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69 ガルガリン

「何だあれは……!?」


 天から降りてくる異質なるモノに、僕は戸惑いを隠せなかった。

 最初、僕はアレを天使だと思ったが、見れば見るほどその自信はなくなってくる。


 背中から翼が生えているから一目見て天使だと思ったが、それは二対四枚でX状に伸びている。

 本体も辛うじて人型を維持しているものの、手足が破裂寸前の風船か何かのようで、つまりパンパンに太い。

 体内にガスを溜めた水死体か、寄生虫が体中に巣食った宿主か。

 そんなおぞましい想像しかできない、天使のような怪物は、僕たちを上空から見下ろしていた。


 ただものでないのはわかる。

 天使かどうかは別にしても、翼があることから天界の関係者であることは間違いないだろう。


 つまり敵だ。


 これまでで一番彼女たちを尊いと思えたこの日に、とうとう彼女たちを傷つけに来たか。


『『『『…………』』』』


 そのおぞましい翼の者は、数本の腕を束ねて一本にしたかのような太腕をこちらに向けてきた。


 その腕から吐き出される猛炎。


「!?」

「ゴロウジロー様! お下がりを!」


 突如として僕の前に出たライレイ。両手をかざすとその先に透明な壁のようなものが発生し、後ろで寝ているオーク娘たちを一飲みにしそうな大炎をシャットアウト。

 炎は欠片も女の子たちに届かない。


「ライレイ!? 今のは……!?」

「私の中にある『竜帝玉』の力です。やはりあの玉は、他の『竜玉』を制御するだけのシロモノではなかったようです……!」


 僕との結婚を機に、ライレイは自分の中にある『竜帝玉』をどんどん使いこなせるようになっている……!?

 凄いじゃないか! まさしく名実ともにオーク王妃だ!


『……見事』

『アナタが「竜帝玉」の新たな宿主となったのは、オークにとってはこの上ない幸運だったようですね』

『素晴らしいと言うべきか、口惜しいというべきか……』

『ゴロウジロー様ともども、相手にとって不足はなしですか』


 なんだ?

 上空にはあのバケモノ一体きりなのに、話し声は四人分ある?

 ……クソッ、夜の闇のせいでアイツの顔までよく見えない。

 目を凝らして注視してみると……、ッ!?


「ヒッ!?」


 思わず声が出てしまった。

 あのバケモノには四つの顔があったのだ。

 四つのうち二つは、オークのブタの顔、残り二つは恐らく天使の男性顔。

 それぞれが苦悶の断末魔の表情で固まっていた。あの口からそれぞれ声を出していたのだ。


『ゴロウジロー様、アナタとの戦いのために……』

『この最強の体を用意させていただきました』

『いかなアナタと言えども、四つの力の力押しに耐えきることができますか?』

『今こそアナタのすべてを見せていただく時!』


 すべてを見せろも何も、今フルチンだから望み通りいくらでも見れるよ!


「……ッ! 来い!」


 右手を上にかざすと、どこからともかく巨大な鉱物の塊が飛んできて、我が手に収まった。

 ライレイ同様、僕と共にずっと戦ってきた得物『正魔のメイス』。

 母から贈られた万物を砕く凶器。何も着ていなくてもこれさえあれば充分だ。


「ライレイ! さっきの技で女の子たちを守ってくれ! 頼むぞ!」

「はい!」


 後ろを任せられる相手がいるというのは頼もしい。

 背中からヴァルキリーの翼を広げ、僕もまた敵の待つ空へと羽ばたく。


『『『『…………ッ!!』』』』


 肉の塊が両手をかざし、そこから放たれる猛炎と衝撃波。


「ッ!? 二種類の力!?」


 しかし我が『憤怒』の灼熱は、炎すらも瞬時にして焼き尽くす。

 異なる力が同時に襲おうとも意味はない。

 炎も衝撃波も容易く砕け散り、一直線に怪物の目前に到達する。

 コイツが何かはまだわからない。

 しかし僕の大事な女たちにとって有害ということだけがわかれば充分だ。

 砕け散って消え去る理由としては。


「一塊でも見るに堪えない肉塊なんだ。砕け散ろうと同じだろう」


 太腕が第二撃を加えようと動くが、僕の方がずっと速い。

 振り下ろされるメイスの柄頭が、四つの顔の連なる不気味な頭部の頂点にヒット。一拍も置かず千々に砕けて破裂した。


「終わりだ」


 いかなる生物でも、頭を失っては生きていないだろう。

 残った首から下は、今しばらくそのままにして、コイツが何者なのか調べる材料に……。


「フフフ……。さすがですねえゴロウジロー様……」


 !?

 頭部を砕いたにもかかわらず、肉塊から声が。

 でもどうやって!?

 まだ生きていること自体驚きだが、何処から声を出している!?

 頭を砕いたってことは、口もなくなったってことで、そしたらどこから声を発すればいいんだ!?


 僕がただただ驚き戸惑っていると、首のなくなった手足のみの肉塊が、中央から縦に割れ始めた。


「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


 まるで観音開きのドアが開いていくかのようだった。

 そして開いた肉塊の中から……、知ってる人が現れた。


「レリス……!?」


オーク軍『七凄悪』の一人、『色欲』レリス。

 しかし何だ? このおぞましい肉塊の中から出てきた彼女の姿は。

 以前見た時とは肌の色が全然違う。オーク娘特有の浅黒い肌ではなく、白磁のように白い肌。体中から発せられる、ヒリヒリするような清浄な霊気。

 そして、彼女自身の背中から伸びる翼。

 その様相。それはまるで……。


「ヴァルキリー……!?」

「そうです、私の正体はヴァルキリー。アナタのお母上や、そちらにいるメイデと同様、神によって作られた生命」


 僕の知っている、しかし決してそうではないレリスは言った。


「改めて名乗らせていただきます。私はレリス。天界軍『七神徳』の一人、『愛』のレリス」


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