86 オークの夜明け
それから半年ほどが経った。
その日僕は、長い間望んでいたことをついに実現させることができた。
故郷にいる両親と妹たちをオークの都へ呼び寄せることだ。
「さあ、着いたぞ!!」
僕みずから運転する飛空艇がポートに着陸。
僕の案内に促されて降りるオヤジや母さんたちは、目の前に広がる巨大都市に驚愕した。
「フゴォ!?」
「これはまた……!?」
ここは、僕がオーク王として新設したオークの新都・ニューオークラ。
水晶に光り輝く塔が何十も並び建ち、上空には、僕が家族を迎えに行くために使用した飛空艇と同じものがいくつも行き交っている。
「凄いだろう? これ、僕と僕の女たちで力を合わせて築いたんだ」
家族に自慢げに話す僕。
半年前の、天界における大神ヴォータンとの戦いに勝利した僕。
やるべきことはすべて済ませて、向こうのゲートを通って地上へ戻ろうとしたところ、ゲート発生装置がヴォータンによる天使抹殺の巻き添えで破壊されていたことに気づく。
どうしよう! このままじゃ帰れない!
と慌てて周囲を探ってみたところ、ヴォータンのいた王城の地下深くから奇妙な装置を発見。
それこそヴォータンを惑わせたという予言装置『ミーミル』だった。
僕は『ミーミル』から情報を引き出して、何とか一人二人通れるだけの簡易的なゲート発生装置の組み上げに成功。
一時はどうなることかと思ったが、無事僕の愛する女たちの下への帰還を果たし、ついでに『ミーミル』もこちらへ持ってきた。
以後、僕たちは『ミーミル』から情報を引き出しまくって、未来的な街づくりを目指してきた。
さすが予言装置は未来のことを知っていれば過去のことも何だって知っている。
旧オークの都から遷都して、何もないところで一から始める。
それは当然、僕と愛し合い、肉体関係を結んだ二十八万人の女たちとの共同作業だった。
まず『傲慢』リズは、都市開発計画の服飾部門の女長官に。
今まで裸同然で暮らしてきたオークたちに、服を着て着飾ることと、セックスの時の脱がせる楽しみを教える。
今も彼女の頭の中では新しいアイデアを湯水のように湧き出し、オークの文化方面を支えている。
『強欲』ヨーテは都市開発局長。
このオーク新首都を築き上げたメインの功労者は彼女で、飽くなき巨大な欲望が、形を成していったのがこの街と言えた。
『暴食』ミキは、食糧生産の女責任者。
爆発的に増産し続けるオークの人口を支えるため、農業酪農あらゆる食品生産は彼女の指示で行われていた。
その生産した何割かは彼女自身が消費しているという噂を聞くが……、噂だよな単なる?
『色欲』レリスは、かつて敵としてもっとも僕を悩ませた手腕を買って、女宰相的なものに就任してもらった。
僕の片腕として政治的な対処を一挙に受け持ってもらっている。実力的にまったく問題のない配置だが、唯一問題があるとしたら他の子より短いスパンでエッチしてあげないと暇つぶしで政治クーデターを画策することぐらいか。
『嫉妬』アナコは、なんか下野して民権運動とか始めやがった。
まあ無益だけど、住民のガス抜きとして考えればいいかな、と思っている。時折りセックスして幸せな気もちにしてあげれば、必要以上に暴れたりもしないし。
『怠惰』スズモンは、立法府の長に就任してもらった。
重要なことを審議するそのセクションでは、彼女の優柔不断さがむしろプラスに働くこともあった。
決めゼリフは『現状維持』だ。
そして……。
何よりも僕の助けとなったのは。
「お帰りなさいませアナタ。そしてご家族の皆様、よくぞオークの都へお越しいただきました」
空港に、僕たちの迎えがやって来ていた。
折り目正しい礼服に身を包んだ、艶福の美しさに溢れる女性。
王妃なんだから式典の衣装はドレスにすれば? とよく言うのだが、元々軍人然とした彼女は、ヒラヒラした衣服はどうも苦手らしい。
そんなわけで今でも彼女のもっとも女性的ないでたちは、全裸なのだった。無論それを拝めるのは風呂かベッドでだけだが。
そんなわけで僕の最大のパートナー。オーク王妃ライレイと僕の家族との対面がついに成った。
「フゴォォ……! 息子よ、よくまあこんなめんこい娘を嫁にできたものフゴ!」
ライレイの輝かしい美貌に、オヤジのヤツ早速反応しやがった。
まあ、この都に住んでいる二十八万人の女全員が僕の嫁なのですが。
「イチロクロー様。アナタ様の武勇はかねてより伝え聞いておりました。今日、アナタの義理の娘としてお会いできたことを喜ばしく思います」
恭しく礼するライレイ。
かつて団長代理として『憤怒』の軍団を預かっていた彼女にとって、ウチのオヤジは伝説の人なのだろう。
「ご挨拶は様々にありますが、まずはこの子たちに会ってあげてください。私とゴロウジロー様の、愛の結晶です」
と、後ろに控えていたメイデから、すやすや眠る赤子を受け取り、僕の両親へとお目見えさせる。
「こちらは長女のミライ。それにこっちは次子のクロウシローです。ゴロウジロー様は、初産のあとにすぐまた私に種を植えてくださいましたので……!」
ライレイは顔を真っ赤にしながら言った。
オーク娘の妊娠期間は三ヶ月である
半年なら充分に二人目を出産可能だし、二人ともとても頑健に生まれてくれた。
この子たちは新しい僕の宝物で、コイツらの他にも今や二十八万人の子宝が、オーク都市の人口を文字通り倍増させていた。
ライレイ本人も、少女の可憐さに王妃の煌びやかさに加え、母の深さまで備わって益々美しさが濃厚になっている。
「そうか……、私もついにおばあさんか」
ライレイの手から初孫を受け取り、慣れた手つきで抱き上げる。
「やはり私の予感は正しかった。オークの運命を、天界の運命を、私の息子は根底から変えてしまった。さすがアナタの種だ。なあご主人様?」
オークと戦乙女の夫婦は感慨をもって見つめ合った。
すべてはこの二人の愛と憎しみとセックスから発生したのだ。
「我が子に自分を超えられる、それがこんなにも満足できることだとはフゴ……! しかしフリッカよ! 儂らもまだまだ負けれはおれんフゴ!」
「そうだな、今日からは皆とこちらで暮らし、生活に余裕も出ることだ。その分出産育児に傾倒しようではないか!」
まだ生んで増やすつもりだ、この祖父母夫婦。
こっちも張り合って頑張らないと、我が子より年下の叔父叔母を量産されてしまう!!
「ライレイ! 今夜からさっそく三人目の作成に着手するぞ!!」
「はい、ゴロウジロー様となら何百人でも喜んで生みましょう!」
ライレイの目は本気だった。
そんな大人たちの会話をよそに、妹たちは初めて見る都市の煌びやかさに目を輝かせて、冒険に飛び込んでいった。
神の横暴、竜の暴虐。
災禍の限りに荒れ果てた大地に、オークたちが再生の息吹を吹き込み始めた。
この大地が再び生命で満ち溢れ、文明と生活で賑やかになるのは、そう遠いことではない。
オークと戦乙女の息子です 完
これより各キャラクターの後日談が続きます。
皆さま、もう少しだけお付き合いくださいませ。