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後日譚 2/3

 ヴァルキリー、ライン=メイデは、かつて戦った天界軍『勇気』の軍勢唯一の生き残り。

 最初は捕虜として拘束したものの、いまではただの居候としてオークの新都で気楽に暮らしていた。

 基本オーク王妃であるライレイの付き人として働いているものの、ポジション的には『七凄悪』の面々より下で、その分テキトーに生きている模様。


 彼女も既に僕との関係を結び、ヴァルキリーのサイクルで妊娠六ヶ月になっているので立派なお腹となっていた。

 元々強者を誑しこんで天界に連れて行くのがヴァルキリーの役目なのでテキパキしていると言えないこともない。


「あ、ゴロウジロー」


 お腹も出てきて、ライレイからお休みを言い渡されることも多くなったメイデ。

 そんなメイデが、いそいそと通うところがあった。

 今日は僕も、そこを訪問していた。

 メイデとはそこで鉢合わせする形になったのだ。


「メイデ、最近はキミもよくここに来るな。外出して大丈夫なのか、そんなお腹で?」

「大丈夫だよ。妊娠中はできるだけ運動しろってライレイお姉様からも言われてるし。オークの皆、デキたのは皆一緒のタイミングなのに自分らは早々と射出しちゃったもんだから、先輩風がビュービューなのよね」


 と口を尖らせるメイデ。

 もうすぐ母親だというのに、子どもっぽさが抜けきらぬものだ。


「ま、元気な子を生んでくれよ。キミもキミの中にいる子も、僕の大事な宝なんだから」


 メイデのお腹に耳を当てると……、超暴れていた。

 これはまた、男なら生粋の戦士、女の子ならお転婆になりそうだな。


「それよりも、ゴロウジローも、今日はあの子のところに来たの?」

「ああ、メイデばかりに任せるわけにもいかないからな」


 僕たちが同じ目的地として到達し、鉢合わせした場所。

 そこはオーク新都の一角に整えられた公園。


 今日も僕の子供を出産し終わった子供連れでのどかに賑わう公園に、一人、静謐とたたずむ少女がいた。

 神のごとく清らかに輝く少女。

 

 その名をアルティエル。


 元天界軍、『希望』を司る『七神徳』の一人だった。


「戦いからもう半年経つって言うのに、まだあんな感じなの」

「何もすることなく日がな一日公園のベンチで、空を見詰めるだけか……」


 夜になったら帰ってご飯食べて寝る、そして朝になったら公園へ。その繰り返し。


 天界での大神ヴォータン戦で、結果的に生き残った彼女をそのままにもしておけず、天界から連れ帰った。

 その後、『竜帝玉』を持つライレイによって『希望』の『神玉』を抜き取られ、完全な一女天使になった。

 それからの扱いは明確なものはなく「とりあえずメイデと同じ感じ」という至極曖昧な立ち位置で、今日まで来てしまったという感じ。


「…………」


 アルティエルは今日もお空を見上げていた。

 流れゆく雲の数や形に、彼女は何を感じ取っているのだろうか?


「……まあ、天界から移ってきたって点では同じだし、私もできるだけ面倒見たいと思っているけど。もうすぐこの子も生まれちゃうしなあ……」


 たしかに、出産したらメイデはそのこの世話にかかりきりになってしまうだろうし。その前にアルティエルにはここにおける自分の居場所を確保して、元気になってほしいものだった。

 というわけで、今日は思い切って声をかけてみます!


「アルティエル……、アルティエルや……!」


 恐る恐る、おっかなびっくり、腫物に触る心地でGOする僕。


「あ……、ゴロウジロー様……」


 案外アルティエルは普通だった。


「私はどうしてここにいるのでしょう?」


 そうでもなかった。


「私は、ゴロウジロー様と交わり、最強の兵士を生み出すために作りだされたのです。ゴロウジロー様の『憤怒』『正義』、そして私の『希望』が組み合わされば最強無敵にて不老不死の戦士を何万と量産できました」


 らしいね。


「しかしヴォータン様は滅び、私は『希望』の『神玉』を抜き取られてただの女天使になりました」


 まあ、だって『希望』の能力は死なない、老いもしないってだけだから、どっちかというと呪いだろう。

 そんなもの取り除けるなら取り除くしかない。


「使命もなく、力も奪われた私は……。これからどうやって生きれば……!」

「やるべきことならあるじゃない!」


 半ば強引に話に割り込んできたのは、今やおっぱい以上に大きなお腹を誇るメイデだった。


「ゴロウジローの子どもを生むことよ! アナタだってヴァルキリーなら、強い戦士に恋することが務めじゃないの!?」

「いえ……、私は女性機能を持った大天使で……」


 実際のところどう違うのだろうか?


「たとえ『神玉』がなくったって、アナタはゴロウジローと恋できるでしょう! アナタもゴロウジローに抱いてもらって、オークたちに負けない元気な子を生めばいいのよ!!」

「そうか……、そうですね」


 アルティエルの瞳に俄かに力が戻ってきた。


「そのとおりです。私の任務はまだ継続可能です。ヴォータン様の命令ではなく、私自身の意思で最強の兵士を生み出して見せます!」


 キリッと、アルティエルの視線が僕の方を向いた。


「ゴロウジロー様! 願わくば私にアナタの精をください! 今ここで!」

「今!? ここで!?」

「あ、だったら私も混ざっていい? やっぱりアルちゃん初めてだから誰かついててあげないと心細いかもだし……」

「メイデまで……!?」


 オークの新都に紛れ住む天使たち。

 やがて彼女たちからの血統が、オークの種に面白い多様性をもたらすのはかなり先のお話になる。

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