プロローグ
「ごちそうさま。」
あらかたごちそうになった悪魔は、指をぺろりと舐めながら呟いた。
暗い館に響く声は、怪しくも美しい。
人間と何ら変わらぬ美貌を惜しみなく披露しながら今日もまた闇夜を羽ばたく。
主に男性が敵視する事が少ない唯一の悪魔であるサキュバスは、気だるげに羽ばたきながら次の獲物を探している。
「最近はレベルの低い冒険者ばかりなのねぇ。コロッと堕ちちゃうし、魔力も全然ない。勇者クラスでも現れてくれないとねぇ。」
一人世迷言に耽ったサキュバスは、背後にいる謎の物体を感知すると、急激に速度を上げた。
「チッ!悪魔がッ!?」
後方の男は、サキュバスと同等のスピードまで速度を上げ、目の前の獲物を射抜こうと背中の弓矢を取り出すと、
「喰らえっ!」
狙い定めて放たれた矢は、サキュバスを射抜くと朱色の血飛沫が吹き荒れる。
「やったぞっ!」
その光景に思わず感嘆の声が漏れ、気づいた頃には時既に遅く、周囲にゴブラカラスの群れがいた事に気づく。
その男は断末魔の叫びをあげながら、あっけなくその生に幕を閉じた。
そしてその後方には、先程射抜かれた筈のサキュバスが全くの無傷で嘲笑うように飛んでいた。
「はぁ、どいつもこいつも死に急ぎばっかねぇ。まさか《夢堕とし》に引っかかるなんて。ここら一帯にはゴブラカラスが群れ作って飛行する事があるから普通警戒するのが当たり前なのに……。」
サキュバスは先程自分の命を刈り取ろうとした男性の遺体に寄ると、あろう事か自分の命を狙った相手を土に返した。
「死ねば善悪なんて関係無いしね……」
埋め終えたサキュバスは、鞄の中から何かを取り出すと、
「ま、埋め立て手数料って事で。ごめんね」
舌をべっと出しながら金目の物を懐にしまい、埋めた跡地に遺品を置いて飛び去った。
「次の目的地は……と。」
指をパチンと鳴らすと、ステータスウィドウが出現した。
それを操作して地図画面に切り替えると、目的地が浮かび上がる。
「今日も夜間飛行か……まあ朝になると眠たくなるからちょうど良いかな。」
サキュバスはパチンと指を再び鳴らしてステータスウィドウを閉じると、ゆっくりと夜間飛行を楽しんだ……。