75 焼きて灰から
「ところでレリス様……」
「はい?」
「なんでまたオーク娘の格好しているんです?」
ライレイが指摘するように、死の淵から蘇ったレリスの身体的特徴は、女体化したオークのそれだった。
浅黒い肌。尻からぴょこんと飛び出した細い尻尾。等々。
本来彼女は、天界が放った潜入工作員で真の種族はヴァルキリーのはずでは?
「私は知りませんよ? 私が潜入のためにメスオークを装っていたのは、『愛』の能力によるものです。あれはDNAを操りますから生体を直接操作する『色欲』の能力より微妙な操作ができるんですよ」
そんな専門的なことを言われても……!
なるほどわからん!!
「ライレイ王妃は私が持つ『色欲』の『竜玉』とご自分の『竜帝玉』をリンクさせましたが、その時無意識に『愛』の『神玉』ともリンクしていたんじゃないですかねえ?」
「それでレリス様をオーク娘に変えてしまったと?」
「そう考えるしか。治療の過程で『愛』の神玉は失われてしまいましたし。もう任意でヴァルキリーの姿に戻ることは不可能そうですねえ」
白磁の肌、天使の翼。
それらを持つヴァルキリーレリスはもう見れないということか……。
なんか惜しいような気が……。
「その日の気分で、オークレリスとヴァルキリーレリスで設定し分けられると思ったのに……」
「ゴロウジロー様、そんなオプションをご希望で!?」
はい、ご希望でした。
「私も、レリス様がヴァルキリーなら、メイデみたいにおっぱいから絹糸出してくれるかと期待してたんですけど……!」
「ライレイ王妃まで!?」
「だって、これからオーク王国二十八万の乙女たちもオサレに目覚め、衣装の消費が鰻登りになると思うんです。その時需要を支えるのがメイデ一人だけじゃ可哀相じゃないですか」
「私までカイコ代わりにする気か!?」
ライレイも、王妃になってから随分落ち着きが出てきたというか、図太くなったというか……。
既に肝っ玉母さんの貫録が漂いつつある。ホントにウチの母さんみたいだ!
「……まあ、私は本来敗残の捕虜。いかような扱いを受けても当然の身ですから。処刑されようと肉便器にされようと、抗わずただ受け入れるのみです」
「バカ言わないでください! レリス様をそんなにするために助けたわけではありません!!」
声も厳しく否定するライレイ。
まったく僕も同感だ。
「そうだぞ、僕たちがレリスにしてほしいことは、ちゃんと決まっているんだ。レリスには、僕の子どもを孕んで……!」
「母親になってほしい、と言うことですね!!」
僕とライレイの意思が完全同調。
「わかりましたよ!! ……まったくこの元童貞と元処女は! 経験済ませた途端、飛躍的に精神強くなりやがって! 完全降伏ですよ!」
「完全幸福?」
「違う! ………………いや違わない?」
とにかくも、こうして降って湧いた戦いにも万全の形で勝利した僕たち。
ライレイを正式の王妃に迎え、二十八万のオーク娘たちとも立派に関係を結び、レリスをも屈服させることができた。
「ゴロウジロー様、そろそろ戻りましょう。オーク城に残してきた女たちがそろそろ目を覚まします」
「そうだな、朝だしな」
朝は皆目覚めるものだ。
「戻っていよいよ、新生オーク王国の具体的な運営プランを練り上げるとするか……」
「まずはレリス様のおっぱいから絹糸が出ないか実験してみましょう! 何事も理屈よりも実証してみることが大事なのだと私は知りました!」
そうだね。
二十八万人に種付けなんて絶対無理だと思っていたけど出来たもんね。
「うう……、この人たちの強さが一部の隙も無い……!」
酷くくたびれた印象で僕たちの後ろをついていくレリスだった。
「ところで……」
「ん?」
「これ、どうします?」
もう用はないと立ち去ろうとした矢先、それを許さぬ産業廃棄物の存在を再確認。
……一度溶けて固まった、大量の肉片。
何と言うか、レリスが僕に対抗するため取り込んだ、二人の『七凄悪』と二人の『七神徳』、計四人。
ソイツらは、レリスを覆う肉の鎧となって僕に対抗するための切り札となったが、同時にレリス当人のキャパシティを超えた『竜玉』『神玉』のエネルギーは彼女を蝕み、崩壊寸前にまで追い詰めた。
いや、僕らが手を加えなかったら確実にそうなっていただろう。
僕は、自身が発する『憤怒』の灼熱で余計な部分を焼き払い、レリスの体から排除した。
その排除した余計なものが、あのケロイドだ。
最終的な言い方をすれば、かつて『七凄悪』『七神徳』だった最強の四人の、混ざってグチャグチャになったものの慣れの果て。
「本当にどうしようか……、これ?」
放っておいたら確実に環境に悪い気がする。
何か特別な処理をして、しっかり廃棄しないといけないというか、それ以前に元来は知的生物であったわけだし、尊厳をもって葬るべきか?
「まあ、元々はクズであること疑いない『七神徳』と『七凄悪』だからなあ。こうなっても同情の余地は薄いというか……!」
「『七凄悪』の方々も、ゴロウジロー様にメス化させてもらえれば気のいい人になったかもしれないですが。すべては出会い方次第なのですね……!」
そうだなあ。登場人物、総クズが当たり前と言ってもいいこの世の中、すべては出会い方次第か。
ライレイとの出会い方も幸運だった。
リスやヨーテ、メイデとの出会いも幸運だった。ミキ、レリスとも。
「コイツらとの出会いは、あまり幸運じゃなかったな」
もはや原形もわからない肉液に、哀愁を感じる僕。
仕方ない。せめて死者の尊厳を与えて、土に埋めて墓でも建ててやるか。
そう思って腰を上げようとしたところ……。
「……ん?」
何か変化が。
その接近もしたくないほどおぞましいケロイド肉液から、ブクブクと気泡が浮かび上がって。
「ぶはあッ!!」
「ふぐぅッ!!」
なんか人が浮かび上がってきた!?
二人! しかもかわいい女の子!?
ケロイドの池から這い上がって、見るも無残な状態となった女の子二人は言った。
「し……! 死ぬかと思った……! いや一回死んだ!? ……ような気がする」
「僻地で天界軍と戦っていたら……! 何か飛んできて……、そこからの記憶がないでござる……! 長い悪夢を見ていたような気がするでござる……!」
…………。
その、肌の色から何からオーク娘と判断できる彼女たち二人を見て思った。
『七凄悪』のメンバー。
『嫉妬』アナコ。
『怠惰』スズモン。
まさかの生還でございます……!!




