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08 オークの生態

 起こったことをありのままに言う。

 オークの玉砕いたら女の子に変身した。

 何を言っているかわからないし、僕自身が一番よくわからない。

 でも事実である。

 僕の手によって男の証である二つの玉を砕かれたオーク――、ライレイは、かつての醜く肥え太った野獣の姿など見る影もなく、眉目秀麗の美女となって傅いていた。


「ゴロウジロー様」

「はい……!?」


 ライレイは、でっぷり肥えていたはずの腹部はキュッと細く引き締まり、その代わりと言わんばかりに柔らかい肉が上下へ偏入、乳も尻もバインバイン。全身これ性欲とでも言わんばかりの魅惑ぶり。

 顔だって、オークだった頃とは似ても似つかぬ美貌だ。オークのシンボルともいえる潰れた鼻は、スラッと鼻筋の通った小さなものになり、眉は細く、頬は艶あって、唇は潤っている。非の打ちどころのない美人顔。

 黒く艶めく髪の毛は腰まで延び、唯一、色黒の濃い肌だけがかつてオークであった名残りだった。

 あとは尻から伸びたイノシシっぽい尻尾。


「我々にお慈悲を賜り、誠にありがとうございます。これより我らゴロウジロー様のメスとして、誠心誠意、身も心も捧げ服従していく所存にございます」

「「「「「「「よろしくお願いいたしますゴロウジロー様!!」」」」」」」


 ライレイだけではない。

 もろとも玉を砕いたザコオークたちまでしっかり女体化し、ライレイともども三つ指ついてこうべを垂れている。

 ついでながら述べておくと、いずれもなかなかの器量よしだ。


「あの……、ライレイ、さん?」

「何でございましょう?」


 これ何なの?


「何でキミら女の子になっちゃってるの!?」

「何でと申されましても……。ゴロウジロー様に、その……、敗北したからで……!」

「負けただけじゃ変わらないよね!? やっぱアレ!? 玉か! 玉潰されたからか!?」

「そんなにタマタマ言わないでください! 恥ずかしい!」


 何故恥ずかしそうにする!?

 元々男だろうが! 男の時は普通に連呼してそうだっただろうが!


「いや待って、キミら玉を潰されたから男から女になったっていうの? そんなことありえるの!?」

「普通はそうだと思いますが?」

「普通じゃないよ! そんなこと初めて聞いたよ!」


 混乱する僕を前に、ライレイは長いまつ毛を伏せながら思案の素振りを見せる。


「……あの、オスがその一生の途中でメスに変わることは、オークの中では普通のことなのです。オスの証である、……その、アレを壊されることでオークはメスとなります。ゴロウジロー様もそれを知っていたからこそ、私たちのアレを砕いたのではないのですか?」

「いえ、全然知らなかったです」


 ライレイは「えー?」としょっぱい顔。


「でも、何でオークにはそんな機能がついてるの? 男が途中で女に変わるなら、元々女に生まれた子はどうなるんだよ?」

「ですので、オークには生まれついてのメスはいません」

「え?」

「すべて最初はオスとして生まれるのです。そして生きていくうちに選別淘汰が行われ、力の弱い者は敗れてメスになります。最後には一握りの強者のみがオスとして生き残り、その他圧倒的多くのメスとの間に強者の血統を残すのです」


 そうすることで強者の遺伝子を効率的に後世へ伝えていくと?

 全然知らんかった。前もって教えてくれよオヤジよ。

 でもそれだったらウチの妹たちが全員女に生まれたのは何故?

 やはり母さんのバルキリーの血が半分混じることで生態が変わったのか。

 ではハーフオークである僕も玉が潰されたら女体化してしまうのか。

 なさそうだなあ。

 姉妹たちが生まれた瞬間からオークの生態に外れていることを考えると、同じくバルキリーの血が半分混じった僕も、男として生まれたからには最後まで男のままになりそうだ。


「……そうか、僕としては玉を潰したのは苦肉の策のつもりだったんだが、オークとしては普通のことだったんだなあ」

「はい、オークは定期的に決闘を行い、敗れた者をメスに変えます。敗者は以後、戦士ではなく戦士を産み育てる役目を担い、勝者に身を捧げ、手籠めにされて、強者の精を授かるのです」

「するってーと、もしや……。一番最初にオークに追われてた女の子も……」


 決闘に敗れた元オークらしかった。

 なんだかドッと脱力した。


「そそそ、それでですねゴロウジロー様……!」

「……ん?」

「わ、私はオークの古よりの流儀に乗っ取って、アナタと戦い敗北しました。敗北の動かぬ証として、この体はメスとなりました。ですので、この先の流儀にも乗っ取っていきたいと……!」

「この先?」

「それは、その……!」


 ライレイが恥ずかしそうにゴニョゴニョしていると、後ろでもどかしそうに控えていた元オークの女の子たちが、もどかしさの限界とばかりに押し寄せる。


「もー! ライレイ様、純粋すぎますよ!」「ウブなネンネじゃあるまいしカマトトぶらないでください!!」「敗北してメス化したら! あとはレイプが基本でしょ!」「敗北、即、凌辱! 何よりも自然な流れ!」「というわけでゴロウジロー様!!」

「「「「「「「私たちをレイプしてください!!」」」」」」」

「するかあ!」


 そして言葉の使い方を甚だしく間違えてる気がする。

 女性側の合意を得ることなく性交渉に及ぶからレイプじゃないのか!?


「あ、ああ、あのですねゴロウジロー様……!」


 ライレイが、顔を真っ赤に火照らせながら言う。


「先ほどの説明の通り、オークがメス化するのは、自分より強い同種の子供を産むためです。私は、アナタに敗北してメスになりました。つまり私のメスオークとしての役目は、アナタの精を頂き、新たな命として世に生み出すこと……!」


 ライレイがまた、バタッと平伏した。


「不束者ですがよろしくお願いいたします!!」


 そう言われて、何とも言えない気持ちになる僕だった。

 つまりこれアレでしょう?

 ライレイを始め、僕が倒してメス化させた全員と性交渉して妊娠させろってことでしょう?

 そりゃあ、あのラブラブ夫婦の長男として生まれたからには、すべきことはわかってるけどさ。


「でも、ゴメン。やっぱ無理」

「えっ!?」


 ライレイの顔が、ショックで蒼白になる。


「あの、それは何故……? 私は、ゴロウジロー様のお子を産むには力が足りませんか?」

「そういうことじゃなく……。いくらキミが今は女だって言っても……」


 うん。


「元々男だし……」


 男でしょう?

 どんなに今が可愛くても。セックスアピールの塊でも。従順で貞淑で、良妻賢母が約束されたような性格でも。

 根源は男。核心も男?

 そんな人とことに及ぶのは、どうにも……。


「……うぇ」


 ポロポロと、ライレイの両目から珠の滴が零れ落ちた。

 泣いた!?


「あー、何やってるんですかゴロウジロー様!」


 異変に気付いて他の女の子たちも騒ぎ立てる。


「ライレイ様はまだメス化して間もないんですよ! 心の整理の付け方も慣れてないんですからね!!」

「オス時は剛直だったオークほどメス化すると繊細になるってデータがあるんです! ライレイ様の純真を大切にして!」

「大丈夫ですからねライレイ様! ゴロウジロー様がほんの少し唐変木なだけですから! ライレイ様悪くないですから!!」


 さっきの直接戦闘以上に集中攻撃を受ける僕。

 一体どうしろと……!?

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