78 繰り返す
「………………はあ」
「まあ、宿敵天界軍が死滅してくれるなら、願ったりだけど……」
何だか皆のノリが悪い。
僕らの愛する娘たちの将来がかかっているのに!
「皆わからないのか! これから生まれてくる可愛い娘たちが、天使のクソ野郎どもに襲われたりしたら一体どうするんだ!? 今から心配で夜も眠れないぞ!?」
「ですが、オークに取って戦うことは普通のことですし。戦場での負傷や死はむしろ誉れでは?」
「それに生まれてくるのは娘だけじゃないでしょう? 男の子だって生まれてくるわよ?」
「息子とかわりとどうでもいい」
僕はキッパリと言った。
「ゴロウジロー様のお父様もそんなこと言ってそう……!」
「とにかく、天界軍を皆殺しにすることは急務です! キミらが出産する十月十日以内に、天使はあらゆる世界から一匹残らず消滅させるとここに宣言する!!」
「女オークの妊娠期間は約三ヶ月ですが」
「スケジュール巻き入りましたー!!」
忙しくなってまいりました!
三ヶ月! 三ヶ月で天使どもを皆殺しです!
やってやれないこともない! 愛する娘のためだったら父オークは世界だって滅ぼせる! それがオークという種なのだから!
火の七日間ならぬ火の三ヶ月間だヒャッハー!!
「ゴロウジロー様!! 落ち付いてください!」
見かねたライレイが、その豊満ふくよかな胸に僕の頭部を抱き寄せた。
そのこの世のものとは思えない柔らかさに、暴力的な感情がどこぞへと漏れ失せていく。
「天界軍は、不倶戴天の敵ですし、いつか倒さねばなりません。しかし急いては事を仕損じるというもの。落ち着かなければ何も成し遂げられません!」
ライレイの言う通りだった。
僕はライレイの胸に埋まりながら、冷静さを取り戻そうと思う。
まずは、脳内の荒ぶる感情をすべて放出するために、そのままライレイとまぐわい始めた。
* * *
中略。
そのままそこにいる女の子全員ともまぐわってしまった。
なんとかそれで賢者のごとき冷静さを得ることができた。
「……ねえ、アタシらってもう既にゴロウジローの子身籠ってるんだから、これ以上セックスしたって無意味なんじゃない?」
「しかし心は満たされる……。ゴロやんとエッチできて、とっても幸せ……!」
皆さんもコミュニケーションとしてのセックスを理解してくださっているようで、とても嬉しく思います。
さ、生命を生み出す作業が一段落したら、次は虐殺だ。
「レリス」
「はい」
他全員同様、色事の汗でしっぽりと濡れたレリスに尋ねる。
「天界軍を滅ぼすに、もっともいい方法はなんだい?」
「やはり、天界に直接攻め込むことでしょう。本拠を落とさない限り、敵は何度でも再起します」
もっともなことだ。
元々天界軍が送り込んできた工作員ということで、レリスは重要な情報源として頼りにしていきたい。
裏切られるかも、って?
一度抱いた女を信じてやれなくて何が男か。
「ですが、こちらが天界に渡る方法は、事実上存在しません」
「えー?」
「天界軍は、天界の超文明によって建築されたゲートを使い、次元を捻じ曲げてこちらへの通路を作り上げます。オーク軍にはそれができない以上、攻め込まれても攻め込むことはできないのです」
何と言うことだ。
ここに来て文明の差が、決定的な趨勢の差になるとは。
「ですが、オーク自身に天界に行く方法はありませんが、オークの外からもたらされた超絶の力には、それが可能です」
「え?」
「『竜帝玉』です」
オーク本来の力ではなく、竜より与えられし『竜玉』。
その頂点に立つ『竜帝玉』の起こす奇跡を、僕たちは何度も目撃した。
「大神ヴォータンが私を放ち、執拗に『竜帝玉』を奪い取ろうとした理由はそこにあります。『竜帝玉』は、ただ単に他の『竜玉』を制御するだけでなく、共振し、何倍にも力を高めることができるのです」
「前に、レリス様の『色欲』の『竜玉』とリンクできたのも、そういう理屈なのですか?」
同じく艶事の汗でしっぽり濡れたライレイが話に加わった。
ライレイは『竜帝玉』を使って、レリスの中にある『色欲』の『竜玉』を自分の能力のように操ったことがあった。
「そうです、現存する七つの『竜玉』すべてを『竜帝玉』にリンクさせ、共鳴させれば凄まじい力を得ることができます。それこそ、次元を捻じ曲げるほどの」
「では、ここにいる『七凄悪』と、オーク王妃のライレイお姉様が力を一つに合わせることで……」
天界への道は開ける……!
「凄いじゃないの! アタシ、これまで天界軍を完全に滅ぼすなんて正直無理と思ってたのに……!」
「それもこれも、すべてゴロやんが凄いから。ビバ王様、ゴロやん万歳」
他の『七凄悪』の女の子たちもやる気充溢だ!
彼女たちはかつて、自身の欲望本能だけに忠実な醜いオークだった。
しかし今では見る影もない美少女となり、僕とのセックスを通じて心が一つになっている。
それこそが、長く続いてきた戦いを終結へと向かわせる最高の武器となるのだ。
「前に『竜帝玉』をもっていた先代オーク王は、クズであるがゆえに保身しか頭になく。強力なる『竜帝玉』を更生に使おうという発想そのものがありませんでいした」
「でも、ソイツはもういない」
今の『竜帝玉』の主は、我が妻ライレイの中にある。
今こそオーク軍、今まで散々やらかしてくれてきた天界軍への反攻の契機!
「その意気やよし!」
『怠惰』スズモンが、勇み立つ。
彼女も、睦事の汗で、ポニーテールを椿油で濡らしたように、しっぽり艶めかせていた。
「今こそ乾坤一擲、天界へと攻め込む時でござる! ですが油断は禁物、何しろ敵の本拠でござるゆえ、守備は万端、かつてないほどの大軍が待ち受けていることは間違いござらん。その上、戦場となるは今まで訪れたこともない客地。勝手わからず迷い込み、時間や労力を消費するということもあり得ましょう。道案内なき行軍こそ、滅亡への一本道に他なりませぬ!!」
「……」
「よって拙者、具申いたしますに、ここは充分な調査がおこなわれるまで、現 状 維 持!!」
「「「「「「「それはもういい!!」」」」」」」
すっかりオチ担当となったスズモンだった。




