問いかける。
ダミアンが「はい。イザベラ姉さんが、マットの頬をつついて泣かせてしまいましたが、止められなかった僕の責任でもあります」
「ちょっと!一方的に私だけが悪い見たいじゃない!確かにダミアンが止めるのも無視したし!ちょっとマットのホッペを強く突き過ぎた自覚はあるけど!……あれ?これって私が一番悪くない?」
興奮して話して居たが、次第に自分が悪いのでは?とイザベラは自身の行動を思い返して見た。
そしてその大声に驚くとより一層泣き出してしまった。
「はい、はい。とりあえず貴方達三人は外に出て居て」
「えっ!僕もかいユーフィス?」
「いいから」
とユーフィスに少し凄まれて父親も大人しく部屋から出て行く。
次第に泣き疲れて眠ってしまう。
あの後二人が怒られたか、どうかは記憶にない。