79 昇天の道
というわけで早速、天界へ攻め込むことにした僕だった。
その際、僕たちの大切な女たちの協力を得る。
まずオーク王妃ライレイ。
「私が、皆さんの『竜玉』とリンクして、力を一つに合わせればいいのですね?」
『竜帝玉』を宿すライレイが要となることによって、一つ一つでも恐ろしい『竜玉』のパワーを集約し、その力を何倍にも高めるのだ。
「アタシがゴロウジローの役に立つのよ……! アタシが『七凄悪』で最高なんだから……!」
『傲慢』リズ。
驕り高ぶるとは己を信じること、プライドが己を律すれば、それはいかなる困難にも潰されない骨子となる。
「ゴロやんの愛情も精も、全部ウチのもの……! 頑張ってウチが独り占めする……!」
『強欲』ヨーテ。
欲望はすべての行動の根源。何かを望み欲するから、それを得るために行動する。それが文明社会を作り上げた。
「……ハラショー」
『暴食』ミキ。
生物は食べることなしには生きられない。
「……フフ、結局女というものは、強い男の虜ということですか。その上心優しければもがきようもありませんね」
『色欲』レリス。
理性と本能は表裏不離。異性を愛そうとする心に、肉欲は切っても切り離せない。
「誰もゴロさんには触れさせないんだから! だけどアナコはゴロさんのこと好きでも何でもないんだからね!」
『嫉妬』アナコ。
この世はすべて相対的。自分が他者より劣っていると知らなければ現状から這い上がろうとしない。
「本当にこれでいいのだろうか……!? 軽挙妄動を慎み、慎重に事を運ぶべきでは……!?」
『怠惰』スズモン。
緩急はすべてにある。ペース配分できる者だけが、長い道のりを踏破できるのだ。
「そしていずれも許されざる罪。罪よ集いて悪となれ!!」
我が愛妻オークの王妃ライレイが、集った竜の邪悪を集約し、一つの力にまとめる。
それは、かつては考えもできなかったことだろう。
力だけを信じ、暴虐の限りを尽くしてきたオークが今、一致団結しているのだ。
変わったのは体か、心か、その両方か。
しかし今や心も体も美しい彼女たちは力を合わせて、一つのことを成し遂げようとしていた。
六つの罪をその身に集め、天を穿つ悪を撃て。
「私たちの悪よ! 神を貫け!」
ライレイから放たれた悪閃は天空へと向かって高く伸び、どこまでも、何処までも続いていくかに見えたが、その途中で天空に突き刺さり、四方八方へとヒビを走らせた。
「空に亀裂が……!?」
「空間が壊れようとしている……! 空間が破れ、次元を超えた先に天界が……!」
つまりあの亀裂をもっと広げて、人が通れるぐらいの次元の穴を開けなければ天界にはいけないということか。
それにはさらに大きな出力が必要となりそうだが、彼女たちの放つ悪閃は、ある一定のところから威力が上がらなくなった。
「ぐぬぅぅ……!」
「もう駄目……! 限界。これ以上力が出ない……!」
「やはり『七凄悪』のうち六つまででは、次元の壁を完全破壊するには至らないの……!?」
『傲慢』『強欲』『暴食』『色欲』『嫉妬』『怠惰』。……そして『憤怒』。
「その力ならここにある!! 理不尽に対する怒りの力よ!」
「ゴロウジロー様!?」
空へと向けて飛び立つ僕。
その手には、砕けぬものなど何もない魔鎚『正魔のメイス』
母は言った「正義とは怒りだ」と。
誰かが誰かを裁くことなどできない。出来るのは、各々が邪悪だと思うことへ怒りの炎を燃やすこと。
もし『正義』というものが真実あるのだとしたら、その怒りこそが『正義』。
天界のヤツらよ。
己こそ神聖不可侵とうそぶき、他者を見下し、あまつさえ不浄と称して虐殺する。
そのお前らに燃える僕の『憤怒』を受けよ!
オヤジ譲りの『憤怒』が、母さん譲りの『正義』が。
お前たちが絶対だと思っている境界線を叩き壊す!
振り下ろされた『正魔のメイス』が、ひび割れた空間を穿ち、完全に粉々にした。
「おおッ!」
「さすがゴロウジロー様!」
次元に空いた穴だが、しかし空間にはみずから再生作用があるかのように見る見るうちに塞がっていく。
これでは大軍団が行き来する余裕などまったくもってない。
「皆!」
母譲りの翼で空に漂いながら、僕は言った。
地上にいる、愛しい女たちに向けて。
「ここからは僕一人で行ってくる。キミたちは帰りを待っていてくれ!!」
「しかし! ゴロウジロー様!!」
ライレイがすぐさま心配に悲痛な声を上げた。
僕の女、旅に出てからずっと一緒にいたライレイよ。
「大丈夫、僕は必ず戻ってくる。向こうにはゲートを開ける装置があるんだろう?」
そう時間もかけずに天界のヤツらを皆殺しにして、凱旋してくるよ。
僕の子どもたちが、平和に暮らせる世界を作るために。
空間のひび割れ穴はどんどん小さくなっていき、今縫も塞がろうとしていく。
僕はその穴を潜り抜け、異界へと飛び込んだ。
「ゴロウジロー様ァーーーーーーーーーーーーッッ!!」
背中にかかる愛妻の声。
その声は僕に、必ず帰ってくることを心に誓わせるのだった。
* * *
そして到着した。
僕たちとは違う次元に在る世界、天界に。
そこは僕が今まで見たこともないものばかりだった。
水晶のように煌めく塔が乱立し、天空には白い発光体がいくつも浮かんで、昼か夜かも判断させない。
そして地上には、それを埋め尽くすほどの天使の群れ。
いずれも完全武装し、僕へ敵意たっぷりの視線を向けている。
「なるほど……、お出迎えの準備は万端ってわけか」
それもいい。
どんなクズ相手だろうと、戦う意志もないヤツを縊り殺すのは気が引けるからな。
せめてもの敬意。戦士として死んで行け。
この僕が、オークと戦乙女の息子。オークの王。二十八万のオーク娘の夫にして、彼女らの生む子供たちの父となるゴロウジローが。
「お前たちを一人残らず叩き殺す」