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85 神の黄昏

「って都合よくいくかァーーーーーッッ!!」


 繭は破れた。

 噴き上がる熱気に、繭は内側から割れ、卵から孵るかのように僕は脱出を果たした。


『なッ……!?』


 右手に『正魔のメイス』、左手に神聖女アルティエルを抱えて戦場復帰した僕に、大神ヴォータンはさすがに動揺する。


『バカな……!? アルティエルから伝播する不死の眠りを拒絶したというのか!?』

「怒りの炎によって、あらゆる自分への影響を焼き尽くす……! 『憤怒』の力を舐めるなよ!!」


 お前が僕のことを怒らせてくれてよかった。

 正直僕は、直接相対するアルティエルに対して正義の怒りを抱くことはできなかった。

 彼女は、ただ神の意志に翻弄されただけの無垢な女。

 哀れさこそ感じこそすれ、我が能力の燃料となる怒りも正義も湧いてこなかった。


 しかしヴォータンよ。

 愚かにもお前は、僕の逆鱗に触れるワードをいくつも吐き出して僕の怒りに火をつけてくれた。

 僕の大事な女たちを、家族を殺すというのなら。

 お前は当然のように絶対死ななければならない。


『おおおお……、愚かな! せっかくの最強兵士生産のチャンスをフイにするとは! 神の偉業を理解できぬとは所詮地上の暗愚な生物か!』


 巨体をもつ神は、いつの間にかその手に槍を握っていた。


『神槍グングニル!! よかろう、それほど神の裁きを受けたいというなら、望み通りの串刺しにしてやろう!! 汝をグチャグチャの肉片に変えてから、それを材料にクローン兵士を量産する! 今回はそれで満足してやるとするわ!!』


 罵詈雑言と共に放たれる槍の切っ先は、我が『正魔のメイス』の柄頭とぶつかり合い、その瞬間高熱によって溶かされ液状となりながら砕け散った。


『グゲェェェーーーーーーーーーーッッ!?』


 それに驚き後退する神。


『ば、バカな……!? 朕が最高の武具、神槍グングニルが……!? 投げれば必ず的に当たり、貫けぬものはないという。究極至高、世界最高の槍が……!?』


 その自慢の槍も、半分までが溶けて消失していた。


「大神ヴォータン。お前のことはおおよそ理解した。何故戦いを引き起こすのか? 何故虐殺を行うのか? その理由がわかった上で、改めてお前に言おう」


 お前を理解する前よりも、なお一層明確に……。


「お前は死ね」


 戦いは、相手を理解することが必要。

 まったくお前の言う通りだヴォータン。お前の話を聞き、お前を理解して、お前を絶対生かしておけないという思いがより強固になった。


 お前を殺す。

 お前を殺す。

 お前を殺す。

 お前を殺す。


 僕の大事な人たちを守るために、お前に殺されたたくさんの人々の無念を晴らすために。

 そして、この僕の怒りを発散させるために。

 お前は当然のように死ね。


『この馬鹿者がァァァ! 朕を怒らせたな! 全能なる神たる朕を怒らせたな!!』


 どうやらコイツも怒ったらしい。


『もはや汝など、朕の計画に組み込むになど値せぬ! 散りも残らず消滅するがいい! 「全能究極大神砲」!!』


 神の両手から放たれる、世界を一撃で破壊できるほどの大閃光。

 それを僕はよけもせずまともに浴びた。

 閃光は、僕の発する『憤怒』の灼熱の前に、触れた傍から蒸発し、何の意味もなさずに消え去った。


『グゲェェーーーーーッッ!?』

「やりたいことは全部済んだか? ではいい加減そろそろ……」


 死ね。

『正魔のメイス』はお前のことを既に悪と認識している。邪悪なるものなら何であろうと砕いて潰す『正義』の能力は発動している。


『やめろ! 朕は神なるぞ! 神への反逆は世界そのものを謗るも同じ……!!』

「偉そうな命乞いだ。情けなくていいぞ」


 メイスの柄頭が、僕の怒りと正義を込められ巨大化していく。

 我が体の表面から噴き上がる怒りの熱気も、熱で空気を歪めさせ、我が虚像を天空いっぱいに埋め尽くすほどに。


『な、なんだこれは……! ヤツの影が、蜃気楼の熱で膨れ上がって……! まるで巨人……!!』


 神は天を見上げながら言った。

 地上に立つ者すべてがそうするように。


『その身から発せられる高熱……! まるで炎のように、すべてを焼き尽くす……! 巨人……! 烈火の巨人!?』


 神はその身を震わせた。


『では……、まさに今こそがラグナロクなのか!? 朕は最終戦争の最中にいるのか!? 今目の前にしているものこそ朕が最悪の宿敵、烈火の巨人なのか!? この強き者ゴロウジローが!?』


 神がブツブツ言っているが関係ない。

 僕は慈悲なく、メイスを振り下ろした。


『朕は……! 朕は予言によって警告され、烈火の巨人に対抗するため戦力を整え、最強の兵士を生み出そうとした。その準備そのものが、烈火の巨人を生み出す工程だったというのか? では朕は……!』


 バカそのものだ。


 神の頭部にめり込むメイス。

 頭蓋を砕き、脳を潰し、その圧力で眼球は顔から飛び出し、顎は関節を外して千切れ飛んだ。

 メイスは神の正中線を正確になぞり、頭蓋を粉砕したあと脊椎のピッタリ中心を捉え、生木を裂くように真っ二つにする。

 背骨が一つずつ割れて左右に離れていく。中身の脊髄は飛び出した傍から灼熱によって蒸発し、消えてなくなった。

 やがて脊椎を全部割り終って、股間部分の骨盤も砕き、最下部にある睾丸二つも当然のように潰し砕いて、ついにメイスは神の体を真っ二つに、砕きながら両断した。

 左右に分かれた神の体は、そのまま我が『憤怒』と『正義』の力で発火し、細胞一つ残らず焼き尽くされた。


 生きとし生けるものが必ずそうなるように。

 神はみずからの悪行の報いを受けたのだ。


             *    *    *


 こうして神は死に、天界は消滅した。

 もはや天の軍勢は二度と他の世界を襲うことはなく、独善によって殺される生命はいなくなることだろう。

 天界は以後、無人の荒野となり永遠に寒風吹きすさぶだけの地になった。


 ここに命がある必要は最早ないのだ。

 僕も帰ろう。命あるものがここにいるべきではない。

 たくさんの命が、命生み育む者が待っている、僕の支配する国へ。

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